松本哉ののびのび大作戦

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 東南アジアにもマヌケな大バカネットワークが広がって来た今日この頃。南方にもとんでもないやつらがゾロゾロいるという情報が入り込んで来て、いよいよ収拾つかなくなってくる気配。う〜ん、景気のいい感じだ。・・・だが一方、国内に目を向けると秘密保護法やら共謀罪やら増税やら軍隊やらっていう、国内の締め付けを厳しくしているようだが、この昭和レトロな発想の自民党なんかはもう放っておいて、こっちはこっちで早めに物事を進めていこう。
 さて、前回も紹介した江上氏を招いて行われたイベントが、「日本大脱出作戦!」。どの国を見てもロクでもないボスが君臨している東アジア地域。そういうつまらない人たちに巻き込まれることなく、うちらもうまく国境をかわしながら面白いことをやって行くのが一番楽しい。で、このイベントでも登場したいくつかの作戦をちょっと紹介してみよう。

家を借りる

 まず、最も手っ取り早いのがさっさと場所を借りてしまうって作戦。これ、知り合いの下町出身の江戸っ子の商店主が突然「この間インドネシアに遊びに行って来たら一軒の家の家賃が5万だって。しかも一年で。こりゃ、借りちまうしかねえよ」と言い出した計画。一年で5万円ってことは月にしたら4000円ぐらい! あるいは、一年に1万円出せる人友達が5人いたらもうOK。全然なんとかなる金額だ。仮に大失敗して撤退するとしてもダメージは少ない。
 「そんな遠いところに自由に使える場所があったって、なんに使えばいいの?」と、思うかもしれないけど、これがまたフライパンやノコギリと同じで、あったら使いたくなる。普通に、行った時の宿泊代がタダになるだけでも元が取れそうだし、仲間と何人かで借りる場合は、自転車とか工具や料理の道具や寝具などなど、行ったときに使える共有の物を置いといても便利だ。
 ただ、注意点としては、現地の友達が出来てから一緒に作ることが大事。いきなり知らない日本人がやって来てポーンと一軒家を借りて、たまにやって来て昼寝してるとか思われたら、やたら感じ悪い。それじゃ、退職金で東南アジアに家を買って召使いとか雇ってのうのうと生活してる老人と同じで、先進国マネーを使ってのさばったところで何の意味もない。むしろ貧富の差への怒りが爆発したときに、袋だたきにされて泣きながら日本に逃げ帰って来るのが関の山だ。
 場所作りってのは対等な関係を維持して作らないと失敗しがちなので、ここはちゃんと現地のマヌケ仲間が出来てから一緒に計画を練るのがいい。常に連絡を取り合いながら、留守の間はいい感じで現地の人たちが使える場にしていったら面白い。すでに各地に面白い奴らはたくさんいて、海外にいい友達を見つけるのは簡単だと思うので、5万円余ってる人はすぐにでも試してもらいたい。これだったら、いきなり移住とか考えなくても、生活基盤を日本に置いたまま出来る計画だ。

