この人に聞きたい

民主的な国家の方が、
情報統制による危険性が高い

伊藤 秘密保全法制は、軍事、外交、公共の安全、秩序維持と網が非常に広く、国家の側からすれば、何でも秘密保全法違反として捕まえることができてしまうわけです。官僚の、いわば国家の側の恣意的な判断によって逮捕され、起訴されるというようなことが、横行することになりかねません。
 国家にとって気にくわない人を狙い撃ちして、国家に不都合なことは「これはダメだ」と言って隠してしまう。国家の側が情報をコントロールするということは、国家が不都合な情報を秘密として握りつぶすというだけではなく、国家の側に有利な情報は積極的にリークできるのです。このことも、孫崎さんがよく指摘されています。しかも、総理大臣や国務大臣などは規制の対象者になっていませんから、権力者の恣意的な情報操作を制御できない可能性があります。
 このように秘密保全法が制定されると、国家権力側にいる人間が、自らの国政運営に関する情報を完全にコントロールできるようになり、マスメディアが国から貰った情報を大々的に報道することによって、国民は気づかないうちに、完全に情報統制されることになるでしょう。
 これは、アメリカで既に行われています。ブッシュ政権でもオバマ政権でも、違法に国家機密を漏洩している者がいても、その者を起訴する、しない、ということを恣意的に政府が判断しているのです。
 同じことが日本でも行われる危険性はあります。特に、日本の大手メディアというのは、国家から流される情報を批判して検証するということはほとんどやりません。したがって、国にとって都合のいい情報だけが流されて、それがマスメディアによって拡大・拡散して国民に伝わり、国民はその限られたゆがんだ情報の下で一定の民意を形成し、権力に対して民主的な正当性を与えてしまうのです。

 ですから、独裁国家よりも、民主国家における情報統制のほうがよほど危険です。独裁国家だと、独裁者に対して、たとえ心の中であったとしても「あいつはひどい」と国民は批判できます。ところが、民主国家において情報統制がなされると、主権者たる国民は知らず知らずのうちに権力者に支配・コントロールされて、情報統制をされているという意識を持たないまま、選挙などを通じてその権力に民主的正当性を与えてしまうのです。つまり、民主主義の名の下で、人権侵害や平和を破壊するという国家運営に対して、主権者国民が正当性を与えてしまいかねないのです。「秘密保全法制」はその原因になる制度だと思います。

アメリカの要請に
官僚たちが悪のりして作った
今の「秘密保全法制」

編集部 軍事機密だけでなく、公的秩序にまで網を広げているということも、アメリカの要請なのでしょうか?

伊藤 いえ、そうではありません。警察官僚が監視社会を進めたいために、悪のりというか、便乗してきたのだと思います。

編集部 まさに悪のりですね。アメリカの要請であり国家防衛のためだと言って…。

伊藤 権力者側が自分の思う政策を実現しやすい環境を整備したいのです。政策担当者である政治家や官僚は、本当に自分の信念に基づいて、自分の思うような国づくりをしたいわけです。私はそういう人たちの言動のすべてが私利私欲に基づいているわけではないとは思っています。ただ、自分が実現したいと思うような国家像に対して障害になるようなものは徹底的に排除しようとし、また自分の思う国家像を実現するために、国民は自分たちの言うことにただ従ってさえいればいいと、国民がもの言わぬ従順な存在になるように望んでいるのです。

 しかし、それでは日本を国民主権国家ということはできません。まるで国会議員主権・官僚主権の発想であり、国民をバカにした考えだと思います。やはり権力の側に立って、国を動かす力を行使するという経験をしてしまうと、勘違いをしてしまうのかもしれません。秘密保全法制はそういう政策担当者にとって、自らの信じる政策を実現しやすい環境整備をするための強力な道具になるのは確かです。

 そして、あえてもう一つ言えば、多国籍企業の武器製造や輸出などの促進という、日本の経済界、特に軍需産業の要求もあろうかと思います。やはり秘密保全がきちんとできないと、アメリカと協力して武器を製造することはできません。アメリカの企業などと協力しあいながら武器の製造や輸出をしていきたいと考えている日本の軍事関連企業にとっては、アメリカを安心させるためにも秘密保全法制を整備する必要性があるのでしょう。

 以上のように、秘密保全法制を必要とする要求は、大きく次の4つです。
1)軍事一体化の促進というアメリカからの要求。
2)多国籍企業による武器輸出・製造の促進という軍需産業からの要求。
3)警察による監視社会の促進という警察官僚からの要求。
4)政策担当者が政策を実現しやすい環境を整備したいという官僚・政治家からの要求。

 いずれもそれぞれの思惑があるわけですが、これらが相まって今のような秘密保全法制が作られているのでしょう。

編集部 伊藤先生は秘密保全法制定阻止のロビイングにも行かれているとお聞きしましたが。

伊藤 はい、弁護士仲間で手分けをしながら、国会議員の皆さんたちに、秘密保全法制の問題点を伝えていっています。実際に話ししてみると、ほとんどの人が知らず、情報を持っていません。「えっ、そんな法律なんですか」という反応が多いです。「問題だとは聞いていましたが、そこまでとは知りませんでした」と言う方も結構います。もちろん、民主党の中にも「これはおかしい。問題だ」と言う方々も何人もいらっしゃいますので、そういう良識を持った国会議員を中心にしながら、きちんとロビー活動をしていきたいと思っています。
 というのも、私は先ほど言ったように、この秘密保全法制は、日米安保をどうするかという根本的な問題を解決しない限り、法制化の動きを回避できないと思っています。ですから、国会に秘密保全法案が提出された時に、「公共の安全、秩序の維持」といった余計なものが入らないようにしたり、第三者機関を入れて主権者たる市民がチェック・監視できる仕組みを組み込むような形にしたり、処罰の範囲を限定したりする必要があるでしょう。
 繰り返しになりますが、私はこのままで法制化されると、とんでもないことになるという強い危機感があるので、この危機感を多くの市民の皆さんと共有できるように日々活動しているのです。

編集部 官僚の「悪のり」部分は何としても、除外させないと市民生活が脅かされてしまいますね。

(聞き手 南部義典 写真・構成 塚田壽子)

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