三上智恵の沖縄〈辺野古・高江〉撮影日記

沖縄・普天間基地へのオスプレイ配備をめぐる抵抗運動の様子や、新たな米軍基地建設計画が進む沖縄本島北部・東村高江の住民たちの闘いを描いたドキュメンタリー映画『標的の村』を撮影した三上智恵さん。辺野古や高江の 現状を引き続き記録するべく、今も現場でカメラを回し続けています。その三上さんが、本土メディアが伝えない「今、何が沖縄で起こっているのか」をレポートしてくれる連載コラムです。毎週連載でお届けします。

第22回

「沖縄を舐めるんじゃない!」
最新作『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』緊急上映決定!

 「うちなーんちゅ、うしぇーてぇー、ないびらんどー!」
 こんな言葉で翁長知事は17日の辺野古新基地建設に反対する県民大会を締めくくった。割れんばかりの拍手が湧き起った。直訳すれば「沖縄の人間をないがしろにしてはいけませんよ」となる。でも私が翻訳家の戸田奈津子さんだったら、「沖縄を舐めるんじゃない!」と訳す。
 政府、日本という国に対して、ここまで県民の実感を言葉に乗せて民意をぶつけてくれるリーダーがいただろうか。うちなーの言葉で、家族を守るために本気で怒ってくれるお父さんのようで、私は素直に嬉しかった。そのあと1分は鳴り止まなかった数万人のスタンディングオベーションを見ても、集まった県民の心も共鳴していたことは間違いない。 
 率直すぎて、政治家として云々と論評したい人もいるだろうが、戦後70年「安全保障」という名のいくさごとに翻弄され、騙され続けてきた沖縄からすれば、聞こえが良く丁寧で、虚飾に満ちて、結局は残酷な事態を引き寄せる言葉を使ってきたいわゆる「政治家の言葉」など、もう聞きたくもない。単純でも、感情的でもいい。実直で誤魔化しのない自分たちを代弁する言葉が聞きたいのだ。
 沖縄には「話くわっちー」、“話のご馳走”という言葉がある。翁長知事は今回その言葉にも触れていた。その部分が、私は一番面白かったので引用する。

 「普天間飛行場の5年以内の運用停止について前知事は、県民に対し、『一国の総理および官房長官を含めしっかりと言っている。それが最高の担保である』と説明をしていた。5年以内運用停止は前知事が埋め立て承認に至った大きな柱だ。しかし日米首脳会談でも言及はなかった。5年以内運用停止は辺野古埋め立て承認を得るための話のご馳走『話くわっちー』、空手形だったのではないかと私は危惧している。 今日までの70年間の歴史、いつも困難の壁がある時には必ず話のご馳走、話くわっちーを沖縄県民にも国民にも聞かせて、それを乗り越えたら知らんぷり。それが70年の沖縄の基地問題の実態だ」

 本当はご馳走なんて用意していないのに、話だけ盛りに盛って適当にあしらわれてきた沖縄。負担軽減と連呼しながら基地を強化する。オスプレイ配備は聞いていないと隠し続け、電話一本で配備を伝える。移設先の地元をくすぐるために、てんこ盛りに盛られた話が飛び交ったこの18年。これ以上「話のご馳走」だけ食わされてたまるか! と翁長知事は県民の前で政府に対し、真っ正面から不信感を叩きつけたのだ。これはすごい場面だったと思う。47都道府県のどの知事が、そこまで言うだろう。いや、そこまで言わせるほど沖縄県民を怒らせたのは、この18年間の政府の誠実さのない対応に他ならない。
 「5年以内の閉鎖など約束できません」と、政府が2年前、正直に言ってくれれば前知事は埋め立ての承認はできなかっただろう。あれはどうなったかと問われれば、政府は「5年以内の閉鎖は沖縄全体の基地負担の軽減を指す」とかなんとか、もうそんな言い訳は誰も食えない。担保が崩れたのだから、埋め立てもやめてもらおう。前提が変わったんだから承認も無効だ。シンプルにそうなるしかないではないか。

 県民大会が行われた「沖縄セルラースタジアム那覇」のキャパシティ―は3万5千人で、それ以上の数字は発表できないが、外野の芝生を埋め尽くした人々、会場の外に溢れていた人も合わせると5万人は超えたのではないかというのが関係者の見立てである。よくもこれだけ集まったと思う。市長選、知事選、衆院選と、何度民意を見せたって黙殺され辺野古の工事は進められている。もう一度民意を見せようなんて思えるだろうかと危惧していたのは私だけで、そうはいっても民主主義の国なんだ。機能しないなら、機能するまでやってやろう。何度でも、何度でも、我々の意志を見せようじゃないか。その沖縄の底抜けに前向きなエネルギーに私は唸った。
 70年、耐えに耐えて来たからこそ、本物の平和、本物の民主主義に対する希求の念は具体的であり芯が太く、揺らがない。ポン、と平和憲法をもらった本土の人たちよりも、憲法が適用されず憧れて憧れて、その条文を唱えながら復帰を待った沖縄の「主権在民」への渇望が、沖縄の底力になっているのだ。そればかりか、日本の国をこの沖縄からまともに変えていこうじゃないかという大きな理想さえ、人々の口から高らかに発せられるようになった。本土メディアの人たちはこれをどう感じただろうか。沖縄の悪あがきだと冷めた眼差しも一変して目を見開き、この国をひっくり返す民衆の力、その胎動を確かにこの会場で聞いたのではないだろうか。