勝手に店を出す

 いくら海外に場所があっても、金が底をついたら終わりってことでは、旅行と同じ。どうせならそこで収入もあって、なんとか持続可能な日本脱出生活もできるようにしておきたい。海外でも通じるような手に職がある人や、ネットが通じていれば仕事ができるような人は何とかなるかもしれないが、商店主の自分としてはやはり店を出すことも考えてみたい。
 店と言ってもそれは簡単なことではなく、やはり何か得意分野が必要だ。当然、その道に長けてる人なんてどんな街にもいるし、そこでの商売の競争だって大変なはずだ。しかし! 安心せよ諸君! 我々に得意なのは日本語だ。日本語を全開に活用できる仕事を探すのが手っ取り早い。既に海外には「日本窮屈すぎるよ」と出てる日本人が大量にいる。海外旅行者だってたくさんいる。まずこういう人たち向けにゲストハウスでも作る。そして、飲み屋も作る。さらには新聞でもフリーペーパーでもウェブサイトでもいいので現地での日本語メディアを作ってしまおう。日本国内で言えば、英字新聞とか、よく中華料理屋においてある中国語新聞みたいなやつ。でも、そういうのはたいていビジネス向けなので、ヒマ人向けのをつくったらいい。メディアが出来ると人がつながって来るので、空港や観光地でバラまいたりしてたら、そういうアホな物に鋭い嗅覚のいい奴らが集まってくる。そうなってくると、あとはもうイカサマでも何でもいい。思いつきでどんどんいってみよう。堂々と「日本料理店」とか名乗って、缶詰とかチキンラーメンとか出したりしてみたり、おにぎりの上に魚を乗せて寿司だと言い張ってみたり、近くの中華料理屋とか韓国料理屋で肉まんとかのり巻きとか買って来て区別のついてない西洋人をダマしてみたりするのもいい。調子に乗っていいかげんな空手道場とか忍者修行とかやってみるのもいい手だけど、バレて「金返せ!」と追いかけられることもあるので、その辺の覚悟はしておこう。ま、世界中に謎の「伝統文化」とかたくさんあるけど、元をたどればどれもこれも、知ったかぶりとかハッタリによって作られて来たような怪しいのもたくさんあるので、どんどんいってみよう。
 後半のイカサマ作戦はともかくとして、日本人向けの商売を基礎として、日本に興味のある人や、普通に現地の友達なんかが集まるようになってくれば、交流も深まっていって面白いことが起こりそうだ。さらに、他の世界各地の場所と連絡を取り合って、流れ者が行き来するようになったらもっとすごいことになる。
 いいね。いま高円寺でやってるゲストハウスがうまく行ってきたら、いよいよ海外支店を出そう! 興味ある人、手伝ってください〜

子頡作戦

 台湾に楊子頡という、大バカな男がいる。奴はいろんなイベントに関わってみたり、ジャンルを問わずいろんな人とすぐ仲間になって謎の人脈を作りまくったりする面白い奴。ただ、天性のロクでなしで、どこに行ってもナンパばかりし始めるとんでもないやつで、日本に来たときにも飲み歩きまくって女の子に声をかけまくる。これがどういう訳かたまに成功して、「3人でつきあうことになった」とか、「いや、5人になるかもしれない」とかややこしいことをいい出し、案の定、男女関係で揉め始めて大混乱になったり殴られたりしている。しかも余裕で国境を越えているので、インターナショナルな痴話ゲンカが勃発したりして、いよいよややこしくなってくる。否が応でも国境を越えて来て、それをキッカケに人のつながりも無国籍になってきて、そのケンカとは関係なく別で友達が出来たり、意外と面白かったりする。
 それに、そういう大揉めの当事者たちは、ニュースで「北方領土が・・・」とか「首脳会談が延期に・・・」とかなっても「まてまて、いまそれどころじゃないから!」ってことになって、国境というものが無意味になってくるかもしれない。身近な人からしたらたまったもんじゃないが、広い心で考えてみると、いいのかな? いや、だめだな。やっぱり。

