風塵だより

 どうも納得できない、なんだかおかしいなあ…と感じてしまうことが、このごろ多すぎるように思う。
 たくさんあるけれど、順不同で挙げていってみよう。

  1. 1 自衛隊が派遣されてしまった南スーダン情勢は、稲田朋美防衛大臣が言うように「現状は落ち着いていて危険性は少ない」のだろうか? 
     例えば、国連南スーダン派遣団(UNMISS)の楊超英・軍司令官も「和平合意が維持されているとは言えない」と明確に述べている(朝日新聞11月26日)。和平合意が維持されていなければ、日本政府の言う「PKO5原則」に反し、自衛隊を撤退させなければならないはずなのだが、稲田氏も安倍首相も、そんなことにはお構いなし。「戦闘ではなく衝突」などと言葉を弄ぶのみ。
     さらに、南スーダンPKOのバングラデシュ隊長のエムラン・ブイヤ隊長も、自衛隊の宿営地近くに建設中のビルの方向から「バングラデシュ隊の宿営地に砲撃があり、国連施設内に逃げてくる女性や子どもらが危険にさらされていたので応射した」と、砲撃戦があったことを証言している(朝日11月28日)。
     このときはバングラデシュ隊には幸運にも犠牲者は出なかったというが、7月には中国PKO部隊が武装勢力と交戦、2名の死者と5名の負傷者が出ている。こういう状態にもかかわらず、稲田氏と安倍首相は「駆けつけ警護」という危険極まりない任務を、自衛隊員に押しつける。とうてい納得できない。
  2. 2 しかも、その危険な「駆けつけ警護」を命じた稲田氏は、戦火の地など知ったことかというような優雅な毎日を過ごしているらしい。
     ウェブサイト「LITERA」が稲田氏の資金管理団体「ともみ組」の収支報告書を調べ、なんともスゴイ稲田氏の「政務活動の実態」を明らかにしている。超高額の夕食会合だ。一例として2015年2月6日には、ホテルニューオータニで20万3千円と26万6千円を「夕食会合費」で支出。一晩でしめて47万円近い。また銀座の高級串カツ店(そんなものがあるとは知らなかった)で、一晩に14万円も支払っていたという。詳しくは「LITERA」を参照してほしいが、若い自衛隊員らを危険な戦地へ送り込みながら、自分はこんな優雅な生活を満喫している。
     その上で「新たな任務についての命令を発出したのは私自身。すべてのことについての責任は私にある」などと言う。いったいどんな形で責任を取るというのだろう。その感覚、おかしくないか。
  3. 3 東京オリンピック狂騒曲。経費がどんどん膨らんでいく。最初は「半径8キロ圏内の既存施設を使った簡素で軽負担のオリンピック」という触れ込みだったはずが、いつの間にやら、経費は2~3兆円という目も眩むようなお祭り騒ぎ。そのカネは結局、すべて我々の税金で賄われることになる。一方で、高齢者の医療保険負担を増額、それによって350億円を節減するという。数兆円規模の五輪経費の陰で、高齢者医療費は増額されていく。あなたは納得できますか?
  4. 4 国民の負担増ということで言えば、原発関連費用は、いつの間にかうなぎ登り。福島原発事故処理費は、試算のたびごとに膨らんでいき、最初は11兆円ほどだったものが、とうとう20兆円超という天文学的数字になった。だがこれも、廃炉工程が30年ほどという想定の下での試算。実は専門家の間では、廃炉には少なくとも50~70年は必要、との意見が多数だ。
     年間数千億円かかると言われる廃炉費用は、年数が延びれば延びるほど膨れ上がるのは当然。結局、20兆円でも足りなくなるのは目に見えている。そのカネは電気料金に上乗せされて、最終的には消費者負担ということになる。これも、とても納得できる話じゃない。
  5. 5 「苦渋の選択」という言葉が行き交う。川内原発停止を求めて鹿児島県知事選に出馬し当選した三反園訓鹿児島県知事が、再稼働の判断材料にするとしていた第三者機関「鹿児島県原子力問題検討委員会」の設置議案が12月16日にずれ込んだため、九州電力の再稼働予定日12月8日に間に合わないためだ。そこで「苦渋の選択」として、川内原発の再稼働はやむを得ない…と、三反園知事が判断したというのだ。おかしい。
     沖縄でも「苦渋の選択」という言葉を、翁長雄志知事が口にした。高江のヘリパッドに関し、その建設の見返りとして北部訓練場約7800ヘクタールのうち約4000ヘクタールを返還する、ということに対し「返還に異議を唱えるのはなかなか難しい」として、最終的にはヘリパッド建設を容認する姿勢を示した。その際「苦渋の選択の最たるものだ」と顔をこわばらせた。これは、いわゆる「オール沖縄」体制に、大きな軋みをもたらしている。安倍政権の沖縄県民の分断策。
