鈴木邦男の愛国問答

 北朝鮮問題について考える集会に出た。それも、かなり突っ込んだ、本質に迫るものだった。1月末に3回も出た。2回は僕もパネラーとして出たシンポジウムで、もう1回は、韓国の研究者の話を聞きに行ったのだ。そして、少しずつ霞が晴れてきて、問題の本質が見えてきた。そんな気がした。ミサイル、原爆、水爆の実験……をやり、世界中から批判・糾弾されている。北朝鮮を支持し、理解しようとする友好的な国々の期待も裏切り、喧嘩を売っている。わざと嫌われるようなことをしているのではないか。そう思うほどだ。

 僕は今まで4回、北朝鮮に行っている。「よど号」グループと会ったり、労働党の人と会ったりした。そして思ったことは、こうだ。北朝鮮は、ともかく自分の国を守るのに必死になっている。「どこの国だってそうだろう。そのために軍隊を持っているのだし」と言われるだろう。でも、その意識が異常に強いのだ。又、被害者意識が強い。アメリカ、韓国、日本をはじめ、多くの国々が北朝鮮をつぶそうと狙っている。いつ攻めてくるかもしれない。それに対し備え、準備しておかなくてはならない。その意識が強い。もし攻めてきたら、韓国、アメリカをも火の海にすると公言している。「世界がこのままで、北朝鮮だけが滅びるなんてことはない。北朝鮮が滅びる時は、世界も共に滅びる時だ」と言う。これは北朝鮮に行った時に聞いた。

 アメリカによって攻められ、滅ぼされた国も実際あるのだから、北朝鮮も思いつめた覚悟になる。では、イラクなどに対しては同情的だと思っていた。アメリカが一方的に戦争を仕かけて滅ぼした国だ。だから、同情していると思ったら、それは全くない。「戦うのなら、初めからその覚悟が必要だ」と言う。交渉してみたり、あるいは戦いを口にしたり、はっきりしない。「それに、イラクは核がないから負けたんだ」と言う。そうか、だから、核を手放さないのだ。「我々はイラクとは違う。攻められたら核を使う」。そう言われたらアメリカも手が出せない。

 イザとなったら、核を使う。それだけが国家を守っていてくれる。という固い確信がある。ただ、「核を持っているぞ」「イザとなったら使うぞ」と脅しをかける。ではその「脅し」によって何を得ようとしているのか。新聞各紙に載っているが、それによって、アメリカを交渉の場に引き出す。つまり、アメリカとの話し合いだ。「話し合え」と言って、核の脅しをかけている。では、アメリカと話し合って、何を求めるのか。簡単に言うが、自分たちの国を認めてほしい。それだけだ。何も不当な要求ではない。無理難題でもない。アメリカにとって北朝鮮はけしからぬ国だろう。でも、国家として存在しているのだから、それは認めてほしい。国家として認められないから攻めて滅ぼしてしまう。それだけはやめてくれ。という要求なのだ。核を持って、アメリカを交渉の場に引き出す。そして北朝鮮という国家を認めてほしい。核を持って脅し、要求しているのは、それなのだ。
 
 だったら、問題は簡単だ。アメリカの大統領が会ってやればいい。北朝鮮に出ていってもいい。そこで、不愉快な国だし、政治体制も違う。でも国家だ。国家として認める。そして「北朝鮮に対して何もないのに、一方的に戦争を仕かけることはない」と言ったらいい。そのくらい認めてやったらいい。北朝鮮がそれで安心するのなら、安心させたらいい。韓国や日本にも北朝鮮にシンパシーを持っている人はいる。その人たちも、北朝鮮が「認知」されることを求めている。アメリカと北朝鮮が話し合い、さらに進んで国交回復したら、そうなったら日本もすぐ続くだろう。でも、そんな国々の思いを裏切るように北朝鮮は核実験を続けるし、アメリカは相手にしない。北朝鮮の「話し合い」の場に出ようとしない。これはおかしい。と思っていた。

 シンポジウムに参加した韓国のパネリストが言っていた。「皆がアメリカに北朝鮮と話し合ってほしいと思っている。そうしたら核実験などもうやらない。話し合い、共存する方向にいってもらいたい。そう思っている。しかし、アメリカは相手にしない。何故か。話し合って、共存を認めると、国内での緊張がなくなる。それが恐いのだ」という。核をもって脅している北朝鮮の方がいいのだ。汚い悪役がいた方がいい。その方が、アメリカ国内では「悪と戦う」といって支持される。「強いアメリカ」というイメージを維持できる。なるほどと思った。

