伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2015年1月24日@東京校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

【講師】
元榮太一郎 氏
(「弁護士法人 法律事務所オーセンス」代表弁護士、「弁護士ドットコム株式会社」代表取締役社長兼CEO)

●講師プロフィール
1999年司法試験合格。2001年第二東京弁護士会に登録。2005年に「法律事務所オーセンス」を設立。同年「弁護士ドットコム株式会社」を設立するとともに、日本最大級の法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」運営開始。2014年12月、「弁護士ドットコム株式会社」を東京証券取引所マザーズ市場に上場、多数のメディアに取り上げられる。フジテレビ「めざましテレビ」にレギュラー出演(2014年5月〜)中。近著に『弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦』(日経BP社)。

はじめに

 昨年12月、弁護士として初めて東証マザーズ市場に上場して話題を呼んだ「弁護士ドットコム」。 法律関係のトラブルに遭ったときに、弁護士にネット上で無料相談に乗ってもらったり、弁護士や法律事務所を検索したりもできる「日本最大級の法律相談ポータルサイト」です。多くの人にとって、どこか「ハードルの高い」存在だった弁護士を、身近で気軽に相談できる存在に、という新しい挑戦。運営会社・弁護士ドットコム株式会社の創業者であり、自身も弁護士である元榮太一郎氏に、サイト立ち上げと創業に至った経緯、その背景にある思いを語っていただきました。

きっかけは、大学時代の原体験

 私が「弁護士ドットコム」を思いついた原体験は、大学時代の交通事故です。自動車で接触事故を起こしたのですが、弱冠20歳の学生だったこともあり、相手方の保険会社の方に、かなりやり込められました。たしかに常識的に考えてこちらが悪いだろうという事故だったのですが、「過失割合は100対ゼロだ」という主張で、高額の補償金を要求されてしまったのです。
 途方に暮れている私を見かねた母親が、「弁護士会の法律相談に行けば、相談に乗ってもらえるらしいよ」と勧めてくれたのです。藁をもつかむ思いで行ってみたら、話を聞いてくれた弁護士は「あなたが悪いのは確かだけど、100%ということはない。向こうにも30%くらいの過失があるんだから、そう弁護士に言われたと言ってみなさい」と。おそるおそる先方にそう伝えたところ、たちまち過失割合7対3で解決したのです。
 これが私が弁護士を志した原体験でもあります。弁護士とは、困っている人のお役に立てる、なんて素晴らしい仕事なんだと感じました。
 同時に、こうした事故などには誰でも直面する可能性があるのに、そもそもこのケースは弁護士に頼るべきなのか、頼るのならどこに行けばいいのか、いくらかかるのかと、分からないことだらけだとも感じました。弁護士という存在がもっと一般の人にとって身近なものになればいいのに、という思いが胸に刻まれたことが、後の弁護士ドットコムの発案につながりました。

弁護士に、起業家という「プラスアルファ」を️

 1999年に司法試験に合格して弁護士になった後、ベンチャー企業の買収案件にかかわったことがきっかけで、起業というものを意識するようになりました。もともと、司法制度改革で弁護士の数が増える中、弁護士バッジを持っているだけではなく、そこに何かプラスアルファがないと活躍できない時代になるなということは、司法修習生のころから強く意識していました。そこで「新しい価値を創造していくベンチャー企業っていいな、弁護士×起業家というのは、まさにプラスアルファになるのではないか」と考えるようになりました。
 ちょうどブロードバンドの本格普及がはじまった時期でもあり、ITと法律を組み合わせて何かできないかと考えはじめていたところ、たまたま見つけたのが「引越し比較ドットコム」というネットサービス。製品価格を比較するサイトは知っていましたが、サービス業者を比較するサイトも面白いな、と。同時に、弁護士もサービス業だ、その弁護士をネット上で探したり、比較できたりすれば、弁護士がもっと身近になるのではないか、と思いついたのです。

 そのときに思い出したのが、大学時代の交通事故の経験でした。あのときの自分のように、誰にどうやって相談したらいいのかも分からない人が今もたくさんいるはず。法律関係の悩みというのは、誰にも知られずこっそり相談したいことも多いし、そんな場所がインターネット上にあれば世の中もっと便利になるはずだ、と考えるようになりました。
 その思いをいち早く形にしたくて、1週間後には勤めていた弁護士事務所に退職の申し入れをし、3カ月後に何とか独立することができました。といっても、本当に「思い」だけで独立したという感じで、ネットサービスがどういうもので、他社がどう収益を上げているのかさえ知らず、経営とは何から始めるのかもまったく理解していない状態。書店でネットビジネスに関する本を買ってきて、朝から晩まで読むところからはじめました。2005年6月には仲間とサイトをスタートさせることはできましたが、当初は売り上げがほとんどなく、立ち上げから8期連続は実質赤字という、とにかく耐える期間でした。
 しかしその中で徐々にいくつかの大ヒットコンテンツを生み出す事ができまして、例えば弁護士に無料で法律相談できる「みんなの法律相談」や、時事的な話題に弁護士が解説を加えたニュースを配信する「弁護士ドットコムニュース」。その大ヒットからサイト訪問者数が少しずつ増え、2013年に月間サイト訪問者数は100万人を突破し、満を持して弁護士への有料マーケティング支援サービスをスタート。ここから収益が拡大して一気に黒字化を遂げることができ、昨年12月の東証マザーズ上場に至りました。

専門家を「徹底的に身近にする」ために

 私たちが電通に調査を依頼したデータでは、なんらかの形で法律的なトラブルに遭っている人は、年間1060万人。にもかかわらず、実際に弁護士に相談する人はその中の19.4%にとどまっています。世の中で弁護士が解決すべき案件のうち2割しかお役に立てていないという「2割司法」という言葉があるのですが、実にその言葉通りの世の中なのです。
 トラブルがあっても相談しないという人の最大の理由は費用面での不安、つまり経済的なハードルです。そしてもう一つが、「敷居が高い」という精神的なハードル。この二つのハードルが現在においてもまだまだある。そういう状況の中で、困っている人を弁護士とつないでいくのが弁護士ドットコムの使命だと思っています。
 例えば、少し前に話題になりました「ぼったくり居酒屋」。客引きの言葉のままに入った飲食店で、身に覚えのない法外な料金を提示されたので困り果てていたところ、その場でスマホで弁護士ドットコムにアクセスしたら、なんと今から店に来てくれるという弁護士がいて、示談の結果、無事に一般的な金額を払って帰ることができたというケースがありました。こうした「弁護士が身近になった」事例の数々が、私たちスタッフの心の励みです。
 また、ある程度収益モデルが確立できてきたので、今後は「専門家を徹底的に身近にする」という目標に向かって、さらに事業を拡大させていくつもりです。
 具体的にはまず、弁護士費用保険。いざというときに弁護士費用が保険金として支給されることで、「弁護士に相談する」ことへの経済的なハードルをなくしたい。先ほど「2割司法」の話が出ましたが、成熟した司法国家になるために「10割司法」の実現に向けて取り組んでいきたいと思っています。
 また、弁護士だけではなく、他の専門家への水平展開も考えています。今、すでに力を入れはじめているのが「税理士ドットコム」。これからさらに身近にするための取り組みを進めたいですね。
 すべての人が安心して暮らせる社会のためには、弁護士をはじめとする専門家は、もっともっと自由に利活用できる存在であるべきです。それを目指して挑戦を惜しまず、さらに世の中に貢献していきたいと考えています。

 

  

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