この人に聞きたい

被曝のリスクはあっても
免疫力を上げて病気を発症させない

編集部 福島原発の事故後、肥田先生は毎週土日、講演会などでお話をされているそうですね。

肥田 みなさんの反応がこれまでと事情が違うのは、自分や子どもの命に関係することですからね。特に我が子の命に関わることですから、お母さんたちはもう真剣です。事故の直後、放射線を避けるために、まず遠くに逃げろ、と言われた。その後、汚染された食べ物はなるべく食べるな、ということも言われた。でもその後は、国も行政も放ったらかしの状態です。親御さんたちの不安とストレスは頂点に達したと思います。
 個人の力では、避難したくてもできる人とできない人が出てきますからね。みんなができないことは、私は言いたくはないのです。でもそこで「じゃ、肥田先生はどうしたらいいと思いますか?」と聞かれた時、果たしてなんて答えたらいいのだろうかと、ずいぶんと悩みました。

 私は、原爆被爆者の集団に入って数十年に渡って活動をしてきましたが、そこでやってきたことを思い返していきました。二十何万人の会員がいるうち、医者は私一人です。だからみんなからは、「健康で長生きするにはどうしたらいいのか?」ということをいつも聞かれていました。
 だいたいみんな中年になってくると、成人病が出てくる。それを僕にどうしたらいいのか? と聞いてくるのだけれど、それは本人が自分の命を引き延ばすという覚悟を持って、そういう生き方をしないとダメだよ、とまずは言いました。
 かつて人間の祖先である生物は、海の中に住んでいました。それが何かのはずみに陸に上がり、何億年もかけて、大気中にあった紫外線や放射能に対しての免疫力をつけて生き延びてきたわけです。その時、どのような行動をとっていたのか。それは太陽と共に生きるということ。日の出と共に目覚め、日の入りと共に眠る。それを今の私たちの生活にそっくり置き換えることはできないけれど、夜遅くまで酒を飲み歩き、睡眠不足なまま起き、時間がないからと朝食もとらず、駆け足で電車に飛び乗って会社に行く。これでは毎朝自殺行為を繰り返しているようなものです。
 そんなことで本当に病気にならないで長生きできるの? という人には、「では私をみなさい。あなたよりもずいぶん年を取っているけれど、明日死ぬとは見えないでしょう?」。当時はまだ私も70歳でしたから。そういうことを言いながら、被爆者を長生きさせる運動を「生活改善」を説きながら行ってきたのです。

 それを思い出したら、今、被曝した人間が子どもも含めて、自分の意志でやれることは、これしかないと思ったのです。実際、私の長年の経験に基づいてやってきたことです。私自身もそうですが、被爆者という悪条件のもと96歳まで生きてきましたし、広島の被爆者も70~80歳まで生きのびて、今も元気な方はたくさんいらっしゃいます。ヒバクしたからといって、みんなが病気になって早死にするわけではありません。

編集部 放射線によるリスクは負ってしまったけれど、それに負けない強いからだを作る、ということですね?

肥田 そうです。放射線による影響を受けながらも、病気を発症させなければいいのです。自己免疫力を上げて病気にしなければいいのです。本人が努力をすることでできることなのです。

編集部  その具体的な方法が、「3・11以降を生きるための7箇条」(*)ですね。

(*)1)内部被曝は避けられないと腹を決める 2)生まれ持った免疫力を保つ努力をする 3)いちばん大事なのは早寝早起き 4)毎日3回、規則正しく食事をする 5)腸から栄養が吸収されるよう、よく噛んで食べる 6)身体に悪いといわれている事はやらない 7)あなたの命は世界でたったひとつの大事な命。自分を大切にして生きる
(「311以降を生きるためのハンドブック」制作:アップリンクより)

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