     「苦渋の選択」と誰かが語るとき、そのほとんどは「悪い方への選択」となってしまう悲しい例だ。おかしな話だが、せつない。
  6. 6 安倍首相は「先進国首脳の中で、私がもっとも早く次期米大統領のトランプ氏に会うことができた。日米同盟の緊密さを確認できた」と、まるで運動会で一等賞を取った小学生のようなはしゃぎよう。
     ところが、その直後にトランプ氏は「TPP(環太平洋パートナーシップ)は認めない。大統領就任初日にTPPは破棄する」と言明。必死にすり寄ってみたものの、鼻先であしらわれてしまった形なのだから、多分、安倍氏は真っ青になったに違いない。それでもなお「TPPは日本にとって重要なもの。米国を説得する材料にするためにも今国会で成立させる」と、例によって訳の分からぬリクツをつけて採決強行。米国が批准しなければ成立しないことは明らかなのに、もはやメンツだけの国会運営。ものすごくおかしい。
  7. 7 安倍外交は、このところ狂いっ放しだ。盟友だと思い込んでいるらしいプーチン露大統領と会談。そこで北方領土返還に道筋をつけて外交成果を国民にアピールしようという魂胆だったようだが、したたかなプーチン大統領、そう簡単に問屋は卸さない。北方4島への経済的協力を求めるばかりで、返還など何の話? という具合だったという。
     しかも、その直後にロシアが4島のうちの択捉島と国後島に新型地対艦ミサイルを配備したことが判明したのだ。北方領土はロシア領、日本へ返還するつもりなどない、ということをあからさまに示したというしかない。12月15日、プーチン氏が来日。安倍氏は地元の山口へ招いて親密ぶりをアピールする予定なのだが、いったいどんな成果を得られると思っているのだろうか? 悲しいくらいに、おかしい。
  8. 8 そんなこんなでパニックに陥ったのか、安倍首相の言葉がいつも以上に乱れている。「安倍話法」も究極形に入りつつある。もはや日本語になっていないのだ。
     国会で、ペルーで行われたプーチン氏との会談における日露平和条約に関して問われると、安倍氏は「たった1回の首脳会談で解決できるほど、簡単な問題ではありません」と、例によって木で鼻をくくったような答弁。するとすぐさまツイッターでは「たった1回? もう15回目の首脳会談じゃないか。数も数えられないのか」と揶揄される始末。
  9. 9 自民党は、このところ(今に始まったことではないが)暴言失言妄言の絶え間がない。萩生田光一官房副長官が、強行採決続きに抗議する野党の対応を「田舎のプロレス」とバカにした。なにしろ櫻井よしこ理事長の「国家基本問題研究所」という右派系の団体での講演だったから、気を許しての発言だろうが、まさに国会そのものの軽視というしかない。もう、おかしいを通り越して、ひどい。
     暴言妄言といえば、鶴保庸介沖縄北方担当大臣を忘れるわけにはいかない。この男、どういう考えで「沖縄担当相」を名乗っているのだろうか? 沖縄・高江のヘリパッド建設阻止闘争における大阪府警機動隊員の「土人発言」をめぐっての度重なる発言は、まったく理解に苦しむ。「土人であると言うことが差別だと断じることは到底できない」と何度も繰り返す。
     だが、金田勝年法相でさえ10月25日の国会答弁で「とても残念で許すまじき発言だ」と、この土人発言を批判している。法務大臣が断じたものを、沖縄担当相が否定する。こういうのを閣内不一致という。
     ところが政府は11月21日、「鶴保氏の発言の訂正や謝罪は不要」との答弁書を閣議決定した。要するに、鶴保発言の「土人発言は差別にあたらない」と、安倍政権が認めてしまったのだ。結局、政府が率先して差別を繰り返すという構図である。ネット上に差別やヘイトが蔓延する下地を政府自らが作っている。おかしいというより、哀しい国だ。
  10. 10 ネット上には「汚語」「汚文」(ぼくの造語)が、今日も溢れかえっている。他人を、意見が違うからといって口汚く罵る。それが日常化している。米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、その「汚語」「汚文」がいっそう我が世の春を謳歌している。それは、世界的傾向のようだ。
     当のアメリカでは、極右団体の集会で、まるであのナチスのように右手を斜め前に高くつき上げるナチス式の敬礼でトランプ政権の誕生に興奮する人々の様子が報道された。「オルト・ライト」と呼ばれる極右集団だ。白人優位主義、反ユダヤ、人種差別などの傾向を強く持つという。
     日本ではどうか。日本人優越、反韓、嫌中などを掲げて街中を練り歩く人たちに、その「オルト・ライト」が重なって見える。

