こちら編集部

 マガ9編集会議の後、スタッフはよく事務所近くにある中華料理店に行きます。そこで遅い夕食をとりながら、会議で取り上げられたテーマの続きを議論したり、新しい企画のアイデアを出したりするのですが、一部男子(?)の間では、むかしのしょーもない話で盛り上がることもあります。
 たとえば、中学生だったころ、「エッチな雑誌を買いたいんだけど、恥ずかしいので、その上下を経済誌みたいな真面目な雑誌で挟んでレジに出した(その効果、ほぼゼロだと思うんですが)」とか、「ヌードのグラビア雑誌を買い、勇んで自転車で帰る途中、民家の軒下に激突し、病院送りになった(にもかかわらず、病室のベッドでその雑誌の名前をうわ言のようにつぶやいていたそうです)」とか、「ぶかぶかの大人のスーツを着込んで、池袋のポルノ映画館に入るのに成功したものの、いいシーンが始まる直前にお巡りさんに補導された(これは私です)」とか。
 少年時代だけではありません。大人になってからの話では、「彼女のアパートを訪ねたら、なかに浮気相手がいるらしく、見え透いた居留守を使われたのに腹が立ち、ドアについている郵便受けの隙間から『いるのはわかってんだぞー』と叫び続けた」、「彼女と同居していたアパートに帰ると、奥の部屋で彼女が男性といる気配がし、なぜか自分が間男のようにこそこそと風呂場の窓から外へ出た(なぜ家主たる自分が後ろめたさを感じなければならないのか)」などなど。私はときに爆笑しながら聞いています。
 こうしたエピソードは情けなければ、情けないほど、面白い。自分の恥ずかしい過去と共鳴し、「おれだけじゃないんだ」とほっとするからかもしれません。逆に「むかし俺はいかにモテたか」などを延々と聞かされた日には、苛立ちを通り越して、殺意を覚えるでしょう(笑)。
 ただ、上記のようなエピソードは、メール、携帯、SNS全盛のいまの時代では起こりえないと思います。エッチな雑誌を買うために知恵を絞る、ポルノ映画館に入るのに下手な変装をするなど、個室でコンピュータをいじればすぐさまAV画像にアクセスできる昨今では、牧歌的にさえ聞こえる。好きな女の子の自宅に電話したいけれど、「もし彼女のお父さんが出たらどうしよう」などと逡巡するなんて気持ちは、いまの若者には想像しがたいのではないでしょうか。
 1月9日付『朝日新聞』の「人が人と生きること」というオピニオン記事で、フランス文学者の鹿島茂氏が、異性と付き合った経験も恋人もいない若者が増えている現状について語っていました。その遠因として同氏は、会社や家族が結婚相手を見つけてくれたかつての「直系家族型」の日本社会が、その構造を残したまま、「恋愛の自由競争社会」に突入してしまったことを指摘しています。
 そのあげくに生まれたのが「婚活」。相手に求める職業や年齢、容姿、趣味だけでなく、出身校や年収などのデータを集め、お見合いサークルのようなものを催し、希望の相手探しをサポートする恋愛の人材派遣みたいなビジネスです。
 「婚活」について鹿島氏は「目的が露骨すぎる。参加しようかなという段階で、すでに心理的なハードルが生まれます」と述べていますが、加えて、いまのネット時代、相手とケイタイやメールで容易につながることができる分、生身のコンタクトがむしろ難しくなっているのでないか。
 私はかつてある女性から「恋愛には高度なコミュニケーションが求められる。セックスはその究極でしょ」と言われて、どきりとしたことがあります。
 もし、そうだとしたら、恋愛なんて面倒臭いと思う若者が増えてきてもおかしくありませんし、とすれば、コミュニケーション能力に長け、いろいろな問題に粘り強く(しつこく)対処するだけの耐性があるのはスケベな人の方だともいえる(極論です、あくまでも)。異性(もちろん同性でもよし)への関心が強く、あの手この手で気を引こうと努力する人が増えれば、世知辛い世の中がちょっとは穏やかになるのでは? たとえば宮台真司さんの本『きみがモテれば、社会は変わる』(まだ読んでいないのです。すみません)って、そんな内容なんじゃないの?
 そんな話をいい年したおじさんたちはしているのでした。

(芳地隆之)

 

  

※コメントは承認制です。
マガ9スタッフ男子の
情けない過去について
」 に1件のコメント

  1. うまれつきおうな より:

    全く賛同できません。むしろ地道に生きるカタギの人々にコミュニケーション能力などという芸能水商売の才能を求めるから世の中が不公正でギスギスした足の引っ張り合いになるのではないですか。それに、コミュニケーション力が社会の平穏につながる、なにより大事という語調は、アスペルガー障害、自閉症などコミュニケーション障害の人への配慮が足りない気がするのですが。

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