三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第20回

世にも不思議なゾンビ議員~全員当選の怪~

むかし、ある南の島に
大きな国の手先になって島民を騙した
不正直な4人の政治家がいました。
島民は怒って
正直な政治家を4人選びなおし
不正直な4人を棺に入れました。
これで一件落着。
ところが。
翌朝、当選者の列には
甦った4人が全員並んでいました。
驚いた島民は彼らを
ゾンビ議員と名づけましたとさ。

 まず、衆院選投票日の朝の地元の新聞。これを良く見て欲しい。

 沖縄は4つの選挙区に9人が立候補している。4つしかない議席に座るのは、もちろん9人のうち4人。この日、県民は熟慮してそれぞれに適任と思う人を選びに投票所に足を運んだ。泣いても笑っても今夜、9人のうち5人は落選するのだ。いや、するはず、だった。
 ところが。翌朝、なぜか全員が当選者として新聞に載った。こんなこと、あっていいのだろうか。ここに乗っている9人が全員が落選していないのだ。いや、小選挙区で落ちた5人は確かにその時、悔しそうな顔をしていた。ところが比例区の復活当選で全員が甦ってしまった。一県の小選挙区の立候補者が全員がもれなく当選するなんて不思議な選挙、過去に例があっただろうか。

 4つの選挙区で共通して落ちたのは、自民党の現役の国会議員たちだ。全国でここまで自民党が圧勝する中、沖縄選挙区では全区で見事に落選。今回の沖縄に限って表現すれば、県民は彼ら全員を落した、落選させたのだ。なぜか。その理由は簡単だ。次の写真を見て欲しい。

 前の選挙で「普天間基地は県外に移設」と訴えて票をもらったはずの自民党議員が、党の幹部にねじ伏せられたのか、あっさりと辺野古基地建設容認に転じた日の写真だ。そろって下を向く姿のあまりの情けなさに「平成の琉球処分の図」とまでいわれ、すっかり有名になった一枚である。これには沖縄で代々保守を自任してきた人々も眉をひそめた。

 ここまで沖縄は惨めなのか。いや、そんなことはないはずだ。この悔しさをバネに、臥薪嘗胆、硬い薪を枕に寝て、起きては苦い肝を嘗めるように、県民はこの琉球処分の写真を見て「こんなに情けない沖縄とは金輪際決別してやる」と本気で決意したのだ。それがオール沖縄の知事を誕生させるという歴史的な流れを作り出したし、ここに首を並べている国会議員をすべて(参議院以外)落選させる大きな原動力になったことは間違いない。

 なにより有権者が怒ったのは、基地政策の内容云々以前の問題である。党中央の圧力で公約を変えるのならば、県民との約束は鴻毛より軽いということか。大人の命の数しかない重い一票である。それは公約という約束と引き換えに投じたものだ。それを簡単に破ったばかりか、もう一度国会に行きたいと、よくもまた立候補などするものだという怒りが収まらないからこそ、こうなった。今回ばかりは中央政府の言いなりになる人物ではなく、オール沖縄で、徹底して沖縄の立場で頑張れる人を当選させたのだ。

 全国的に解散の意味もみえず、議論とて盛り上がらず、魅力的な党もなく、何を信じていいかわからない中、今回の沖縄の選挙を総括すれば、県民は「人物重視」で選んだということだ。当選したのは1区共産党、2区社民党、3区生活の党、4区元自民党。全員背景はバラバラ、オール沖縄体制が推す候補という以外共通点もない。ただ、従来の支持政党にとらわれずに信じられる人を選んだ、そのことは1区の自民党支持層の17%が共産党の赤嶺候補に投票している(!)ことからもわかる。1区では「共産党政権を阻止せよ!」「中国に沖縄を売り渡すな!」などと共産党バッシングが展開されたが、1区の有権者は、長年国会で沖縄のためにブレずに闘ってきた議員を冷静に選んだのだ。要は、主義思想はさておき、ちゃんとしてない人には退場願って、ちゃんとした人を選んだ。シンプルにそういう選挙だったのだ。

 そこまではいい。比例区がなかったら、それで話はわかりやすかった。ところが、重複立候補のシステムは理解不能な結果をもたらした。沖縄の選挙区で落ちた候補はみんな比例名簿の1位で、全員が復活してきた。それをゾンビ復活といった人がいたので、私はゾンビ議員と命名した。
 いくらなんでも失礼だ。比例制度をなんだと思っているのかとご立腹の向きもあろう。沖縄以外で自民党が圧勝したのだから、九州比例区でたくさんの議席を獲得したのも有権者の意向。それはそうかもしれない。しかし自民党の場合、九州比例区では8人当選、そのうち4人、半分が沖縄の候補なのだ。当初から小選挙区での苦戦が予想される議員を重複立候補者させ、名簿で全員を1位にしたのは、党の戦略である。九州比例区で自民党と書いた人がどう思って投票したかはわからないが、この比例区復活劇には、辺野古に基地を作っていいのだという沖縄の政治家をなにが何でも消してはならないという政府の思惑を感じずにはいられない。基地反対に燃える島で、基地を引き受けるパイプ役となる議員は喉から手が出るほどほしいだろう。

