三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第7回

沖縄の抵抗するリーダーを歓迎しない中央メディアの記者たち
〜翁長那覇市長の知事選出馬会見の一コマ

 11月の沖縄県知事選挙まであとちょうど2ヶ月。この選挙が、いま8割の県民が反対する中で強硬に進められている辺野古の海上基地建設のカギを握っていることは、マガ9読者の皆様はよくご承知のことと思う。

 そしてこの選挙は、歴史に残るものになるだろう。沖縄の県知事選としては初めて、「辺野古基地建設反対」という一点で保革が手を結んで一人の候補者を推した。自民党の翁長雄志現那覇市長。
 彼は対抗馬となる現職の仲井真知事の選対本部長まで務めた、バリバリの保守で鳴らした人物である。その翁長氏が社民党、社大党や共産党と共に知事選に打って出るとは、彼の経歴からはにわかに信じがたいが、去年1月、オスプレイの配備撤回を求める建白書を携えて政府に対峙した頃には「オール沖縄」を象徴する存在になっていた。公約を破棄して辺野古埋め立てを承認した仲井真知事から袂を分かち、県内移設反対堅持で出馬と筋を通した形である。

 まずは13日に行われた翁長氏の出馬会見の模様をご覧いただきたい。

 翁長氏のスローガンは「イデオロギーではなく、アイデンティティ」。保革のイデオロギーは今は脇に置いて、沖縄の歴史に根ざした沖縄の人間としてのアイデンティティで繋がる部分に焦点を絞り、手を携えて重大な危機を乗り越えましょうと呼びかけているのだ。
 動画にもあるように、県民はアメリカ軍統治のもとの「プライス勧告」(注)の時は、それこそ一方的な土地の取り上げ手法に対し島ぐるみで闘った。それは、祖国から見捨てられ絶望する中にあっても、政治的スタンスなど度外視して一丸となれば、沖縄から何かを動かせるのだという、県民が掴み取ったひとつの確かな手応えとなって記憶に刻まれている。

(注)プライス勧告…1956(昭和31)年、沖縄の基地・軍用地問題に関して、米下院軍事委員会のプライス調査団が発表した調査報告書。米軍による強制的な土地接収や強引な土地買い上げ策に対し、沖縄政府は適正補償、新規接収反対などを求めていたが、勧告はこれをほぼ無視し、米軍のそれまでの軍用地政策を正当化する内容だった。しかしこれに対し、沖縄県民の間では大規模な抵抗運動(島ぐるみ闘争)が巻き起こったことから、米軍は一定の譲歩をやむなくされることになる。

 翁長氏の後ろにいる吉田勝広・山内末子両県議が涙ぐむ姿を見て欲しい。土地接収に対する抵抗の歴史が語られると、沖縄県民としては悔し涙を禁じ得ない。そこに保革の差はない。翁長氏が歴史を語れば語るほど、県民は眠っていたアイデンティティを掻き立てられるのだ。

 もちろん、革新側にも不安はある。「所詮は自民党の翁長だ。政府側に取り込まれるのでは」「一度は県知事が認めた埋め立てを、新知事が白紙に戻せるのか」。投票するからには担保が欲しいと思うのは当然のことだ。
 ところが最近驚くのは、中央メディアの翁長氏への姿勢が、この革新サイド以上に懐疑的、いや全否定的ですらあることだ。
 「結局何もできないのでは? 埋め立て承認は白紙撤回できないのでは?」
 各社とも、ここまできて反対しきれるわけはないとタカをくくった物の言い方を平然とするようになっている。動画の中で翁長氏も怒ったように、県民の代表に名乗り出ようという候補に対して、ずいぶん礼を欠いた態度だと私も思う。

 そんな中央メディアの冷たさは、今年1月の名護市長選挙でも痛感した。辺野古の基地建設に反対する稲嶺進名護市長の再選に当たり、私は辺野古にある稲嶺応援団の事務所で彼の登場を待っていた。勝利の報告にきた稲嶺市長。涙ぐみながら迎えるおばあたち、指笛、カチャーシー…。
 そこに中央メディアの記者たちがぶら下がって聞く質問は「市長権限でどこまで反対できるんですか」「振興策を止められたらどうするんですか」「政府との対決姿勢を鮮明にして、やって行けるんですか?」。
 まるで何かをやらかした芸能人を追及するような態度であり、名護市民の選択に対する敬意は感じられなかった。当選したはずの稲嶺市長の表情はどんどん暗くなっていく。

 辺野古まで来て、狂喜乱舞する人々の姿をその目で見ても心動くことなく、聞きたいことだけを聞いていく記者たち。こんな嫌な空気を一掃したいと、私は割り込んだ。
 「首を長くして待っていたおじい、おばあに勝利の報告を終えた今のお気持ちは?」
 すると稲嶺市長は気を取り直して微笑み、誇らしげに語りはじめた。県民が見たいのはその姿である。

 一方で中央メディアが見たいのは一体なんだろう? いつまでも政府に楯突いたって無駄では? と突っ込まれて絶句する力不足な沖縄のリーダー像なのだろうか。どうやら、抵抗するリーダーを歓迎しない中央の記者たちと県民との間にできた溝は、隠しようがなくなってきたようだ。

