雨宮処凛がゆく!

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12月5日、阿佐ヶ谷ロフトAにて「プレカリアートの越冬」
イベント。左から湯浅誠さん、私、グッドウィルユニオンの
梶屋さん、エム・クルーユニオンのウイスチワオさん。

 12月1日夕方、表参道を歩いていた人々は幸運だ。なぜなら、歴史的な瞬間を目撃できたからだ。歴史的瞬間とは、「反戦と抵抗の祭〈フェスタ〉」のサウンドデモ! 今年はなんと2台のサウンドカーが登場し、400人の魑魅魍魎が歌い踊りがなり叫びまくる百鬼夜行なデモ隊が出没、表参道を大混乱に陥れたのだから。

 年末が近いので、勝手に今年を振り返ろう。

 今年を一言で言い表わすならば、私にとっては「ワーキングプアの反撃」の1年だった。

 この連載を読み直してもわかる通り、呆れるほどデモに参加し、集会に行き、なんかいろんなとこでいろんな金持ちに文句をつけまくった1年だった。

 そうしてやたらと本を出した。3月に「生きさせろ! 難民化する若者たち」を出し、5月に「右翼と左翼はどうちがう? 」を、7月に福島みずほさんとの対談本「ワーキングプアの反撃」を、9月に「雨宮処凛のオールニートニッポン」を、10月に「プレカリアート」を出版した。

 もの書きになってから7年目だが、こんなペースで本を出したのは初めてだ。よく「いつ書いてんの? 」と言われるが、自分でも謎だ。

 で、労働/生存運動でもいろいろあった。

 4月の「自由と生存のメーデー07 プレカリアートの反抗」が大成功したり、5月に福岡で「5月病祭り」のデモに参加したり、6月のアキバデモで衝撃を受けたり、そして最近は12月の「生きのびる」デモが大成功したり。って、思い出が全部デモ。それしか楽しみがないのか? という感じだが、デモ、面白いんだもん!

 つーか、以前から、いつかデモを「主催」する側になりたかった。9・11以降のアフガン攻撃反対デモくらいからデモにはよく参加しているが、どうやってこういうデモを作るのか、非常に興味があったのだ。それが去年あたりからプレカリアート系のデモに実行委員の立場としてかかわれることになり、私は知った。もはや、デモを「作る」ことはアートだ、と。あれって絶対路上アートなのだ。路上を数百人で切り裂いて、それぞれが思いきり表現する。全身で。そのために、音楽やDJやサウンドカーや、様々なしかけが用意されている。

 これはプレカリアート系のデモに参加したことがない人にはわかりづらいかもしれないが、普通のデモとは明らかに違うのだ。まずやっぱりサウンドデモだし、みんな踊ってるし、いろいろパフォーマンスがあったりするし。だから参加者に、よく「寺山修司の街頭演劇みたい」という意見を聞く。去年のフェスタではなんと秋田の「なまはげ」まで登場したし。一体何を目指しているんだ?

 とにかく、みんなで何かを「作る」ことは楽しい。学園祭前夜の気分。これは私が学生時代、そういうものにまったくかかわれなかったという事情も大いに関係しているだろう。中学時代はいじめられっ子、高校時代は家出少女でバンギャであまり高校に行かなかったので、そういう機会のないまま大人になってしまった。そういう意味では、30歳過ぎて「青春」を取り戻しているのかもしれない。30歳過ぎた大人が本気で「青春」を取り戻そうとするとやっかいだ。どうしても大掛かりになる。

 さて、今出ている「AERA」(07.12.17)の「現代の肖像」を御覧頂けただろうか? 6ページにわたって私が紹介されている(ここでも「デモが一番好き」とかばっかり言っている)。今回は「プレカリアートのマリア」ではなく「ワープアのミューズ」! この間、日テレに出た時には「ネットカフェ難民の女神」とかって肩書きになってるし、なんか前半の言葉と後半の言葉の落差という意味ではほとんど「下町のナポレオン」と同列だ。

 ハッ、「今年を振り返る」とか書きながら、まったく振り返るのを忘れていた。とにかく、たくさん書いてたくさんデモしてたくさん叫んでたくさん集会に行ってたくさん講演した1年だった。そしてそして、一番嬉しいのは、たくさんの「同志」ができたこと。1年前、まったく関わりもなく、知らなかった人たちと今、怒濤のように連帯し、なんかずーっと前からの仲間みたいな感じになっている。私は同志ができることが一番嬉しい。きっと「友達」は裏切るけど、「同志」は裏切らない。

 「生きのびる」ために連帯した1年。来年もこの「貧乏連帯」の輪を広めたい。

※12月14日の「雨宮処凛のオールニートニッポン」公開生放送イベントでは、今年1年の「ワーキングプアの反撃」や「反貧困運動」を振り返ります、ゲストはなんと「反貧困ネットワーク」代表の宇都宮健児弁護士と「派遣ユニオン」の関根秀一郎さん、そして「ネオリベ現代生活批判序説」編者の白石嘉治さん。詳しくはこちらで。

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12月8日、井上ひさしさんが校長の「生活者大学校」にて。
「反貧困たすけあいネットワーク」に、なんと7万8880円の
カンパが一瞬で集まりました! 実行委員の皆さん、参加者のみなさん、
本当にありがとうございます! (翌日、たすけあいネットワークに
渡しました。みんなで大感動してます)

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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