この人に聞きたい

イノベーションなき経済成長はない

編集部 今の電機産業がなぜここまで悲惨な状況に追い込まれたのか、ということもきちんと検証をしておく必要があると思います。原因の一つはバブルの後処理の失敗でしょう。そして小泉構造改革の結果、雇用の流動化がおこり、賃金を下げ、儲かった分はみんな企業の内部留保にした。企業が成長すると、トリクルダウン(経済が発展し、富裕層が富めば貧困層にも自然と富が浸透して豊かになるとする考え方)してくるはずなんだけれど、ぜんぜんトリクルダウンが起きなかった。企業は米国型経営ということで、当面の利益を上げるために、技術開発投資を怠り、コスト削減競争に走ったわけです。で、結局、ソニーも、パナソニックも、シャープも、NECもボロボロでしょう。日本の電機メーカーって、同じものをただ作ってきたわけでなく、10~20年ごとに新しいものを開発し発明してそれを製品化してきた。ところが、経営陣がやることは、ただのコスト削減になった。その瞬間に雇用をどんどん切っていくようになったんです。製品がデジタル化されたことで、誰にでも簡単に組み立てられるようになったこともあり、人件費の安い韓国や台湾に工場を作るようになっていった。その一方で、リストラされた技術者が韓国、中国の企業などに雇われて、急速にキャッチアップされてしまったわけです。

 ではそのころ、技術革新の競争はどこで行われていたかというと、90年代にIT革命が起こっています。かつてスーパーコンピューターの世界では、ベクター型が主流でNECや日立が世界を席巻したんですね。世界一計算の速いコンピューターも日本製だったし、シェアも3割ぐらい持っていた。ところが、90年代後半から、スパコンはスカラー型に急速に代わっていったんです。でもグローバル競争とか言っていた小泉「構造改革」のときに、もう終わったベクター型でやっている東大の地球シミュレーターみたいのに何百億と使ったりしていたんですね。半導体も韓国のサムソンなどがDRAMメモリーに参入してきたのに、インテルのやっているマイクロプロセッサーに攻めていくことはしなかった。90年代に次なる新しい技術開発に参入しなくてはいけなかったのに、日本のメーカーはバブルが崩壊したから、みんな後ろ向きで、同じようなものを作り続けたわけです。
 グローバリゼーションといいつつ、世界の動向のことはまったくわかっていないからそういうことになるんです。その結果、今、クラウドという言葉があるけれども、巨大なスパコンをどんどん拡大させているGoogle、アマゾンなど――全部アメリカの企業ですね――にどんどんと情報はたまっていき、計算速度も計算コストもどんどん加速している。このクラウドと呼ばれる巨大なコンピューターシステムができると、ただディバイスを作っているだけではダメなんですね。膨大なデータを集積して、いかに人のニーズにあったコンテンツを作っていくのか、どのようなアプリケーションを作っていくのか、ということに競争の重点が移ってきてるんです。
 ソニーは世界でそういうことが起こってきていることは、わかっていた。でもソニーは、系列会社を抱えていて音楽著作権問題で守りにはいってしまった。アップルはまず音楽をネット配信できるiTunesから入っていった。つまりソフトやコンテンツの方から入ったんですね。結局、ソニーは今のネットで音楽をダウンロードさせるというビジネスモデルの先駆けを作ったにもかかわらず、アップルのipodにグローバル市場で負けてしまったんです。

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金子 そういうイノベーションが日本企業にできなかったのは、小泉政権の経済政策と関係あるんですか?

編集部 小泉政権の政策は、市場にまかせておけばいいという経済政策だったから、結局何も手を打たなかったわけです。新しい産業を生み出し育てるためには、ある程度、戦略性がないとだめなんですよ。

編集部 アメリカにはあったわけですか?

金子 アメリカは、クリントン政権でゴアが副大統領の時に情報スーパーハイウェイ構想というのをたてて、その路線でこういうことが起きた。アメリカが自由競争だけやっているかというと、それはまったくうそで、アメリカはある種の「タニマチ」モデルなんですよ。例えば、アマゾンはずっと赤字が続き、ITバブルの時でもまだ不振だった。しかし、デビッド・ショーといって、情報スーパーハイウェイ政策に参画した一人で、コンピューター技師でありながら3兆円近いファンドを運用するヘッジファンド「DEショー」を経営していた人がいるんですが、彼が「このビジネスモデルは必ず成功する」と考え、ずっと赤字だったアマゾンを支え続けていた。
 そもそも投資とは、百投資して、二つか三つ、いいものができ、それで上場したら、莫大な利益がかえってくるというものなんです。Facebookもこういう「タニマチ」モデルですね。それを日本人はまったく勘違いをしていて、みんな自由競争して、自己責任でやれば、新しいビジネスがどんどん生まれてくるなんて、そんなわけないんです。で、日本はIT革命とかいいながら、ホリエモンや村上ファンドみたいな買収屋さんしか出てこなかった。

編集部 それらの政策をやってきた政党は、自民党。

金子 自民党の成長戦略は明らかに「バブルよ再び来い」という金融自由化路線でした。なのにその反省がまったくない。そしてまた逆戻りして、ばらまきの公共事業をやる、などと言っている。そんなことやっていたら、ゼネコンがもうかるだけでいつまでたっても新しい成長産業なんて生まれてきやしない。原発事故やトンネル事故をみてもわかるように、補修するのがせいいっぱいの国なんですよ。老朽化して壊れかけている国なんですよ。
 格差が開き、新しい産業が生まれず、雇用ができなくなって若い人たちがぼろぼろになって、デフレも続いたまま。リーマンショックに結びつくような、金融の自由化ばかりやってきた。それがこの「失われた20年」なんです。

この国のリーダーの無反省、
無責任ぶりが経済をダメにしている

金子 この国のリーダーがいかに無反省で無責任かというのは、今回の原発事故で決定的になりましたね。考えてみれば、不良債権問題から原発事故にいたるまで、誰一人責任をとっていない。反省がないから、検証もできず、転換もできない。だからまた同じところにもどってくるだけです。
 規制緩和を主張する財界からして、電力・製鉄・化学など規制に守られた産業が中心で55年体制そのものなんですから、おまけに官僚がそれと結びついて既得権益を守るために規制緩和をする。笑い話としか思えない。
 政治家も学者もメディアも同じで、「偽物の改革者たち」が、自分がデフレを創り出した犯人なのに、日銀のせいにしたりする。そして自分だけが生き残ろうとする。そしてただ市場に任せろという、新興宗教のようなものを植え付けている。これらのツケが全部、今にまわってきているんです。

編集部 でも、自民党や維新が唱える「デフレ脱却・景気対策」が人気あるのはなぜなんでしょうか?

金子 それは人の「もうかりまっせ」というさもしい精神をくすぐるからです。目先の株が上がればいいじゃん、景気が持てばいいじゃん、というそういうところに訴えているだけで、結局、長期の成長戦略は描けない。そこで、郵政民営化とか道州制とか、本質的でない所で何か「改革」をやっているポーズを作るんですね。

編集部 その、とりあえずもうかりますよ、と言われ、票を入れてしまう有権者の方にも問題がないとはいえないですね。

金子 そうです。で、そういう国は滅びていくんです。

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