この人に聞きたい

「活動家」の定義を変えたい

編集部
 さて最後に、湯浅さんが今年の5月からPARC自由学校で担当しておられる、「活動家一丁あがり!」講座についても伺いたいと思います。「社会にモノいう初めの一歩」というタイトルで、「労働組合運動の現場を見よう」「ロビイングのイロハ」「イベントに参加してレポートを作成」など、ユニークなカリキュラムが並んでいますね。そして最後は「活動家一丁あがり!活動家総決起集会決行」。
 こうした講座を立ち上げられようと考えられた経緯をお聞きしたいのですが、そもそも湯浅さんが定義する「活動家」って何なんでしょうか?

湯浅
 今、とりあえず考えている定義は「市民の中の市民」ですね。で、市民って誰?というと、「ものいう人」。社会に責任を持つ人、という感じかな。 国民は「国家の中にいる人」、子どもや親は「家族の中にいる人」、生徒や教師は「学校の中にいる人」。じゃあ市民ってどこにいる人だろう? と考えると、多分「社会」かなと思うんです。
 「ものいう人」の市民がつくる「市民社会」のイメージは、今の日本社会に比べればもうちょっとものが言いやすい、言える社会。そして、ほかの人を巻き込んで、そういう雰囲気をつくっていくのが「活動家」だということですね。

編集部
 その「活動家」を育てる講座をやろうと思われたのは?

湯浅
 まずあるのは、「活動家」の定義し直しをしたいということなんです。「活動家」のイメージって、私くらいの世代では非常に悪くて、「ナントカ主義者」で「どこで爆弾つくってるんですか」みたいな感じなんですよね(笑)。もうちょっと若い世代になれば少し違うんでしょうけど、全体としてあまりイメージがよくない。
 で、それは言ってみれば、学級委員長はクラスで人気がないというのと同じなんじゃないかと。つまり、言ってることが間違ってるわけじゃないけど、「いつも正しい」のが気に入らない。煙たがられるのは主張する内容が悪いからじゃなくて、独善的な雰囲気とか、「これに賛成しないやつはみんな悪人だ」みたいな決めつけぶりとか「俺のやってることがおまえにわかるか」みたいな尊大さとか(笑)、そういうところが駄目なんじゃないかと。
 そういうところをもう少し転換したい。そうできれば、もうちょっと「活動家」に対して抵抗の少ない社会になるだろうし、もう少し生きやすい社会になるんじゃないかと思うんですね。それで「一丁あがり」を始めたんです。

「もの言う」のが普通の風景になる社会へ

編集部
 その「一丁あがり」講座、想像以上の応募があったそうですが、顔ぶれはどんな感じなんですか?

湯浅
 今回はとりあえず20代、30代の方に限定させてもらったんですけど、44人の応募があって。6〜7割が女性ですが、学生さんもいれば働いてる人もいるし、労働組合に勤めてるという人もいるし、いろいろです。こんな「普通」の人たちが活動家になりたいなんて、すでに社会がだいぶ変わってきてる証拠じゃないかなと思って、非常に期待してます。この間の講座では、「活動にだってファッションが大事だ。みんなもっと綺麗な格好をしなきゃ」なんて議論が出ていましたね(笑)。

編集部
 すでに自分で何か活動をしていた人たち、というわけではないんですか?

湯浅
 してたという人もいるし、そうでない人もいます。それもいろいろですけど、ただみんな何となく息苦しさを感じているんだと思いますね。ものを言うと何か、かえってヤブヘビになるみたいな雰囲気があって、自分も何も言えないしみんなも言わない。そういう状況に対して、「もうちょっと何とかならないか」という感覚自体は、多くの人が持っていると思うんです。ただ、そのことと「活動する」ことがすごく遠くなってしまっているのが不幸なんですよね。それがもうちょっと近くにあっていいんじゃないか、と。
 今、駅前でギターを弾いている人って珍しくないでしょう。あと、スケボーやダンスの練習をしてるとか。でも、10年前にはああいう人たちはほとんどいなかった。最初はすごく奇異に感じられたはずなんです。だけど、そこからデビューしてのし上がって、みたいな人も出てくる中で、社会的な認知ができて、それも一つのあり方だという感じになってきた。うまい人ばかりじゃないし、うるさいといえばうるさいんだけど、みんな何となく許しちゃってるんですよね。
 だったら、その中にアメリカやヨーロッパの公園によくある「スピーカーズコーナー」、みんなが勝手に自分の意見を言う場所みたいなのがあってもいいはずだと思うんです。今はハードルがすごく高いけど、もうちょっとみんなが普通にやり始めれば一つの「風景」になるはず。そこへ引っ張っていくのが「活動家」だと思うんですよね。

編集部
 今回の講座は1年間、来年5月までですが、その先は何か考えてらっしゃいますか?

湯浅
 「一丁あがり」を、本当はちゃんとした「学校」にしたいんですよね。今回は初年度だし資金もないしというので、サークルみたいな感じにしたんですけど。ちゃんと教室のスペースがあって、そこにいろんなテーマで講師が来て話す。市民大学のような、そういうものをやりたいんです。
 たとえば「9条の会」とか、平和運動、護憲運動の「地力」やネットワークを活かせれば、それも可能なんじゃないかと思うんですが、どうでしょうか?(笑)

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湯浅誠さんに聞いた
(その2)
市民が「もの言う」のは
当たり前の社会へ
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    「フツー」の人たちが、「声をあげる」のが当たり前の社会。
    今よりずっと風通しのよさそうな、そんな社会を想像すると、
    なんだかワクワクした気持ちになります。
    湯浅さん、ありがとうございました。
    「一丁あがり」の今後も楽しみです!

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