雨宮処凛がゆく!

 今年も残すところあとわずかだ。
 本当にいろんなことがあった1年だった。

 御嶽山や阿蘇山が噴火したり災害が続いたりと、「なんでこんな火山国・地震国、そして気象条件が厳しい国に原発作った?」と改めて思うような悲劇が次々と起きた。まるで原発再稼働に向かうこの島国への、自然からの「警告」のように思える瞬間もあった。

 個人的なことで言うと、最初から怒濤の1年だった。
 年明け早々の都知事選。そう、あれはもう何年も前のことに思えるが、今年はじめのことだったのだ。今思うと、貴重な議論が短期間のうちにあちこちでなされたという時期でもあった。ただ、個人的には結構しんどい瞬間もあった。すべてを教訓とし、糧としたい。

 そんな今年前半で印象に残っているのは、「すき家からバイト逃亡」に象徴される過酷な労働がもはや常態化している現実だ。そんな飲食業界の厳しい実態は世界共通のようで、5月には世界35ヶ国以上で「ファストフード世界同時アクション」が開催される。日本でも数ヶ所で連帯アクションが開催され、私も渋谷のマック前で「時給1500円に」とアピールした。
 そうして7月、3年ぶりにこの国の「貧困率」が発表される。衝撃をもって受け止められたのは、「子どもの貧困率が過去最悪」ということで、実に16.3%。また、ひとり親世帯の貧困率は54.6%。3年前と比較して3.8ポイントも悪化している。格差や貧困が社会的な注目を浴びてから相当の時間が経つものの、雇用の安定などの方向での対策がとられていないため、状況はまったく改善していないことが明らかになったのだった。

 さて、そんな7月には、私にとって今年最大の出来事があった。
 それはやはり、集団的自衛権行使容認の閣議決定。これを受けて様々なデモなどに参加したものの、自らで企画したのは「韓国の徴兵制を拒否してフランスに亡命した」韓国人男性=イェダりんを日本に招待したこと。徴兵制がある社会の実態を余すところなく語ってくれたイェダりんとの出会いは、国際連帯の重要性について気づかせてくれるものだった。
 どんなに近隣の国との緊張関係を煽られたって、そんなものにはつられず、先回りして「戦争は嫌」という思いを持ついろんな国の人たちと仲良くなってしまえばいい。そこから「世界反戦ネットワーク」みたいなものを作ることができないだろうか。今、そんなことを夢想しているのだが、きっかけはイェダりんとの出会いによってだった。ちなみにこの原稿を書いている今、イェダりんは日本にいる。韓国に入国したら逮捕されてしまう亡命者であるイェダりんは、日本で韓国の家族や友人に会う予定なのである。
 で、私は昨日、イェダりんと3ヶ月ぶりに再会を果たし、ちょうど来日中の香港の「雨傘革命」メンバーとも合流し、朝方までお酒を飲んで語らったのだった。東アジアの活動家たちの国際連帯は、今、確実に進んでいる。 
 
 「亡命」ということで言えば、この連載の296回297回299回で3回にわたって書いた「働いたら収容所、帰国したら拷問~~謎のイラン人、ジャマルさんは難病で難民!!」のジャマルさんは、11月、カナダへの亡命に成功した。イランの独裁政権から逃れるために日本にやってきて24年。日本政府に難民認定を求めてきたジャマルさんは、結局、その存在をまるごと無視されるような形で最後まで難民認定されずに放置され続けてきた。その上、働くことも禁止され、もし働いてそれがバレてしまうと捕まって入管の施設にぶち込まれてしまうという扱いだ。イランに戻れば拷問と死が待っているというのに、難民認定もせず、就労もさせず、生活保護の申請に行っても追い返すという人権無視を繰り返してきたこの国。24年間、日本という異国の地で辛酸を舐め尽くしてきたジャマルさんは、とうとう日本に見切りをつけ、カナダへの亡命を決めたのだ。私はこのことを、日本に生きる一人としてとても恥ずかしく、そして申し訳なく思っている。難民条約を批准しているのに、先進国でもっとも難民に冷たい国である日本。日本の難民認定率は0.3%(2011年)だが、ジャマルさんが亡命したカナダの認定率は40%を超えている。
 
