雨宮処凛がゆく!

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11月6日の「オールニートニッポン」。「格差社会と
教育を考える」と題して、森永卓郎さん、寺脇研さん、
足立区の定時制高校教諭の元木さんなどが出演。

 前回の原稿で、次回の連載で赤木さんの本について更に触れたいと書きながらも、まだ最後まで読み終えていない雨宮です。だって、またしても今月の講演が15本超え。〆切も同じく。日帰り福岡とか日帰り大阪とか頻繁にしてると、何のために生きてるんだかわからなくなってくる。過労って、心がすさむぜ。
 さぁ、気を取り直して。今年もまた「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉」がやって来る。04年から秋の深まる頃に開催されてきたこの祭に、私は去年からかかわらせてもらっている。昨年のテーマは「逃亡の想像力を手放さない」。「戦争からの逃亡、労働からの逃亡」が掲げられていた。そして今年のテーマはあまりにもシンプルに「生きのびる」。呼びかけ文にはこうある。
「戦争を見据え、生きることを自己責任にするこの社会は、変わらず人殺し作業への心と体のふるまいの動員を強め、私たちの労働や居住、生の基盤を不安定にしています。しかし一方で、状況を〈生きのびる力〉は、さまざまに場所を作り出すことで表現と交流を強めてもいます。戦争への協力と参加は持続的な批判と抵抗にさらされ続けているし、不安定さへの抵抗は貧困とピンハネを社会的な論点へと押し上げています。その先に、人々が交錯し結びあいを繰り返してつながり方を様々に変化させるこれらの試みの先に、私たちは「生きのびる」道を、孤立の果てに生き残る方途ではなく、私たちが「生きのびる」道を見い出していきたいと考えています。
 黙ってやられることは決してない。徹底して想像力を行使して、動員に肩透かしを食らわせ空洞化させていく。この姿勢で戦争と労働にまつわる問題に切り込み、表現し、交流する場を作っていきましょう。(後略)」

 さて、フェスタは12月1日、千駄ヶ谷区民会館で午後1時から9時まで開催される。中身がまた盛り沢山で豪華だ。1時からは戦争、農業、死刑、改憲、G8について。そして4時からは原宿・渋谷をサウンドデモ!! デモから帰ってきた後はネオリベラリズム、労働運動をテーマに、ワーキングプアの反撃の数々が報告される予定だ。そして7時からは討論会。題して「戦争は貧者を求める。貧者は戦争を求めるか」というタイトルで、「希望は、戦争」の赤木智弘さんを呼んでみんなで大討論会! 司会は私とフリーター全般労組の山口素明氏。
 あー、わくわくする。このテーマ設定と、死刑や農業やG8までを組み込んだ先に「生きのびる」とブチ上げたセンスって素晴らしいと思うのだ。ここに今、もっとも考えなければならない全部が詰まってる。そしてそれは一見無関係に見えても、私たちの「生きづらさ」に密接にかかわっているのだ。とにかく「周りは全員ライバルで他人を蹴落としまくってお前だけが生き残れ」という圧力が強まっている中で、みんなで「生きのびる」方法を模索する、ということは、それだけで抵抗だし、闘争だ。「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉」についての詳細はこちらで。

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※サイトにリンクしています。

 さて、もうひとつ、素晴らしき「生きのびる」ためのネットワークが発足される。それは「反貧困たすけあいネットワーク」。NPO自立生活サポートセンター・もやいの湯浅誠氏や、首都圏青年ユニオンの河添誠氏が呼びかけ人となっているこのネットワークは、働いても食べて行けない上、企業福祉からも公的福祉からも漏れてしまう若者たちが助け合うネットワーク。非正規雇用ゆえ雇用保険に入れず、組合費も払えないので労働組合にも入れず、保険料が払えないので保険証もない、という人々が急増する中、月300円の会費で休業補償や無利子の貸し付けが行われるのだ。病気や怪我で働けなくなった時(フリーターには何の補償もない)、1日1000円、最大1万円が支給され、生活資金も無利子で1万円貸し付けられる。若者がここまで不安定化、貧困化したのは明らかに「政策の失敗」であり、こんなことは国が率先してやるべきだが、国が動くのを待っていたら飢え死にしてしまう。ということで12月下旬に発足される。常に失業を前提とした不安定雇用の若者は、1日のカゼで失業してしまう。職探しに一週間かかれば家賃滞納。サラ金に手を出して多重債務者、という道が露骨に見えている中で、こういった具体的な取り組みほど意味があることはないだろう。11月22日には、六本木スーパーデラックスで「BREAD AND ROSES 私たちにパンと誇りを!」と題した立ち上げイベントを開催。私も別の講演後に駆け付ける予定だ。詳しくはこちらで。

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※サイトにリンクしています。

 この日のビラには「生きづらいのは自分のせいではない。働いても食うに食えない若者たちが、自分たちの手で状況を切り開くための助け合いプロジェクトをスタートさせる!」とある。ネットワークでは、労働者としての権利の行使やサラ金の危険性について、また生活保護受給についてなど、具体的なノウハウをメルマガという形で提供するそうだ。ここでも「生きのびる」ための抵抗が始まっている。あまりにも具体的に。
 つーか、「生きのびる」、たったそれだけのために若者がここまで声を上げたり行動しなきゃならないなんて、本当に最低最悪の状況だと思うのだが、今生きられている人には実感がないんだろうな。そういうところにこそ、「格差社会」を感じるのだ。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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