松本哉ののびのび大作戦

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 どうもどうも、皆さん。例によってご無沙汰しております。
 さすがにこの連載も力尽きて終わりかと思いきや、なかなかそうはいかない。マジメなものや真剣なものはすぐ力つきてしまいがちだが、こちらは適当でいいかげんなのでなかなか死なない。
 さて。適当でいいかげんといえば東南アジア。東南アジアと言えば適当でいい加減(怒らないでね)。何を隠そう、連載をサボっている間、最近、マレーシアやシンガポールに足を伸ばして来たりいろいろまた新たな大バカ達と遭遇しまっているのだ。せっかくなので、ちょっとだけ紹介してみよう。

 1〜2年前、韓国の釜山に行った時、各地のアーティストやらミュージシャンやらが集まってたんだが、その時マレーシアのクアラルンプールからも2人のアーティストが来ていて偶然友達になった。聞くとやってることはすごい面白い。高度成長中のクアラルンプールの街は例によって再開発の嵐。で、それじゃあまりにも街がつまらなくなるってことで、対抗して市中心部の古い町並みでアートイベントをやったりしている。それだけならありがちな感じだけど、「社会とは無縁です」っていう日本式アートとは違って、完全に抵抗の意志を持ってやってる。それに、地域の地図を作ってみたり商店街の重鎮と仲良くしてたりと、なんだか高円寺北中通りのようなにおいもする。おお、これは面白そうだってことで、ちょっと遊びに行ってみることにした。
 

マレーシアはマヌケだった!

 早速、現地に行ってみると、知り合いの紹介でFindarsという謎のスペースに泊めてもらえることになった。ここは、絵を描いてる奴らとか映像を作ってる奴らとか音楽やってる奴らなんかが集まって自分たちの場所を作ってる所。ビルの中にあるんだけど、音楽イベントをやったりアトリエになったりするスペースもあるし、レコーディングスタジオもある。この何でもアリ感は、以前紹介した釜山のAgitというアートスペースにも似てる。でもちょっと違って、よりアングラ感があるし、みんなのんびりしてて、全般的にマヌケ感が漂っている。誰も頑張ってない感じがいい。さらに、高円寺と同様、昼間は人が少ない。まだ寝てたり散歩してたりしていて、夕方以降になるとだんだん人がやって来る。集まる人たちもいい感じで、なんだか毎日ニコニコしてる人とか、昼寝してる人がいたり、何か作業してたり、みんな勝手にやってる感じでいい。そして突如、誰かが山から謎の植物を持って来たりして、幸せな空気が漂い始める。う〜ん、このノリ、東南アジアって感じ! 日本や韓国や香港なんかのマヌケな場所作ってる奴らの雰囲気とはひと味違う。あ、台湾の南の方の連中とはちょっと似てるかも・・・。
 クアラルンプールは東南アジアの中でも急発展を遂げているところで、大都市化が進んでおり、どこもかしこも開発ラッシュ。どんどん古い町並みが潰され商業ビルになって行く感じ。ただ、その隙をうまく見つけて場所を作って行く感じ、やはり大アホな奴らの隙をつく力はどこに行っても心強い。

マレーシア人

東アジア式交流術が通用せず!

 さて、去年や今年に香港で東アジアマヌケサミットをやった時と同様、多国籍な奴らがとりあえず仲良くなるのは今の世の中では最重要ポイント! 世界の大金持ち連中は急速にグローバル化を進めており、貧乏人から金を巻き上げるシステムの急拡大中なので、我々もそのままエジキになったらたまったもんじゃない。こっちも世界中の大マヌケな奴らと仲良くなり、ボッタクリまみれの経済圏に対抗するグローバルマヌケコミュニティを形成してしまうのがいい。
 ってことで! これはひとまず飲みまくるしかないね〜!!!!! …と、思ったが、これがなんとどいつもこいつも酒を飲まない! そう、すっかり忘れてたがマレーシアはイスラム国。遊びに行って友達になった人たちは華人(中華系の住民)が多いから、本当は関係ないはずなんだけど、やっぱり国がイスラムってことになるとどうも酒文化は衰退するらしく、あまり飲まない。酒税もたくさんかかってるから酒もやたら高いし(缶ビールが300円ぐらい)、街にはムスリムの人もたくさんいるから、外で大酒飲んで大騒ぎするのもどうも具合が悪いんだろう。それでなんとなく酒文化が少なくなっているらしい。
 う〜ん、これはマズい。これまで、とりあえず、大量の食べ物や酒を囲んで「酒だ酒だ! うわー、これは景気いいぞ!!」とか言って乾杯すれば何とかなっていたのが、どうもここはそういう感じじゃない。よくよく考えたらイスラム国に来るのは初めて。おい、どうすりゃいいんだ。…と、思いながら夜も遅くなって来た時、マレーシアの奴らが突如「じゃ、外に飲みにでも行こうか」というから、「おお、ついに!」と行ってみると、飲むのはなんと、やたら甘いミルクティー。ついでにめちゃくちゃ甘いスイーツをどんどん注文! なんだそれ! 完全に大酒飲みの顔をしてるやつとか、全身入れ墨だらけの男とか、怖い顔の人とかも夜中に甘いお菓子を頼んで大喜びしている。いやー、これは一体どうすればいいんだ!?
 しかし、最初は困り果てていたものの、あきらめて来ると段々慣れて来て、お菓子とかが欲しくなって来るもの。まあ、気にはならなくなって来るけど、東アジア圏のように盛り上がったら乾杯してテンション上げて行ったり、気まずくなっても乾杯してごまかす…、という技が使えない。なるほどー、これは少し研究の余地があるかもしれない! 世界のマヌケな奴らが至る所をウロチョロし始めて収集着かない状態にして悪を滅ぼすという、世界マヌケ革命の実現にはまだいろいろな技を研究しないといけないな〜
 とは言っても、窮屈な世の中に対抗するかのような謎のスペースを作っている奴ら同士ってのは、基本的にやってることが同じだからすぐに仲良くなる。それに、実は共通の友達もたくさんいて、その直後には韓国の釜山でも会ったり、そのメンバーの1人が日本にやって来たりもした。いよいよマヌケコミュニティも東アジア外にもつながって来た。いや、いいね!
 余談だけど、マレーシアで金持ちの白人のコレクターがfindarsたちの作品を気に入り、べらぼうな値段で売れたとのことで、それで金を手にした奴らが、全部使い果たす勢いで海外に遊びに出たらしい。う〜ん、金の使い方も景気よくていいね!!