 また、この1年で広く認識されたことに、「大学の奨学金がただの借金だった問題」がある。
 現在、大学生の二人に一人が利用している奨学金。しかし、公的な給付型奨学金がないこの国では、奨学金はただの借金だ。その上、奨学金を利用している7割の学生が「利子付き」の奨学金を借りている。債権回収会社とメガバンクがボロ儲けする「金融事業」になっている奨学金に対しては、「貧困ビジネス」という批判の声もあちこちから上がっている。大学卒業と同時に、二人に一人が数百万円の借金を背負ってしまうシステム。ちなみに、OECD加盟34ヶ国中、17ヶ国は大学の授業料がなく、16ヶ国には給付制の奨学金がある。授業料があって給付制奨学金がないのは日本だけなのだ。
 そんな奨学金については、今年9月、衝撃的なニュースがあった。
 文科省の有識者会議で、経済同友会専務理事が、奨学金の返済に苦しむ人たちについて、「防衛省でインターンシップをさせたらどうか」と発言したのだ(東京新聞9月3日)。まさにアメリカの経済的徴兵制を彷彿とさせるような発言ではないか。
 
 ざっとこの1年を振り返っても、泣きたくなるくらいにいろんなことが悪い方向に向かっている気がして仕方ない。そこで怖いのは、なんだかこの国の多くの人が、いろんな種類の悲劇に「麻痺」し始めているように思えることだ。ある意味、状況がひどければひどいほど、抗い続けるには体力や精神力が必要だ。私自身も、時にいろんなことに麻痺して思考停止してしまいそうになる。
 だけど、それはとっても無責任なことだと思うのだ。
 
 この1年、ひどい現実ばかり見てきたものの、希望もある。それはSASPLをはじめとする「3・11後世代」の活躍だ。自由や民主主義に対して真摯に考え、声を上げる若者たちがこの国に増えているということ。そのことに、私はいつも勇気づけられる。
 
 来年は、どんな1年になるだろう。
 今年手にしたいろんな繋がりが、実を結んでいきますように。
 今、祈るようにそう思っている。

再来日中のイェダりんと。

 

  

※コメントは承認制です。
第321回 2014年を振り返る。の巻」 に4件のコメント

  1. とろ より:

    北朝鮮さえなければ徴兵制は無かったかもしれませんね。
    難民は可哀そうな境遇の人達ですけど,国からすれば,招かれざる客だからなあ。

  2. 多賀恭一 より:

    2015年に予測される災い。
    アベノミクスの通貨切り下げによる日本国債の信用問題。
    消費税10%に伴う中小企業の破たん続出と失業率の悪化。
    中国との関係悪化に伴う大規模な紛争の発生。
    石油価格の下落とアメリカ経済の混乱の可能性によるアメリカの覇権の弱体化と国際秩序の波乱。
    糸魚川静岡構造線の活動による、富士山の噴火リスクの増大と、原発リスクの増大。
    まあ、
    来年もよい年でありますように。

  3. magazine9 より:

    この1年だけで、本当にいろいろなことがありましたね…。反対意見を無視しての原発再稼動、子どもの貧困、過酷な労働など、経済や政治優先で、人が後回しにされてしまう状況は、かなしいことに世界共通の問題になっています。

    今年9月のイ・イェダさんの話については、マガ9学校 第33回「徴兵なんていやだ!~徴兵拒否でフランスに亡命した22歳のイさん緊急来日! 韓国徴兵制の現状と問題を聞く~」をご覧ください。

  4. この国は早晩、滅びます。私も亡命したい。亡命って、どうやってやるんですかね。

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雨宮処凛

あまみや・かりん: 1975年北海道生まれ。作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。若者の「生きづらさ」などについての著作を発表する一方、イラクや北朝鮮への渡航を重ねる。現在は新自由主義のもと、不安定さを強いられる人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。『反撃カルチャープレカリアートの豊かな世界』(角川文芸出版)、『雨宮処凛の「生存革命」日記』(集英社)、『プレカリアートの憂鬱』(講談社)など、著書多数。2007年に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。「反貧困ネットワーク」副代表、「週刊金曜日」編集委員、、フリーター全般労働組合組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、09年末より厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員。オフィシャルブログ「雨宮日記」

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