この人に聞きたい

福島第一原発の事故後、各地の脱原発集会やデモで、司会やスピーチに飛び回っている女優の木内みどりさん。「脱原発のためなら、私にできることは 何でもやる」と語る、その強い思いの源泉はどこにあるのか。3・11以前を振り返りつつ、お話しいただきました。

木内みどり(きうち・みどり)
女優 1965年、劇団四季に入団。1969年、TBS『安ベエの海』でドラマデビュー。その後も、映画・テレビドラマ・舞台に数多く出演し、コミカルなキャラクターから重厚感あふれる役柄まで幅広く演じている。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』など、数々のバラエティ番組でも活躍。女優業の傍ら、坂本龍一氏と共に、チベット文化の維持・継承をサポートする「ノルブリンカ・ジャパン」を設立し、社会貢献運動も行う。3・11以降は、脱原発集会の司会などを積極的に引き受け、勢力的に活動をしている。twitterでも発信中。水野木内みどり @kiuchi_midori
脱原発候補者の選挙応援に駆けつけて

編集部
 前回は、脱原発運動に関わるきっかけと、活動の内容などを伺いました。そこから2月の都知事選をはじめ、地方選で脱原発を公約とする候補者の応援もされるようになったんですね?

木内
 選挙に関しては、私はどこの党とも関係がないし、どの組織にも属していないので、はっきりしているのは、とにかく原発を止めたい。それだけなんです。原発を止められそうな人がいたら、その候補者を全力で応援する。だから都知事選のときは、脱原発を訴えて出馬した宇都宮(健児)さんの応援をすることは、早い時期に決めたんです。

編集部
 選挙期間中はあちこちの集会の司会をしたり、それこそ全力で協力されていましたね。

木内
 先にお話ししたように、脱原発集会のやり方を変えなくちゃいけないと思っていたので、選対(選挙対策本部)でも私なりに「こうしたらどうか」といろいろな考えを伝えました。
 例えば2013年の参議院選で三宅洋平さんが出てきて「選挙フェス」をやったときには、「こういう選挙のやり方があるんだ!」と目からウロコでしたよね。だから選対では、これまでの選挙の闘い方にこだわらず、「(応援演説では)政治家の話は心に響かないからやめましょう」ということも言ったんですよ。官邸前で脱原発を訴えている人たちでも、政治を自分の言葉で語れるようになった人たちがいるんだから「そういう人たちに喋ってもらいましょうよ」とかね。

編集部
 都知事選の選挙運動の途中で、沖縄の名護市長選の応援にも行かれていますね。

木内
 名護市長選が1月にあって、現職の稲嶺進さんはずっと辺野古への米軍基地建設に反対されていて、熱い思いを持った方ですよね。私は、宇都宮さんから稲嶺さんへの応援の檄文を届けに行ったんです。
 名護のみなさんは、意識が高かったですよ。石破茂さんが「(基地容認派が勝てば)500億の振興基金を出す」って言ったでしょ。でも、普通のおじいちゃん、おばあちゃんでも、沖縄戦の記憶が生々しくあるからかもしれませんが、札束でひっぱたかれても動じない。びっくりしたのは、車を運転していたら、ガソリンスタンドのスタッフの若い男の子が「名護のことは名護が決める」と書いたプラカードを掲げているんです。「かっこいい!」と思いましたね。

編集部
 都知事選の後は、4月の衆議院鹿児島2区の補欠選挙にも駆け付けていますね。

木内
 都知事選では自分なりにやれることはやったし、しばらく選挙とか政治からは離れていようと思っていたんです。そうしたら、ロンドンの脱原発集会でスピーチをしてむこうの空港にいたときに「川内原発の再稼働を阻止するチャンスだ」という電話がかかってきたんですよ。「私、ちょっと、行けないですよ!」と言いながらも「ああ、私は結局行くんだろうな」って。もうね、自分でわかるんですよね(笑)。

編集部
 木内さんが応援した有川美子さんは、山本太郎さんの「新党ひとりひとり」が擁立した候補者ですね。福祉政策と、川内原発の再稼働阻止、消費税増税反対を訴えていました。

木内
 山本太郎さんが、誰かいないかと見つけた介護福祉士の人です。この有川さんという人がすごくいい人で、東京からも太郎さんの選挙を支援した人たちがいっぱい行ったんですけれど…。1位当選した自民党の陣営は、とにかくお金を使った選挙をやっていました。2位の民主党の候補者は、30人くらい民主党の議員の秘書さんたちが応援に来ていたんですが、数人ずつに分かれて「選挙に行こう」と書いた紙を持って歩いているだけ。民主党、あれじゃ勝てるわけがない。「何やってるの?」と呆れました。
 私たちは、お金はないけれど情熱はあったと思うんですが…。

編集部
 鹿児島2区の有権者の反応はどうでしたか?

