川口創弁護士の憲法はこう使え!

 3月11日の東日本大震災から3ヶ月が経ちました。しかし、未だに被災地の復旧・復興にはほど遠いのが現状です。たとえば、仮設住宅に入った時点で食糧などの支援も打ち切り、というひどい対応がなされています。避難所から仮設住宅へ、ということに多くの方が躊躇するのは当然です。被災者のことを考えた対応がなされていません。
 被災地に対する復興支援、という言葉をよく耳にします。
 確かに、地震や津波は天災です。しかし、政府には、一人でも多くの人命を救い出し、被災者の生命身体を守り、生活を支える復旧、復興責任があります。
 ところが、現実には政府がすべきことをしていない、あるいは被災地の生活再建を阻害し、多くの被災者の被害が日々拡大しているという現状です。こういった現実は、政府による著しい人権侵害だと直視する必要があります。
 長期化する避難所生活の中で、避難所によっては未だに十分な食料が届いていないところもあります(一部に食料は十分届いているという報道がありますが、事実と違います)。梅雨時にさしかかり、出される弁当が腐っているということも少なくありません。また、プライバシーは保障されず、金銭的な手当も十分なされず、人間らしい最低限の生活ができない状況が固定化されている現状があります。
 今の被災地では、個人の尊厳(13条)はもちろん、生存権(25条)、プライバシー権などが著しく侵害されたまま放置されているのです。
 また、国からの十分な財政的支援がない中で、子どもたちの教育を受ける権利(26条)も奪われたままです。さらに、職を奪われ、雇用を作り出すという政策もない中で、勤労権(27条)や職業選択の自由(22条)も奪われつづけています。
 さらに、被災者の方々を支えるはずの地方自治体が十分機能していません。その原因として、「平成の大合併」の問題が考えられます。特に宮城県の石巻周辺は合併が進みました。そのため、必要な情報へのアクセスすらできない状況のまま孤立化している被災者が数多くいます。さらに、手足となるはずの地方公務員が減らされたことも、被災地支援が体系的に行われていない原因と考えられます。まさに、平成の大合併で、「地方自治の本旨」(92条)が奪われてしまったことも、今回の被災地の復旧が進まない状況を作り出したといえます。
 いま、改めて、それぞれの市町村やその中の地域ごとに、地方自治の機能を回復し、高めながら復興を進めていく必要があります。

 次に、東京電力福島第一原発の問題についてです。こちらは、事故から日がたつにつれて、隠蔽されていた情報が開示されたり、ずさんな体制が明らかになったりしています。 
 原発事故は、明らかに人災であり、さらにその後も情報が隠蔽され、多くの市民が被曝させられました。これは東電による犠牲であるとともに政府の原子力政策の犠牲です。この事故の結果、それまで生活していた家を奪われ、農地を奪われ、家畜を奪われ、仕事を奪われ、ふるさとを奪われた多くの罪のない人たちがいます。
 『までいの力』(SEEDS出版)という本があります。この本は、今回の東電福島第一原発の事故で、ふるさとを奪われた福島県飯舘村の本です。ここには3月11日以前の美しい福島県飯舘村の姿が凝縮されています。
 この本は、飯舘村の自然豊かな生活と、住民の皆さんの素敵な笑顔にあふれたすばらしい本です。飯舘村は、原発の利益を全く享受していません。それどころか、東電が消費社会の象徴だとすれば、それとは対極にありました。「までい」とは、「手間隙を惜しまず」「丁寧に」「心をこめて」「時間をかけて」という意味の方言で、飯舘のみなさんは「までい」な生活をしてきました。
 原発は、この飯舘の人々の平和な日常と笑顔を奪ったのです。家も、生活も、仕事も、家畜も、故郷も、人としての尊厳そのものを根こそぎ奪ったのです。
 こういった現実を前に、まだ「原発推進」「原発やむなし」と平気に発言する政治家たちが少なくありません。僕には、そういった感覚は理解できません。
 しかし、考えてみれば、北海道経済連合会から九州経済連合会まで、すべての経済連合会の会長はその地域の電力会社の社長です。コスト全部を母数に、会社の利益を上乗せして電気料金とできる「総括原価方式」や、発送電一体、地域独占によって金儲けが保証された電力会社が日本の経済界を支配しています。こういった経済実態の中で、原発を擁護する声があるのは当然かもしれません。
 原発問題は、電力会社を中心とする日本の消費社会のあり方や、私たちの生活そのものを問い直すことも求められているのではないでしょうか。電力利権の構図など、根が深い問題ですが、根こそぎの人権侵害が生じている事実をしっかり捉えていくことが必要ではないかと思います。

 最後に、平和的生存権(憲法前文)について考えてみます。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」この権利は平和的生存権と呼ばれています。
 イラクへの自衛隊派兵を違憲とした名古屋高裁判決(平成20年4月17日)では、平和的生存権について「戦争と軍備及び戦争準備によって破壊されたり侵害ないし抑制されることなく、恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存し、また、そのように平和な国と世界をつくり出していくことのできる核時代の自然権的本質を持つ基本的人権である」などと定義される、とし、「全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利」としています。
 原子力発電で利用しているのは核エネルギーそのものですから、東電福島原発の事故によって、多くの市民が核の脅威に脅かされるどころか、核の被害を受けていると言わざるを得ません。 
 田中優さんが、講演の中で「子どもを大事にしない社会に未来はない」と仰っていましたが、現状はとりわけ小さな子どもたちが放射能の犠牲になりかねない状況です。子どもたちを含めた多くの市民の「核時代の自然権的権利」としての、平和的生存権が現実に奪われつつあると言えます。今、特に子どもたちの平和的生存権と個人の尊厳の回復に向けた行動を起こすときではないでしょうか。
 特に、私たち法律家は、法的観点から、その道筋を考えていくことが求められています。私自身も、動いていきます。ともに行動していきましょう。

 

  

※コメントは承認制です。
【第3回】子どもたちの「平和的生存権」を とりもどすために」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    憲法前文に書かれた「平和的生存権」、
    そしてイラクへの自衛隊派兵を違憲とした名古屋高裁判決で書かれた
    「核時代の自然権的権利」。川口弁護士は、これらを使って、
    「今、特に子どもたちの平和的生存権と個人の尊厳の回復に向けた行動を起こすとき
    ではないでしょうか」と訴えています。「マガ9」も大賛同です。
    法律家のこれからの具体的な行動に注目し、そして応援します!

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川口創

川口創(かわぐち はじめ): 1972年埼玉県生まれ。2000年司法試験合格。実務修習地の名古屋で、2002年より弁護士としてスタート。 2004年2月にイラク派兵差止訴訟を提訴。同弁護団事務局長として4年間、多くの原告、支援者、学者、弁護士らとともに奮闘。2008年4月17日に、名古屋高裁において、「航空自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反」との画期的違憲判決を得る。刑事弁護にも取り組み、無罪判決も3件獲得している。2006年1月「季刊刑事弁護」誌上において、第3回刑事弁護最優秀新人賞受賞。現在は「一人一票実現訴訟」にも積極的参加。
公式HP、ツイッターでも日々発信中。@kahajime
著書に『「自衛隊のイラク派兵差止訴訟」判決文を読む』(大塚英志との共著・角川グループパブリッシング)

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