 この5万人の熱気に証明される沖縄県民の多数の支持があるからこそ、日々の辺野古ゲート前と海上の抗議行動は維持されている。とはいえ、このところ人々が集まる前の早朝6時から資材の搬入が続いており、現場は緊迫している。今回の映像の後半で、今、毎早朝から繰り返されている阻止行動の状況をお伝えしたいと思う。知事が踏ん張り、沖縄を支持する世論が少しずつ全国に拡大している。それもこれも、ずっと建設現場でボーリング調査や埋め立てに繋がる作業をさせまいと身体を張って頑張る人たちがいるから、こうして24時間、時間を稼いで、守ってくれているからこそ、拡げていくことができるのだ。
 私は2月からこの辺野古のドキュメンタリー映画の編集で籠もりっきりになっていた。4月後半にようやく完成。現場に戻ってみて、世論は少しずつ良くなっているものの、阻止行動のきつさが増していることに胸が痛くなった。毎日こんな事を続けられるわけがない。灼熱地獄の夏はもう始まっている。早く全国に知らせて助けを求めなくては。私にできることは、少しでも早く、少しでも多くの人に知らせることしかない。

 本来は7月の公開予定ですべてのスケジュールができあがっていたのだが、刻一刻と厳しくなっていく沖縄の情勢を見ながら、この問題の全体像を一刻も早く全国の皆さんに見てもらいたいと居ても立っても居られず、今週末5月23日(土)から、東京だけ大幅な前倒し公開に踏みきることにした。当然、マスコミ向けの試写のスケジュールと公開が前後してしまい、メディアに取り上げてもらうチャンスを飛び越しつつも、世に出す時期を優先してしまった。これはひとえに私の悲観主義とわがままのなせる技で、関係者には多大なご迷惑をかけてしまっている。
 でも、この映画は全国の皆さんから託されたカンパに押されるように立ち上がっていった経緯がある。数千人の名もなき出資者が、完成を待ち望んでくれているし、どうせなら効果的な時期に公開して欲しいと思っているに違いない。この「マガジン9」のサイトのご縁で応援をして下さった方もかなりいらっしゃるので、公開前に、絶対にここでまずはお礼を述べたかった。さらに完成のご報告と、公開のお知らせが全部一緒になってしまい、しかもギリギリになってしまったことは本当に申し訳ない。先行上映を行う映画館「ポレポレ東中野」さんに無理矢理に場所を空けてもらったので、しばらくは夕方の一日一回上映になるが、7月18日(土)からは本公開なので回数も増やしてもらえるかも知れない(客の入りによるけれど…)。
 タイトルは『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』。いくさ場にトドメを刺して終わらせよう、という辺野古の座りこみ現場に掲げられた琉歌に由来する(このコラムの第14回で紹介している)。
 ともかく、日本中の人が沖縄の70年にわたるいくさ場の苦しみから、今の辺野古の状況を理解して頂けたら、この問題は終わると思っている。沖縄の抱えた困難の歴史は、政治家によってではなく、全国の皆さんの良心によって終わらせてもらえるものと信じてこの映画を作った。だからなんとか一人でも多くの人に、2時間9分にまとめた70年分の沖縄の想いを見て欲しい。

 公開3日前に皆さんに報告する場を頂いて感謝します。そして、ぼちぼち現場に通い、連載を再開しますので、辺野古問題が解決するまで、どうぞまたお付き合い頂ければと思います! 宜しくお願い致します。

 

  

※コメントは承認制です。
第22回 「沖縄を舐めるんじゃない!」最新作『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』緊急上映決定!」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    このコラムでもカンパの募集をさせていただいた三上智恵監督の最新作『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』が、ついに完成しました。予定を2ヵ月近くも前倒しての公開は異例のこと。予断を許さない状況だということが伝わってきます。「戦場ぬ止み」――その言葉に、辺野古を基地だけの問題ととらえるのではなく、70年もの間沖縄が背負ってきた歴史の延長にあるものとして、目を向けなくてはいけないと感じました。そして、沖縄という地方の声に対する国の対応は、各地に暮らす私たちみんなにかかわる問題です。映画では厳しい状況だけでなく、思わず笑いのこぼれるような、沖縄の明るく強い姿も描かれています。ぜひ映画館に足を運んでみてください。
    ※この映画に込められた三上さんの思い、辺野古の現状についてのインタビューもマガジン9にて近く掲載します。

  2. gisuke より:

    「戦場ぬ止め」緊急上映初日に、映画館に行ったのですが、満員御礼で入りけれない人たちも大勢でる状況でした。なお、5月24日、国会包囲の現場で、カメラを持った三上監督を目撃。精力的な活動に脱帽。私も応援団に応募して、少しでも観客増に協力したいと思いました。
     
    「日米首脳会談でも言及はなかった。5年以内運用停止は辺野古埋め立て承認を得るための話のご馳走『話くわっちー』、空手形だったのでは」。まさにそんな感じで、「なめるんじゃない!」のタイトル通りだと思います。

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三上智恵

三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。大学卒業後の1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移り住む。夕方のローカルワイドニュース「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年には、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。現在も全国での自主上映会が続く。15年には辺野古新基地建設に反対する人々の闘いを追った映画『戦場ぬ止み』を公開。ジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)を上梓。
(プロフィール写真/吉崎貴幸)

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