雨宮処凛がゆく!

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「反貧困ネットワーク準備会」の会議で
「自立生活サポートセンター・もやい」の湯浅誠さんと。
なんかどっちも会議中というより、農作業中みたいだな・・・。
特に湯浅さんの手ぬぐい・・・。

 週末、大阪で二日続けて講演をしてきた。
 ワーキングプアの実態やその背景などについて話してきたのだが、どこかに講演などで行くたびに、興味深い話をいくつか聞く。
 今回印象的だったのは、息子さんがフリーターという人の話。ある時浜松の工場に派遣で働きに行ったものの、帰ってくるお金がなく、親に10万円送ってもらってやっと帰ってこられたという。こういう話はよく聞くが、この話にはいろんな問題が詰まっている。
 まず、なぜ稼ぎに行ったのに、「帰るお金もない」という状況に陥ってしまうのか。そして親がもしお金を送ってくれなかったら、或いは頼れる親がいない場合には、どうなってしまうのか。フリーターの息子さんを持つという違う女性にも似たような話を聞いた。地元から出て一人暮らしをしながら働く子供が電話も電気も止まるような生活を繰り返し、一文無しで家に戻ってきたという話だ。 
 なぜ、彼らはここまで「食えない」のか。

 はっきりと原因がある。まず、工場に働きに行っても「帰るお金もない」という問題。なんで? 昔は工場で働けば、それなりにお金を稼げるものだった。しかし、今は帰るお金もないほどの状態に容易になってしまう。それにはまず、求人広告の問題があるだろう。求人広告には「月収30万以上可」なんて言葉が踊る。仕事のない地方の若者はその数字に飛びつくわけだが、実際に働いてみると、寮費や光熱費、夏と冬にはエアコン代、テレビ、こたつなどの「レンタル料」がいちいち毟り取られ、手元に残るのは12、3万。最初から誇大広告なのだ。
 「群像」での私の連載「プレカリアートの憂鬱」では、製造派遣で働く人達で結成された「ガテン系連帯」に取材しているが、彼らの話を聞いて、「自動車絶望工場」(編集部注)以下の世界が当り前に広がっていることに驚いた。例えば、派遣の年収は250万、期間工(自動車絶望工場での著者の立場)は400万、正社員は500万、といった具合で、同じような仕事をしていても倍の格差がついてしまう。期間工のその下に位置する「派遣」という身分。規制緩和によって製造業にも派遣が可能となったからこそ、この立場は生まれた(それ以前には偽装請負という形で蔓延していたが)。この待遇には、「自動車絶望工場」の鎌田慧さんも驚き、「昔の暴力飯場でもテレビとかはタダだった」と言っていたという。

(編集部注)

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ルポライターの鎌田慧さんが
1973年に発表したルポルタージュ。
自らがトヨタ工場で、期間工として劣悪な条件下での
労働に従事した体験が描かれている。
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 その上、製造業の派遣では、半年以上働かないと往復の交通費が自己負担だったりする(いくら半年以上働けると言われても、向こうの都合で2、3ヵ月で切られてしまうことはザラにある)。例えば、私の出身地である北海道から愛知の工場に派遣されていて3ヵ月で追い出された場合、往復の交通費だけで10万円くらいかかってしまう。これじゃあ「帰る金がない」のも当り前だ。しかも、「○ヵ月以内に辞めた場合はハウスクリーニング代として1万5000円」なんて決まりがあるところもあるらしい。どこまでも毟り取られるシステムが先にできているのだ。ある派遣会社では、登録の際にカードが発行されるが、それでサラ金も借りられるようになっている。最悪借金漬けにされるのだ。

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同じく「反貧困」の会議で宇都宮健児弁護士と。
宇都宮弁護士は「餅つき」が上手いそうです。

 製造業で派遣で働き、帰るお金もないとどうなるか。家と仕事を同時に失った時点でそれこそ「ネットカフェ難民」の入り口である。親がいなかったり「いい加減ちゃんと働きなさい!」と意味のない説教をされてお金を借りられないと、彼らはとりあえず近場のネットカフェなどに泊まり、仕事を探すだろう。しかし、住所がないので定職にもつけない。そうして日雇いの日々が始まる。

 では、普通にフリーターをしていて一人暮らしで「食えない」状態とはなんなのか。それは最低賃金の設定に尽きる。全国最低の最低賃金は610円。1日8時間、月に22日働いても11万以下。以上。
 それにしても、多くのフリーターは、パートの主婦とまったく同じ状況で働いていることに目が向けられることはほとんどない。稼いでくれる旦那がいて、扶養家族である主婦が「家計の補助」としてパート労働するのとまったく同じ時給、同じ待遇で、彼らの多くは家賃、光熱費、食費、生活費すべてをまかなわなければならないのだ。どうしてこの部分に焦点が当てられず、「だらしない」とか意味のないバッシングがまかり通っているのだろう。冷静に物事を見る人が少なすぎる。「正社員になればいい」って? だけど3人に1人が非正規雇用のこの時代、自分1人が脱フリーターしても意味がないことに当事者の多くは気づいている。1人上がれば1人落ちる。それは、今の社会、企業が「非正規雇用を必要としている」からだ。心の問題に矮小化せず、普通に「経済の問題」として見れば概要が理解できる。

 さて、先週、厚生労働省がネットカフェ難民の調査結果を発表した。調査結果によると、ネットカフェ難民は推定5400人。この調査結果を受けて、業界団体が「ネットカフェ難民は差別語」と抗議し、使用を控えるように呼びかけた。言葉の使用を控えたところで問題は当り前だが何も解決しない。解決に近いのは、福祉事務所などが率先して「難民」がいるネットカフェやマックに生活保護受給に関するチラシなどを置くことだろう。今現在、住むところも所持金もないなら、法的には生活保護だ。たまたま住むところを失った彼らはすぐに働けるし(というか、今だって働いている)、生活保護も長期化しないはずだ。
 現在400万人と言われるフリーターの1%が野宿者化するだけで、4万人のホームレスが生み出されることになる。1割だったら40万人(生田武志「ルポ最底辺」より)。その時に大騒ぎしても仕方ない。

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生田武志さん著・「ルポ最底辺」はフリーターの
野宿者化の問題が非常によくわかります。オススメ。
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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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