 おかしくて怖い世の中が、姿を現しつつある…。

 

  

※コメントは承認制です。
98 おかしくて怖い世の中が」 に3件のコメント

  1. L より:

    >5「苦渋の選択」という言葉が行き交う。
    「保守」政治家には、ご都合主義以外の信条はないわけで、そういう連中に重心を掛けても詮無いということがまた顕れただけのこと。
     三反園が泉田知事のように本気なら、単純に首長として再稼働に同意を与えなければいいだけ。
     翁長は選挙の時に”高江ヘリパッド建設に反対だ”と公約したのだから、基地の一部返還と建設阻止を両方追求すればいいだけ。
     翁長は末期仲井真でさえ続けた定例記者会見を拒否したままだし、自民党本部での態度・言動と、支持者の前や地元での言動が全く違う。
     知事になってから高江に行ったことがないようだ。辺野古には何回行ったのか?
     仲井真のボスらしく、所詮、本籍はヤマト自民党なんだろう。

     オール沖縄を崩すな(翁長を疑うな、批判するな)がこれを導いた模様。
    ”政治の矛盾を追求せよ リーダーを動かせ、疑問を引っ込めるな [平安名純代・想い風]”

     また”ブログ アリの一言”は考える縁になるので、もしご存じなかったらお読みください。

  2. 樋口 隆史 より:

    最近、他のメディアでも日本のグロテスク化という言葉を見付けました。わたしも同じように感じています。今まで世界の片隅でちっちゃくなっていた国がでかい国相手に戦争初めて負けて、反省して珠のような憲法を制定した。そのためもあって頑張って GDP2位(今は3位だけど)までやってきた。でも、こんな成功体験がなかった国だから戸惑っている、その戸惑いに乗じて我田引水(日本のお家芸)をしている人たちがいる。それは日本だけ出なくて海外にもいる。指導する側の立場の人たちの中に妄想と慢心が広がっている。いつの間にかお金が一番という信仰が根付いてしまった。生きることにいつも不安を覚える世の中になってしまった。できれば、わたしの私感では、一度停滞の時代がやって来て欲しい思います。みんなで今一度、頭を冷やす時でしょうね。

  3. 鳴井 勝敏 より:

    読むたびにもやもやが吹っ飛びます。なぜこような政権が高い支持率を維持しているのか不思議です。分かりません。敗戦を教訓にできない国です。民主主義。立憲主義が破壊され、全体主義、強権政治が断行され始めて気がつくのかもしれません。それ際も疑問です。国民には最後の切り札があるからです。「仕方がない」。「仕方がない」からの脱却は教育に尽きます。受験には関心が高いが、教育にはほとんど関心がないと映ります。決め手は、国民一人一人の教育に対する関心、だと考えています。                                                                                                                                                                    

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)など。マガジン9では「風塵だより」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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