雨宮処凛がゆく!

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人の原稿の上を占拠し、「遊べ」と
座り込み中のうちのつくし。

 皆さんも御存知の通り、グッドウィルが事業停止を食らった。違法派遣なんかを繰り返していたからである。この背景には、グッドウィルユニオンなどの「ワーキングプアの怒濤の逆襲」があることは誰の目からも明らかだろう。「折口ちょっと来い!」と横断幕を持って六本木ヒルズで暴れたのが7月。8月には「データ装備費」の返還を求める集団訴訟が始まった。そして今回の事業停止だ。「黙っていたら生きられない! 」。「折口ちょっと来い!」の日、六本木ヒルズにはためいていた横断幕にはそう書かれていた。本当に、黙っていたら生きられない。だけど、黙ることを辞め、沈黙を破って叫びだすと意外と道は開けたり、絶対に動かないと思っていた大きな山が動いたりする。このことを、私はプレカリアート運動にかかわってから何度も体験した。これってものすごく面白い。
 今回の事業停止に関して、グッドウィルユニオンが声明を出しているのでぜひ読んでほしい。やはり心配なのは、事業停止の間、仕事にあぶれてしまう人の問題だろう。

 ああ、それにしても、「日雇い」という言葉が21世紀にしてここまで浸透するとは思わなかった。私は00年に一冊目の本を出して以来、文筆業で食べているが、数年前まで「日雇い」という言葉自体が「差別用語」っぽい感じで使用するのが非常に微妙だったような記憶がある。例えば確か「巨人の星」で「父ちゃんは日本一の日雇い人夫」という台詞が問題になったりなど。それがたった数年で、ここまで「日雇い」という言葉が当り前になるなんて、誰が予想しただろう。それ以外にも時代が逆戻りしたような言葉がこの1、2年で私の周りに溢れた。フリーターや派遣の人や、いわゆるワーキングプアと言われる人々と接する機会が多いのだが、彼らの口から当り前に「搾取」「階級」「身分の高い人・階級の高い人(正社員層を指す)」「ドヤ」「飯場」「手配師」「寄せ場」なんて言葉が飛び出すのだ。例えばホームレス経験のある若者にその理由を聞くと、「いやぁ、"食いつめ"ですよ」なんて台詞が飛び出すこともある。「食いつめ」って、なんとなく「プロ」っぽい響きで、有無を言わさず人を納得させる力がある。そんな彼らが働くのは、やたらとカッコいい横文字の名前の派遣会社。妙にきらびやかな世界を連想させるような。その落差に出会うたびに、21世紀型の搾取の構造のいびつさに胸が悪くなる。

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同じく抗議行動中。

 さて、そんなことを考えている時に、素晴らしく面白い本を読んだ。というか、まだ本になっていない段階なのだが、「素人の乱」の松本哉さんが本を出すので、その原稿を読ませてもらったのだ。松本さんについては、この連載の第5回を参照のこと。とにかく、日々「貧乏人一揆」を目指している人である。で、これが死ぬほど面白かった。貧乏人がどうやってこの「ボッタクリ社会」に抵抗し、大反乱を起こしながら勝手に生きていくか、その具体的な方法が詰まっている。というか、松本さん自身がそうやって生きてるので、この国でそんなふうに生きてる人がいるってだけで、「この国も捨てたもんじゃない」って気持ちになってくる。
 で、彼は「貧乏」をキーワードに日々ワケのわからないことをしているわけだが、彼の「貧乏」観に非常に共感したので、少し引用させてもらおう。
「『正社員で働いてるし、結婚して子供できて、家も買ったし、なんとか勝ち組かな?』などと思っているキミ! 思い上がってはいかん! 気の毒だが、キミもすでに立派な貧乏人だ。本当の『勝ち組』はちょっと仕事を休もうと、何年もなんにもしなくても、自然と金が舞い込んでくるシステムを作っている奴らのことだ」

 その通りで、現在ワーキングプアの問題を追っていると、正社員層から「非正規の人って大変なんですよねぇ」とかちょっと余裕かました態度で言われるのだが、まったくもって全然彼らは勝ち組でもなんでもない。賃労働をしなきゃ生きられないという時点で、しかもその収入を時給で割ると大して非正規層と変わらなかったりする時点で、立派な貧乏人だと思うのだ。本当の金持ちは賃労働などしない。一生食うに困ることはない。例えばこの国のトップと言われる方にのさばってる人たちは、一生分生きていける財産のある家に最初から生まれているという事実。今出ている「週刊金曜日」で北村編集長と私が対談しているのだが、その中で、北村さんが面白いデータを示してくれたので引用しよう。
「田中角栄の時代は、お金持ちと貧乏な人の年収の差は6・9倍くらいでした。2005年は4000倍以上。小泉内閣になってから急速に広がりました。いまの日本は明らかに新自由主義の世界にどっぷり浸かったと言えるでしょう」

 4000倍とはどういう数字か。例えばフリーターの平均年収106万円の4000倍は42億4000万円。もちろん年収で。こういった少数の人たちが存在するわけだが、会ったことがあまりないのでみんなリアリティがない。42億現金で持ってるオッサンが道をウロウロしてたらリアリティもあるが、彼らはうろつかない。なので、正規や非正規といった微妙な差異で足を引っ張りあったり、ということがあるわけだが、なんのことはない、このままの「格差社会」が進めば、中流はそのまま没落することは目に見えているし既に始まっているので、みんなカテゴリーとしては「貧乏」なのだ。ということで、そういうニュアンスで私は「貧乏」という言葉を積極的に使い、自分が「貧乏ではない」という20世紀的価値観/中流意識の中にいる人に「お前は貧乏だ」と言ってはやたらと反感を買っているのだが、でも、やっぱり99%くらいの人が貧乏になるシステムなのだ。
 でも、そう考えてみると我々「貧乏人」は多数派だ。ということで、松本哉さんの本を購入し、来るべき貧乏人一揆に備えることをお勧めする。まだ出てないしタイトルもわかんないんだけど、絶対面白いから!

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数日前、ワクチンを打ってアレルギーで死にかけた
うちのぱぴちゃん。夜間病院で点滴してもらい一命を
とりとめたものの、点滴のため、腕の毛をカッコよく
カットされた。

 

  

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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