 極論で言えば、たとえば沖縄で一人も自民党議員が通らないとしても、九州エリアの自民党票を総動員して比例名簿を全員沖縄の候補にすれば、沖縄に足場を持つ自民党議員を無理やり誕生させることだってできることになる。政府の基地政策を支持する沖縄の政治家を外から増やすことが、本土側の票と比例区の名簿の作り方で可能になってしまうのだ。
 どうしても沖縄に基地を押し付けたい本土の票が、今回彼らを復活させたとまで言うつもりはない。それは事実と違うと思う。ただ、今回この制度の危うさを感じたのは私だけではないはずだ。

 では、数の暴力を許さないシステムはないものか、さらに妄想をめぐらせてみる。
 例えば、ある国が47の村でできていて、常に大人数の村が「必要だけど迷惑な施設」を小さな村にばかり押し付けているとする。代議士を選ぶにも、大きな村の人たちが議席もたくさん持っているのだから、この弱い者いじめは終わらない。であれば、せめて議員の数は人口で決めるのではなく、迷惑施設の負担量にあわせて傾斜配分すべきだ。たとえば、74%も基地を押し付けられた村は7議席増やすとか、原発を引き受けた村は5議席多くするとかである。そうでなければ、数の論理だけでは「今度はあなたたちの村で迷惑施設を負担して下さいよ」と小さい村がいえるチャンスは、永遠に来ないではないか。

 「引導を渡す」というのは、死者が迷わずあの世にいけるよう導く宗教儀式からきている言葉で「最終的な宣告をしてあきらめさせる」という意味だ。今回の沖縄の選挙は上に書いたとおり、まさに公約を破る政治家に引導を渡した選挙だった。それなのに、引導を渡して冥土に向かったかに見えた人が戻ってきたら、やはり、それは怪談としかいえない。

 それでも、ゾンビ議員といったのは言い過ぎた。品性に欠けていた。仮にも前回県民の信託を得て当選した立派な方々である。今度こそ県民の願いを引き受けて国会で頑張ってもらえれば、いくらでも暴言の撤回はさせていただく。でも明らかに、公約を翻したり基地のたらいまわしを認める考えが地元選挙区で拒否されたこと、お願いだから徹底して肝に銘じて頂けるだろうか。基地を押し付けたい政府の手先として、またも金目で県民を惑わすパイプ役に利用されるのであれば、それこそゾンビより醜悪である。

 今回の映像は、84歳の高齢を押して求められるままに各選挙区の応援に回った辺野古のおばあ・島袋文子さんの家で見た衆院選速報の様子。彼女の解説付きでお届けする。これまで私はずっとスタジオで伝える側だったが、テレビを見ながら一喜一憂するとても楽しい夜だった。翌日のテントが喜びに沸いたのは言うまでもない。

三上智恵監督新作製作のための
製作協力金カンパのお願い

沖縄の基地問題を描く、三上智恵監督新作の製作を来年の2015 年完成を目標に開始します。製作費確保のため、皆様のお力を貸してください。

◎製作協力金10,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
◎製作協力金30,000円以上、ご協力いただいた方(もしくは団体)は、映画エンドロール及び、映画HPにお名前を掲載させていただきます。
※掲載を希望されない方はお申し込みの際にお知らせ下さい。

■振込先
郵便振替口座 00190-8-513577
名義:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会

 

  

※コメントは承認制です。
第20回 世にも不思議なゾンビ議員~全員当選の怪~」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    「オール沖縄」で示された沖縄県民の「辺野古への移設ノー」は、前回の県知事選挙に続き、今回の衆院選でもはっきりと示されました。そのことについて、比例復活した自民党議員たちも、メディアも、私たち本土の人間も忘れることなく、しっかりと覚えておくべきことです。それにしても、この選挙制度のおかしさについては、「風塵だより」でも取り上げていますが、こんなことではますます投票率が下がるばかり。一人一票の問題の解決と合わせた選挙制度改革が早急に求められます。

  2. とろ より:

    74%も基地を押し付けられた村・・・この前知ったんですけど,米軍だけが使える基地の割合は全国で74%だそうで,米軍も使える基地の割合にすると沖縄は22%だそうです。
    比例復活は問題ですよね,中選挙区に戻した方がいいんでしょうね。

  3. 望月保博 より:

    多数決は、皆に適用されることを皆で決める局面では機能するのでしょうが、不利益を一部の者に負担させる局面では、数の横暴になる危険があります。皆、自分のところに来さえしなければ他の誰が負担するかはどうでも良いわけですから。特定の者が標的になってしまうと、多数決が機能しない。いじめの構造と同じです。だからこそ、少数者の意見を丁寧に拾い上げ、負担を全体で分かち合う方策を考えないといけないのですが。特別法について憲法95条が、当該地方公共団体の住民の過半数同意を要件としているのも同じ精神だと思います。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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