木内
 この補欠選がいかに大事な選挙か、一生懸命訴えたんですけれど、届かなかったですね。「今度の選挙は全国が注目しています」と言っても、投票日も知らない方も多くて。川内原発がどれだけ危ないか伝えても、「でもねえ、原発のおかげで暮らしているしね」と言う人もいました。

編集部
 地方選こそ、生活に密着した身近な選挙なので、もっと多くの人に関心を持ってほしいですね。来年は統一地方選挙がありますし。

木内
 鹿児島2区では有川さんは5858票しかとれなくて、自民党の候補者が6万票で、民主党の候補者が4万票。だけど、有川さんのツイキャスを見たり、ツイッター、フェイスブックで追いかけて、寄付もしてくれて、応援もしてくれた人たちがいっぱいいるんです。
 だから、希望は感じています。5858票は種火なんですよ。「この種火は絶対に消えない」という感触はあるんですね。自民党の組織票に比べたら少ないかもしれないけれど、熱があるから。「この熱はいつか伝わっていくよ、フワーッと伝わったら、あるときボッと火がつくよ」と私は思うんです。それは夢見ています。
 三宅洋平さんなんかも、あちこちの地方の市長選や町長選で、熱心に支援活動をやっています。地方選では、これまで選挙に出ようなんて思わなかった人が出始めているでしょう? そういう選挙戦では、ネットの分野で活動している若い人たちも動き出しているので、小さいところから3年後、5年後、10年後を目指して、着々と地固めはできていると思うんですね。

一人ひとりが
「熱」を持って動けば変えられる

編集部
 木内さんはこの3年間、脱原発運動に尽力してこられて、そのつながりで政治や選挙にも関わるようになりました。最近の重要な問題としては、安倍政権は解釈改憲による集団的自衛権の行使容認を進めようとしていますが、そのへんはどう思われますか?

木内
 私はずっと脱原発ばっかり訴えてきたので、集団的自衛権のことは実感としてわからないんですけれど。ただ、去年の夏、報道写真家の福島菊次郎さんのドキュメンタリー映画の上映と写真展と講演が横浜であって、私もイベントに参加したんですね。そのとき菊次郎さんが、「このままじゃ戦争が始まる。今は戦前なんだ」というようなことをおっしゃっていて、あれから1年近く経って、状況は1歩、2歩、3歩、4歩、5歩くらい進んでいるのだろうから、「本当にそうなんだろうな…」とは感じます。
 イベントでは、菊次郎さんに「あなたは女優さんなんだから、あなたが読んでください」と言われて、『あたらしい憲法のはなし』という冊子をその場でいきなり渡されて朗読したんです。『あたらしい憲法のはなし』というのは、「戦争放棄」のことがわかりやすく書いてあって、素晴らしいですね。あれ、日本国憲法が公布された年に配られた中学生用の教科書らしいですね。

編集部
 1947年の5月3日に憲法が施行された後、当時の文部省がつくって配布したものですね。憲法に書かれている内容を、中学生向けに分かりやすく解説してある。

木内
 横浜のイベントの後、府中でも菊次郎さんのイベントがあって、また「読んでください」とリクエストされて読んだんです。そのときはちゃんと読み込んでいって、この素晴らしい冊子を配ろうと考えたのは誰なのか知りたくなったんですね。それで「もともとの発案者を探すプロジェクトをつくろうよ」と私は言っているんですけれど。

編集部
 木内さんが感じているはがゆさのようなものを、私たちも感じています。原発再稼働を目論み、集団的自衛権の行使容認に突き進もうとしている現政権の暴走を止められないでいます。原発も憲法も、大事な局面にあるのに、世の中の大多数は、無関心だったりと。

木内
 私はね、社会と自分は同じ大きさだと思っているんですよ。だって、私が死んじゃったら自分にとっての社会もなくなってしまう。だから、大きな社会があって、その中にちっぽけな自分がいるんじゃなくて、この社会イコール自分だというふうに考えているんですね。だとしたら、こんな社会で生きるのは嫌だ、原発のない社会にしたい、戦争をしない国にしたいと思ったら、自分が動いて変えていくしかないじゃないですか。
 そのとき大切なのは、「熱」じゃないかと思うんです。脱原発の運動やいくつかの選挙戦を経験してわかったのは、どれだけ熱を持っているかで、伝わり方は全然違ってくるということ。偉い政治家が言うことよりも、普通のお母さんの言葉にふっと胸を打たれたりしますよね。権威とか、肩書とか、権力とか、武器とか、そんなもので世の中を動かすことはできない。心に伝わるあたたかいものでなければ、原発も戦争もなかなか止められないと思うんですね。1人ひとりが熱を持って行動すれば、きっと社会は変わります。

 

  

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木内みどりさんに聞いた
(その2)
「熱」を持って動いていこう
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    加速する安倍政権の「暴走」に、ともすれば無力感や絶望感にとらわれてしまいそうな昨今。それだけに、「こんな国に暮らしたくないと思ったら、自分が動くしかない」という木内さんの言葉は胸に響きます。人任せにするのでなく、一人ひとりが「熱を持って」行動すること。それしかない! のです。

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