三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポー トしてくれる連載コラムがスタートです。毎週連載でお届けします。

第0回

ギリギリの攻防が続く沖縄の現場より、リアルな現状をレポート

 「座り込んだらダメですよ。道路交通法違反ですよ!」
 若い警官の言葉に耳を疑った。
 そうか。早速そう来たか。
 私は目眩がした。

 基地建設の埋め立てが迫る沖縄県北部、名護市辺野古。キャンプシュワブのゲート前では今、連日、基地建設を許すまいと集まった市民が朝から夕方まで抗議の座り込みやデモ行進をつづけている。この動画は、静かに歩道に座っている女性たちに、警察官が「危ないから」といいながら彼女たちの表現行為を制止している場面だ。

 本当に住民の安全を大事にしてくれるならありがたい。しかし「座り込みは通行妨害」と言い切る警察官の言説の背景には、オスプレイのヘリパッドが出来ることに反対して座り込んだ東村高江の住民たちを国が「通行妨害」で裁判にかけたスラップ裁判(恫喝目的の裁判)の成果が明らかに反映されている。

 先月、この裁判の最高裁判決が出て、日本という国は、座り込みを通行妨害として訴えれば勝てるという恐ろしい社会になってしまった。しかし主要四紙やキー局は、どこもそのニュースを報じなかった。沖縄ではもちろんトップニュースだった。

 行政が司法を濫用して、力のない市民の反対の声を封じ込める。小学生で習った三権分立など吹っ飛ぶようなこの手法に対し、主要ジャーナリズムは異議を唱えなかった。従って国民は座りこんだら裁判所に引っ立てられる時代になったことを知らない。知らないから抵抗の声もなく、権力側にとっては最高裁も国民もこの手法を是認したと受け取るだろう。そして早速現場では「座り込んだら通行妨害で訴えられますよ」という脅しが可能になってしまった。

 映画『標的の村』の予想外のヒットで、少なくとも「スラップ裁判」という言葉は以前より知られるようになったと思った。力のあるものが弱いものを黙らせる裁判は禁じ手にするべきだという認識も少しは広まったと思いたかった。それはとんでもない勘違いだった。

 昨年1月、オスプレイの配備に反対する沖縄のリーダーたちに「非国民」「中国のスパイ」と罵声が浴びせられた。
石破茂大臣は「デモはテロ」だと言い放った。
そして「座り込みは通行妨害」で裁判所行き。であれば、もはや国策に対する自由な議論は不可能ということになる。

先週からキャンプシュワブで続いている水陸両用車の訓練。
サンゴやジュゴンの餌場の上で訓練を繰り返している

 国の基地政策はかつてなく乱暴に県民に襲いかかっている。辺野古、高江、両方がこの夏、崖っぷちにある。『標的の村』後の状況をドキュメンタリーとして全国に届けるため、放送局を辞め、フリーになった私はいま毎日現場に立っている。途中経過でもいい、とにかく時間をかけずに来年夏には公開を目指している。
しかし放送ベースで生きて来た私には、半年の撮影は長い。劇場ドキュメンタリーの可能性に希望を持ちつつ、刻一刻と変わる状況も伝えていかなくてはと焦っている。

 そこで、マガジン9の紙面をお借りして、日々の進展をお伝えしていこうと思う。来週から連載をしていいと許可をいただいた。
本当に有難いことである。

 とりあえず今年いっぱい、辺野古、高江の現場からの報告をお届けします。
どうぞおつきあいください。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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