この人に聞きたい

自民党圧勝の結果に終わった参院選。さらに「改憲」が現実味を帯びてきた状況に、中国、韓国メディアなどではすでに、「憲法改正の動きの加速」を懸念する報道が始まっているともいいます。日本が9条を失うとはどういうことなのか? 世界が日本を見る目は、それによってどう変化するのか? 2008年に2万人以上を集めて開かれた「9条世界会議」事務局長を務め、NGOピースボートの共同代表として、世界各地の人たちの声を聞いてきた川崎哲さんにお話を伺いました。

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川崎哲(かわさき・あきら)
1968年東京生まれ。ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)共同代表。「アボリション2000」調整委員。2008年から広島・長崎の被爆者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」プロジェクトを実施。2009~10年、日豪両政府主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」でNGOアドバイザーを務めた。著書『核拡散』(岩波新書)で日本平和学会第1回平和研究奨励賞を受賞。雑誌『世界』(岩波書店)をはじめ国内外のメディアに寄稿多数。恵泉女学園大学非常勤講師。日本平和学会会員、日本軍縮学会会員・編集委員。
9条を変えることで、
戦争の脅威はかえって高まる

編集部
 これまで川崎さんは、NGOピースボートの共同代表として、2008年の「9条世界会議」の事務局長を務めるなど、憲法9条の問題に積極的に取り組まれてきました。最近の改憲論争については、どう感じられていますか?

川崎
現政権がこれまで直接的に訴えてきたのは憲法96条の改定ですが、本当の目的が9条改定であることは明らかです。改憲論争自体は過去にも何度かありましたが、今の自民党の支持率から見て、いよいよ現実味を帯びてきたと危機感を抱いています。

編集部
 9条が変わってしまうことによる、最大の問題は何だとお考えですか。

川崎
9条改定は、“世界における日本の立ち位置”を左右する問題だと考えています。
 戦争の放棄を定めた9条を変えるということは、諸外国に対し日本は「戦争を放棄することを放棄した」というメッセージを送ることです。周辺諸国との軍拡競争を引き起こすなど、戦争の脅威が高まることになるでしょう。
 海外から見ると、これまで日本は「ヒロシマ・ナガサキ」のイメージが強く、「平和の国」として受け止められてきました。しかし、9条を手放すことでそのイメージは失われます。既に中東などでは、アメリカと組んでイラク戦争に加担したことなどから、日本に対して「もう平和で友好的な国ではない」という見方が強まりつつあり、それとともに日本人が武装勢力に襲われたりというケースも増えてきています。

編集部
 「改憲すべき」という人の中には、軍拡のための改憲ではなく、自衛隊の存在を明文化して逆に軍拡への縛りをかけるべきだ、と主張する人もいますね。

川崎
そうですね。改憲といってもさまざまな意見があります。平和のための改憲だ、という人もいます。しかし、憲法というのは国の理念や基本姿勢を示すものです。日本が平和に対して真剣だというのなら、「日本は過去の戦争を反省して平和を選択した」という戦争直後の宣言に対して、どういう形であれ手を加えることは、外交上の深刻なマイナスをもたらします。仮にあからさまな軍拡をすぐに伴わないとしても、憲法を変えるだけで、日本はこれまでの平和主義を変えようとしているという意思表示になります。しかも、安倍(晋三)さんが首相になった時、ニューヨークタイムスは「右翼国家主義者が首相になった」と書きました。今の日本は世界からそうした見られ方をされているのですから、「平和のための改憲だということを分かってもらおう」なんて言っても通用するはずがない。日本はまた戦争の準備を始めたのだと理解されるでしょう。

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※コメントは承認制です。
川崎哲さんに聞いた(その1)9条改定は、
「戦争放棄を放棄する」こと
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    開票速報番組でのインタビューで、
    「憲法改正を進めていく」とも明言していた安倍首相。
    川崎さんにお話を伺ったのは参院選の前ですが、
    9条改定が世界に与える「メッセージ」についての提言は、
    さらに大きな意味を持つことになりそうです。
    9条を捨てて軍事力を持つことが、果たして本当に「安全」に、
    そして国際社会における日本の地位を向上させることにつながるのか?
    「軍事力=強さ」の思い込みを捨てて、今こそ検証しなおすときです。

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