B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吠えてみました」

 「菅首相の続投おめでとう」の言葉は、何より朝日新聞に贈りたい。前々回の当コラム「マスコミは菅首相の応援団?」でも触れたが、民主党代表選挙の告示後も、同紙の論調は他紙に際だって「親菅・反小沢」の一辺倒だった。
 9月2日付の社説「小沢氏では財政が心配だ」に始まり、3日付で小沢さんの手法を「熟議の民主主義とは対極にある」とこき下ろし、4日付「仮に訴追を受けたなら…」で「裁判闘争をしながら、最高指導者の重責も果たす。そんなことが現実に可能だろうか」と首相失格の烙印を押す。普天間基地の移設問題を取り上げた5日付では「日本の安全をどう守り、その中で日米同盟をどう位置づけるのか、小沢氏には全体像を示す責任がある」と、こてんぱん。そして、6日付の世論調査「『首相には菅氏』65%、小沢氏は17%」。
 菅さんのことは「クリーンでオープンな民主党を、と唱える」「『全員参加』型の意思決定を唱える」と持ち上げ、その主張に対しても、あまりケチを付けていないのと対極である。
 これだけ、新聞が作ったもっともらしい「世論」なるものを見せられれば、民主党の国会議員だって抗いにくくなるわね。後々まで「あいつは小沢に入れた」と言って足を引っ張られるだろうから、朝日新聞に。だって、8日付社説では「民主党議員へ」と題し、小沢さんのやり方は「改革の狙いからは明らかに外れている」から「派閥の論理とはきっぱり縁を切」って(菅さんに)投票しろ、と求め、さらに代表選当日の14日付社説でも念押しする執拗さ。自民党政権時代の読売新聞や産経新聞よりも露骨だ。
 それにしても、ここまで菅さんを応援して、この新聞、これから何をしようとしているのだろうか。消費増税を一緒に謳って財務省や財界に仲良くしてもらったり、普天間基地の辺野古移設を後押ししてアメリカにキスしてもらったりすることが、そんなに嬉しいのか。一時ネット上で話題になっていた「主筆をアメリカ大使に」といった思惑でもあるのでは、と勘ぐっちゃうよね。知り合いの朝日記者は「私たちと縁遠いところで社論が決まるのは毎度のことだけど、今回はそこに『自分たちが政権・政局を動かしている』と勘違いしている様子がはっきり窺えてしまうから、かなり深刻」と困った様子だったけど。
 いずれにしても、ここまで政権べったりのメディアには、権力の監視や批判は期待できまい。これまで以上に。
 ところで、前々回の当コラムには批判もいただいた。要約すると「バリバリの改憲派の小沢さんを、お前は首相にしたいのか」という内容である。「護憲派」とおぼしき方からは、私に対して「護憲を名乗る資格はない」「マガジン9から降りなさい」との心温まるご忠告だ。あああ、少しでも自分と意見が違うと追い出しにかかる、旧来の「護憲派」おなじみの排除の論理…。
 そもそも、前々回のコラムは「菅さんに甘いマスコミ」の背景を書いたもので、小沢さんへの支持を呼びかける論旨ではない。それを抜きにしても、私が今回の民主党代表選で、小沢さんの方がマシだと思ったのは、普天間基地の移設問題と消費増税の2点である。普天間について言えば、「もう一度、アメリカや沖縄と話をしたい」とする小沢さんに対して、菅さんは何ら前向きなことを公約しなかった。
 菅さんの続投を支持した「護憲派」の人たち(朝日新聞を含む)に問いたい。じゃあ、あなたは、普天間基地の辺野古移設を見直すつもりが全くない菅首相を応援するのですね。菅首相が日米同盟重視の名の下に、沖縄の人たちの反対を押し切ってまで普天間基地を辺野古に移設することに賛成なのですね。名護市議選で、ああいう結果が出ているのに。
 普天間基地の移設問題には、憲法9条と日米安保条約の矛盾が最も如実に表れていることは、今さら言うまでもない。9条の「条文」を守ること。その大切さは、私も賛成だ。ただ、条文の理念は具体化しなければ意味がない。普天間を沖縄の外に、日本の外に出そうとすることこそ必要だと考える。
 そのために、社民党が連立を離脱した今の政治情勢の下、少しでも方向が合う層と、可能な限り連携していくことが不可欠である。だって、「護憲」を標榜する政党の国会議員が、悲しいかな、いったい何人いるんですかい?
 2人のどちらかを選ばなければならない民主党代表選挙において、少しでも普天間の辺野古移設を見直そうとしていたのは小沢さんの方だった。確かに「改憲派」かもしれないが、そこにばかりこだわっていたら何も進まない。多少のリスクを負わなければならない状況なのだ。小沢さん、少なくとも今は「改憲より生活重視」と明言しているわけだし、もちろん改めて改憲を言い出したら徹底的に反対しますよ。
 一方の菅さん、6年前の党代表時代に「新たな憲法をつくる『創憲』を主導したい」と提唱している。おまけに、9条について「解釈改憲は健全な憲法運用ではない」とも。市民派出身という看板が本質を隠しているが、実は「改憲派」なのです。
 このコラムにも書いてきたが、菅さんの「強い自分に酔っている姿」がとても気になる。選挙の時に触れるのはタブーと言われる消費増税をあえて持ち出したのは、一例だろう。独裁者志向のニオイを感じてしまう。こういうタイプ、往々にして、次に言い出すのは「9条改憲」だよ。個人的な印象だけど。
 その時には、朝日新聞はじめマスコミこぞって(おそらく東京新聞以外)、「やむを得ない」という論調で菅さんを後押しするのだろうか。「消費増税ファッショ」に続く「改憲ファッショ」が訪れないことを祈る。
 官僚、アメリカ、そしてマスコミとまで一体になって、日米同盟重視で動き出す菅首相の今後に、大いなる不安を感じている。そんな首相の下で、名実ともに憲法を守っていくには、多大の覚悟が必要である。心したい。といっても、「護憲を名乗る資格がない」私には関係ないか…。

 

  

※コメントは承認制です。
第17回 菅首相の下で
「護憲派」には覚悟ができているか
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    ツイッターなどでも、かなり話題になっていた
    某大手新聞社説の「偏向ぶり」。
    一部では不買運動にも広がりそうなほどの反感をかっていましたが、
    その一方ではまだまだマスメディアの影響力の大きさを、
    見せつけられた今回の「代表選」でもありました。
    イメージ戦略にまどわされないよう、
    自分たちの頭でしっかりと考える力を身につけたいと思います。

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どん・わんたろう

どん・わんたろう:約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。 派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。 「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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