 3度目に同じ趣旨の質問をした読売新聞の記者に対し、翁長氏は不快感を顕にした。それに対する会場の喝采が、図らずも本土VS沖縄という構図を際立たせてしまった。その功罪についての見方は分かれるかもしれない。
 なにはともあれ、大衆の熱気をうまく利用し心を掴んでいく政治家が有力候補になったことを不都合だと捉える空気が、政府にもメディアにもあるようだ。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第7回 沖縄の抵抗するリーダーを歓迎しない中央メディアの記者たち〜翁長那覇市長の知事選出馬会見の一コマ」 に8件のコメント

  1. magazine9 より:

    三上さんが感じた「中央メディアが見たいのは何だろう?」という疑問。東日本大震災後しばらく経って東北で新聞やTVを見たときに、あっという間に熱が冷めていったような東京のメディアと、地元に寄り添い続ける地元メディアの姿勢に、温度差を感じたことが重なりました。メディアは誰のために、何のためにあるのかと考えさせられます。
    9月23日開催のマガ9学校では、三上さんによる2006年制作のドキュメンタリー「海にすわる~辺野古600日の闘い~」の上映に加え、沖縄を訪れてきた鈴木耕さんに話を伺います。ぜひ、ご参加ください!

  2. 橋本忠雄 より:

    本土記者たちの態度は 腹立たしい限りです! しかし沖縄のアイデンティティに賛同する多くの人間が 本土にもいます! 力をあわせて圧倒的な勝利を勝ち取りましょう‼

  3. やました より:

    この時期に何故喜納昌吉さんを県知事選出馬に擁立なんて動きが出てしまうんでしょう(>_<)
    仲井真知事を有利にさせるだけでは…

  4. kirakira Okinawa より:

    デラックスちえちゃん
    ちえちゃんの言うことも当たってるけど、翁長さんの集団的自衛権や秘密保護法への姿勢、那覇市役所で組合を認めない姿勢から 不安を覚えるのです。それを口にすると、すごい批判を受け、黙らなくてはいけないような雰囲気が出来て来てるのも心配って言ってる人も少なくない。
    だから副知事などブレーンにぶれない
    伊波さんや、高良鉄美さんや前泊さんなどを入れてほしいとわたしは心から願う。
    何年も闘い、鳩山さんや仲井真さんに裏切られた私たちは 政府からの前例ない圧力で翁長さんたちが揺れないか本当に不安なのだ。

  5. 土江慈恩 より:

    沖縄のアイデンティティがナショナリズムになっていないだろうか。自分の意にそぐわない議論をファシストのように「お前は味方ではないのか」と恫喝して封殺していないだろうか。沖縄メディアが保守的で、本土メディアが革新なのではないか。

  6. 鈴木 耕 より:

     沖縄へ1週間ほど行ってきました。辺野古へは、4日間、通いました。沖縄タイムスと琉球新報を読み続けました。本土へ帰ってきて、新聞を隅々まで調べました。沖縄、特に辺野古や高江については、ほとんど載っていません。この落差、温度差に愕然とします。
     辺野古の米軍新基地建設問題は、単に沖縄の辺地の問題ではなく、この国の安全保障(というより国の未来像)に関わる重大事だと私は思っているのですが、中央メディアにはそんな問題意識はないようで、ひたすら「朝日叩き」に狂奔中。マスメディアの体質と、政治の方向が、歪んだままになっていると、つくづく感じます。
     だからこそ今、この「撮影日記」は貴重です。毎週のご報告、首を長くして待っています。ご苦労さまですが、よろしく!

  7. 島 憲治 より:

     「辺野古まで来て、狂喜乱舞する人々の姿をその目で見ても心動くことなく」。事実を伝えるのでもない。国民の知る権利に奉仕するものでもない。政府の代弁をするのであれば、なにも「報道の自由」」「取材の自由」を憲法で保障する必要はないのだ。 時流に媚び、権力者にへつらう新聞社と記者達。 関心を装う「無関心層」。これは政治を動かす大きなマグマだ。
     国や権力は批判の対象であり、そうでなければ民主主義は成り立たない。彼らは何の為に「記者」という職業を選んだのだろうか。

  8. ゆきぼー より:

    kirakira Okinawa さんの言う事はもっともだと思います。
    本土がメディアが沖縄を無視している事も事実。
     
    本土から観れば沖縄は、虐待されても当然という空気が蔓延させている。 
    日米地位協定などと言う、法理と憲法の上を行く協定が
    白日のもとにさらされる事が
    政権にとっては脅威です。
     
    鳩山の時も、本土メディアは、「出来るのか出来ないのか」と
    基地が存在する本質を報道することができませんでした。
     
    知事選挙には、事前に副知事候補を選び
    選挙に勝利してほしいです。
     
    11月にはイタリアでも独立投票が行われると言われています
    世界は大きく変化しつつある。
    既成の政府の手の届かないところで動き始めている。
    その一歩が日本では沖縄と思います。。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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