江上賢一郎氏登場!

 さて、そこへ登場するのが福岡の江上賢一郎氏というマヌケスポット探検家。彼は写真を撮る人で、いつもカメラを持ち歩き、ことあるごとに海外へ行っていろんな訳の分からない謎のスペースを訪れ、写真を撮って来て、しかもやたらと現地に溶け込むので、やたらと東アジアの大バカ事情に詳しい。
 で、数ヶ月前、「もうちょっとブラブラしてみたいな〜」と言い出して仕事を突然やめ、カメラひとつ持って東南アジア方面に旅立ってしまった! 特に用事もなく、東南アジア方面にある謎のマヌケスポットに滞在していろんな写真を撮り、飽きたら次の場所へ行くという、夢のような旅を始めてしまったのだ。ただ、ベトナムに滞在中、カメラをひったくられ(マヌケ日本人の典型!)、それ以降はほぼ手ぶらで東南アジアをウロウロしはじめた! こうなって来ると、海外でよく見る、日本人観光客からボッタクるあやしい日本通の現地人と変わらない感じ。ただ、歩く以外に何もすることがないので、やたらと現地のマヌケな奴らに溶け込みまくるので、事情通レベルはいよいよ半端ないレベルに! 
 そして先月、ついに「いや〜、東南アジアはすごいことになってたよ〜」と言いながら、手ぶらで日本に帰って来た。どうやら数ヶ月間でだいぶいろんな面白い場所の情報を得て帰って来たらしい。おお、これはなんだか話を聞いてみたい! …ということで、福岡からこの江上氏を東京に招待してしまった!

このイベント、会場の素人の乱12号店は超満員だった!!

 イベントでは、まず江上氏に東南アジアのマヌケスポット情報を紹介しまくってもらい、後半では、海外に渡ったマヌケがどうやって生き延びて行くかの実践計画案! 商売人だったら金もうけを通じて海外に出られるし、ビジネスマンだったら会社の世話になりながらだけど仕事で海外へ出られる。研究者や芸術家も学問や芸術を通じて外へ出る。そうじゃなくて、何でもなくても行けるようになったらこれは最強だ。
 もちろん、日本を捨てて海外へ逃走しようって計画じゃない。行ったり来たりしながらいろんな場所に居場所を作りつつ、国境を超えたライフスタイルをどう作るかって作戦。
 果たして、単なるマヌケな奴らがのうのうと海外へ出かけて行くことはできるのか!? 紙面の関係もあるので、その恐るべき実践計画案は次回!

今回招待した江上氏はTシャツまである(素人の乱5号店で売ってます)。

 

  

※コメントは承認制です。
第76回 東南アジアにもマヌケな奴らがいた!」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    なんともお久しぶりの「のびのび大作戦」ですが、ご無沙汰の間も国境を越えた「マヌケネットワークづくり」は着々と進んでいた模様。「紙面の関係」というフレーズに突っ込み入れつつ、待て次号(?)!です。
    そして、Tシャツのイラストがなんだか渋くてかっこいい江上さん、こちらにインタビューがありました。そもそも、どうして「マヌケスポット」(とは書いてませんが)に関心を持ったのか? というお話など、なかなか興味深くて面白いので、もっと知りたい! と思った方はぜひ。

  2. 上野俊一 より:

    「マヌケ」と気軽に言えるのがいいですね。マスコミに登場するいわゆる文化人の中には、ネット上に書かれた近隣国とのユーザー同士の雑言をさらに悪のりして拡大再生産する人もいます。作り上げられた幻想が、なんとなく嫌中・嫌韓気分を広げ、あげくヘイトスピーチにまでなっているのであれば残念なことです。松本さんのような人が増えて、互いの人の中に飛び込んで実像をまんまで伝えてくれると、もっと普通の関係になるんでしょうけどね。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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