 北朝鮮は、核実験を強行することによって、世界中の批判を浴びた。とりわけアメリカ、韓国は徹底的に攻撃する。それを見て「ほら見ろ。アメリカは我々をつぶそうとしている。我々は断固として戦う」と言って、国民を鼓舞している。北朝鮮もアメリカをはじめとした国々から攻撃されている方が都合がいいのだ。批判があるからこそ、北朝鮮はやっていけるのだ。アメリカだって、そんな「狂暴な北朝鮮」がいるおかげで、国民の支持を得て国家の軍備を増強できる。だから、北朝鮮とアメリカは、まるで〈共謀〉してやっているようだ。と言っていた。それはあるだろうなと思った。北朝鮮をどう考えたらいいのか、北朝鮮をとりまく国際環境と、日本での政治家や学者のコメント……などを見て、そう思った。そう考える基礎になった3つのシンポジウムだが、一応、名前だけ紹介しておこう。

1)1月16日(土)午後1時から 「座・高円寺」
 〈今だから語る、拉致問題と北朝鮮の真実〉
 パネリスト:蓮池透(元「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」副代表)、原渕勝仁、鈴木邦男 司会:椎野礼仁

2)1月19日(火)午後2時から 山梨県立大学
 〈戦後70年を経て、あらためて日本のアイデンティティを考える―日中韓それぞれの視点から―〉
パネリスト:石純姫(苫小牧駒沢大学国際文化学部准教授)、張兵(山梨県立大学国際政策学部教授)、鈴木邦男 コーディネーター:徐正根(山梨県立大学国際政策学部教授)

3)1月29日(金)午後6時30分から 学士会館 (主催:東アジア総合研究所)
 〈第19回 緊急時局北朝鮮問題セミナー・朝鮮労働党第7回大会を占う〉
 講師:鄭成長(韓国世宗研究所統一戦略研究室長)、梁文秀(韓国北韓大学院大学教授・東京大学博士) コメンテーター:小牧輝夫(東アジア総合研究所 所長)、 五味洋治(東京新聞編集委員) 司会:小野田明広(東アジア総合研究所 副理事長)

 

  

※コメントは承認制です。
第192回北朝鮮問題を、どう考えたらいいのか」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    「強いアメリカ」と「狂暴な北朝鮮」――実際の状況は、そんなに単純ではないようです。国外での危機を煽り、国内の政治に利用する――こうしたことは、歴史のなかで何度も繰り返されてきました。政治的な思惑に利用されないためにも、感情的にならず「この問題の本質は何か」という冷静な視点をもつことが必要とされています。

  2. 多賀恭一 より:

    「北朝鮮とアメリカは、まるで〈共謀〉してやっているようだ。」
    この発言は、韓国人の被害妄想だ。アメリカは北朝鮮にウンザリしているだけだ。
    中国が北朝鮮に経済支援を続けるおかげで、何時まで経っても北朝鮮の狂暴が終わらないのだ。
    北朝鮮問題とはすなわち中国問題なのだ。
    中国もたまには世界平和の役に立つべきだ。

  3. 宮坂亨 より:

    北朝鮮は行ってみたい国。アントニオ猪木や雨宮処凛やきむきがんさんと一緒に連れて行ってください。友人の内二人がすでに言ったことがあるという。俺も負けてられない。ちなみに母は朝鮮からの引揚者。

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鈴木邦男

すずき くにお:1943年福島県に生まれる。1967年、早稲田大学政治経済学部卒業。同大学院中退後、サンケイ新聞社入社。学生時代から右翼・民族運動に関わる。1972年に「一水会」を結成。1999年まで代表を務め、現在は顧問。テロを否定して「あくまで言論で闘うべき」と主張。愛国心、表現の自由などについてもいわゆる既存の「右翼」思想の枠にははまらない、独自の主張を展開している。著書に『愛国者は信用できるか』(講談社現代新書)、『公安警察の手口』(ちくま新書)、『言論の覚悟』(創出版)、『失敗の愛国心』(理論社)など多数。近著に『右翼は言論の敵か』(ちくま新書)がある。 HP「鈴木邦男をぶっとばせ!」

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