日本人街作戦

 世界中でどこに行っても中華街を見かける。彼らの浸食力はハンパじゃない。しかも何がスゴイって、完全に自分たちのスタイルを貫き通して街を作っている。そこには食堂があり旅館があり、雑貨屋やスーパーもある。華人が華人として生活できる街がそこには出来てしまっている。日本人エリアも各地にあって、これは居酒屋とかラーメン屋とか寿司屋があったりするけど、日本人向けってよりも外人向けだったりする。横浜中華街などは日本人向けの観光地っぽくもあるけど、ほとんどのところはモロに自分たちの生活が中心だったりする。中国語しか話せない人もそこへ行けば余裕で生活できてしまう。う〜ん、これは羨ましい。
 そう考えたら、世界各地にはインド人街やコリアンタウン、トルコ人街などなどいろいろコミュニティを作っている。なんだなんだ、オレたちもやってみたいぞ。
 もう、現地に媚びることなく、こっちのノリ全開で、「マンハッタン銀座商店街」とか「メッカ仲見世」とか「パリ横丁」とか作って、畳屋から八百屋、定食屋やスナック、米屋、豆腐屋、ちょうちん職人、ヤクザの事務所、そろばん塾、新聞の営業所、神社、交番、駄菓子屋、町工場、サラ金、自転車屋などなど、どんどん誘致して開業。もちろん看板もアルファベットとかじゃなく漢字とヒラガナ&カタカナ。一歩でもその場に立ち寄ったら、朝は満員電車に夜は千鳥足のスーツのオッサン、おばちゃんが声をかけて来たかと思ったら創価学会の勧誘だったり、小学生は集団登校してるし、老人は公園でゲートボール(そういえば最近やってないね)。テレビを見れば見たくもない相撲やってるし、六畳一間のアパートで昼寝をしていたら大家さんが家賃の催促に来る。いや〜、これはすごい。もうこうなったらこっちのもんだ! ざまあみろ!
 ただ問題は、海外での日本人のイメージは、いつもニコニコしてて押しに弱くて断れない。高値を吹っかけても「スイマセン、スイマセン」と言いながら金を払うし、ナンパしてもすぐついてくるっていう、とんでもないイメージ。全力で断固拒否するときも「いやぁ、勘弁してくださいよ」とか「ここはちょっと空気読んでもらって・・・」という、いきなり下手に出る、まさにカモの象徴。う〜ん、これはあぶない!!!
 そんなときに、いきなりでかい街なんか作ろうもんなら大変だ。「おい、どうもあの一帯にカモが集まってるらしいぞ」なんていって、色んなところからゾロゾロ手強いのが集まって来たらたまったもんじゃない。もう、一瞬で身ぐるみ剥がれておしまいだ。
 よし! これは、もうちょっとハッキリ断れるようになるまでこの作戦は延期だ!!!!!!!

大使館作戦

 いま、高円寺の北中通り商店街には「台湾大使館」がある。これ、何かと言うと、よくわからない居場所。以前台湾に行った時に、飲んでるときに「お互いに居場所を作って交換しよう」という約束をして、その勢いでつくったのがこれ。ただの6畳間ぐらいのスペースなんだけど、台湾の人が来た時に自由に使っていいという、超太っ腹なところ。で、そのかわり、台湾では友達たちがいろんなところに「日本大使館」を作ってくれていて、「来たら好きに使って!」と言ってくれている。海外に自分の居場所があると思うだけで、別荘みたいな感じで意外と親近感が湧いたりホッとしたりもする。畳一枚でもいいからお互いのスペースを交換していけばいい。現に「高円寺に台湾大使館があるらしい」と、マヌケな台湾人の友達がどんどん遊びに来るようになっている。う〜ん、これは早く、韓国大使館とか香港大使館とかマレーシア大使館とか、いろいろ作っていかないとな〜

 いま、日本もどんどん時代錯誤帝国になりつつある。韓国も労働組合を鎮圧したり野党を解散させようとしたりとメチャクチャ。他の近所の国も繁華街を再開発ですべて金もうけエリアにしようとしたりしてるし、どこも政府はロクなもんじゃない。いまのうちに、行き来しながら生活できるような国際大バカネットワークを完成させておかないと、いよいよつまらない政治に巻き込まれて来たりしたら大変だ。さあ、諸君! 一刻も早く各地をウロチョロし始めるしかない!!!

 

  

※コメントは承認制です。
第77回 世紀の作戦! 日本大脱出マヌケ計画!!」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    今年最後の「のびのび大作戦」は、国境も何も越えまくっちゃってスケールがデカイ! と思いきや、やってることは高円寺とあんまり変わんない気もします。これぞ最近よく言われる「シンクグローバル、アクトローカル」というやつなのかも(多分違うけど)。2014年、「これから」を生き抜くためのキーワードは「マヌケネットワーク」です!

  2. いいな〜勝手に大使館つくるの〜!チベット大使館とかウイグル大使館とかクルド大使館とかも是非つくろう!!

  3. 花田花美 より:

    インテリじゃない男の人のパワーってすごいですね。
    マヌケパワーすごーーい。
    人間くさくて、生き生きしてますね。
    日本人は良くも悪くもまじめすぎるので、ちょっと世間をなめているくらいがちょうどいいかもしれません。

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まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、編著に『素人の乱』(河出書房新社)。「素人の乱」公式ホームページ

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