癒しの島・沖縄の深層 記事

 安倍晋三総理が集団的自衛権行使の容認に向けて本格的に動き始めた。総理本人による記者会見では自ら内容を指示して作成した2枚のパネルを掲げて、国民に向けて憲法解釈変更をアピールした。憲法9条の明文改定は時期尚早と判断した安倍総理が次善の策と打ち出したのが、憲法解釈の変更による集団的自衛権行使容認とグレイゾーン事態への対処だった。連立与党を組む公明党が慎重姿勢を崩していない中で、何とか今秋にはお得意の閣議決定に持ち込もうという作戦だと思われる。さっそく、公明党側も潜水艦対応でグレイゾーンでの合意を目指す歩み寄りの意向を打ち出している。
 公明党がどこまで譲歩するかは現時点では不明だが、安倍政権の勢いに押し切られる可能性も捨てきれない。平和憲法や立憲主義に対しては今のところ支持母体の創価学会に配慮する姿勢を見せているが、稀代の悪法「特定秘密保護法」に賛成した前科のある公明党である。長い自民党との連立政権で政権の旨みも十分に知っている政党である。そう簡単に政権離脱まで決断するとは思わない方が賢明かもしれない。仮に公明党が政権離脱しても、みんなの党や日本維新の会が後釜を虎視眈々と狙っているし、民主党内にも解釈改憲賛成派は多い。戦後政治史の中でも、集団的自衛権行使容認にまで踏み込んだ内閣はない。それが、第二次安倍政権になって急ピッチで護憲や立憲主義を捨てるという方針に踏み込んだ。祖父である岸信介のDNAが蘇生したかのようなタカ派の本性剥き出しという他はない。
 安倍総理が記者会見で持ち出したパネルの日本地図には、沖縄は描かれていない。パネルの内容を指示したのは安倍総理自身である。デザイン上、沖縄を省略したのかも知れないが、安倍総理が沖縄を日米軍事同盟のための捨て石としか考えていない本心が出たのではないのか。安倍総理の記者会見直前、讀賣新聞や沖縄の地元紙が一面トップで報じた通り、沖縄・辺野古新基地計画の本体工事を今秋にも着手するという方針が打ち出された。埋め立て予定海域のボーリング調査には来月にも着手する計画になっていたが、本体工事じたいも来春ではなく前倒ししようというわけだ。現在、訪米中の稲嶺進名護市長は「辺野古の海にも陸にも基地はつくらせない」との主張を掲げて今年1月に再選された。防衛省が辺野古の建設工事を進めるには地元・名護市が持つ港湾施設などの使用許可権限の問題をクリアしなければならない。稲嶺市長は地元の民意を無視して新基地建設を強行する安倍政権に「NO!」を突きつけるべく、訪米してニューヨークやワシントンで市民集会に参加したりと、米国民に向けて啓蒙活動中だ。
 安倍政権は就任当初から、口では沖縄の負担軽減を繰り返しつつ、民意を無視する作戦だ。しかし、沖縄の地元だけでなく日本の世論も辺野古新基地建設に関しては国民の半分以上が反対だ。それだけではない。米国政府や米国の有識者らの間でも辺野古新基地建設に反対する声は多い。辺野古新基地建設は米国の民意ですらないのだ。安倍政権は今回は本体工事を着手する前に、埋め立て予定海域に柵やブイを設置する強硬策も公表した。ブイや柵内は、刑事特別法の対象となり、この海域に反対派が進入すれば、逮捕されることになる。前回の防衛省による辺野古沖のボーリング調査が、反対派の強い抗議行動により最終的に断念に追い込まれたことを教訓化し、国家をあげての強行方針を打ち出したのだろう。県民の怒りは爆発寸前のマグマ状態であり、国が基地工事のために自衛隊や警察力を動員すれば、流血の惨事は避けられないはずだ。すでに在日米軍関連施設の74%は沖縄に集中しているし、そこに運用年数200年といわれる新基地を作ろうというわけだ。沖縄の世論調査では、辺野古新基地反対派は8割近い。
 にもかかわらず、安倍政権は、集団的自衛権行使によって米国とともに世界中で戦争が出来る国家主義への悲願のために一直線だ。集団的自衛権行使の容認、武器輸出の解禁、秘密保護法、原発再稼働などを次々と手掛ける安倍政権に対するメディアの批判力が衰退していることも大きな要因である。むろん、安倍政権の政治手法もマスコミ対策も実に巧妙だ。先のオバマ大統領訪日の際も「TPP合意」をスクープしたのは讀賣新聞だった。まずはメディアを使って観測気球をあげて、身内で固めた有識者会議で政策を練り、閣議決定を先行させる。国会における論議は形ばかりで、一強の自民党専制政治はやりたい放題という図式だ。安保法制懇のメンバーも集団的自衛権行使賛成派ばかり。第一次安倍政権で選ばれた面々が中心だが、岡崎久彦、北岡伸一、葛西敬之、佐瀬昌盛、柳井俊二、西修など、タカ派ばかりの顔ぶれだ。それだけではない。内閣法制局長官も小松一郎氏から横畠裕介氏に交代した。どちらも、集団的自衛権行使容認に前向きな人物である。安倍総理がゴリ押した小松氏は抗がん剤治療中だったが、さすがに体力的に無理と判断したのだろう。
 内閣法制局も安保法制懇メンバーもタカ派の面々ばかりで固め、平和憲法を放棄しようという安倍総理。ここでストップをかけないと、この国は「美しい国」ならぬ「醜い国」に確実に変質していく。沖縄に運用年数200年の近代装備で固めた新基地をつくるという事は、沖縄の米軍基地を半永久的に固定化させる策動だ。集団的自衛権行使の容認ともども、安倍政権の野望は、国民にとっては戦後政治で最大の危機というべき事態である。

 

  

※コメントは承認制です。
オカドメノートNo.134国民にとって、戦後政治で最大の危機的状況だ」 に6件のコメント

  1. magazine9 より:

    岡留さんが指摘しているように、憲法改正を党是に掲げる自民党政権にあっても、現憲法のもとで集団的自衛権の行使容認を主張した内閣は、これまで一つもありませんでした。安倍政権がやろうとしているのはそれほどの、前代未聞の「暴挙」だといえます。この「戦後政治最大」の危機を、私たちは乗り切れるのか――。思いつく限りのあらゆる方策で、反対の声を大きくしていくしかありません。

  2. 宮坂亨 より:

    安倍さんの頭にはパネルのようにオキナワは入っていないのでしょう。2004年のように辺野古で海上阻止行動があるならば信州から駆けつけます。2005年の時は35日間辺野古で過ごしたけれど、今度は3か月くらい行く準備をしています。すでに現地ではカヌーの練習が始まっているそうです。

  3. くろとり より:

    暴挙だ何だという前に今の日本が置かれている状態を自覚してほしいものです。
    中国の覇権主義、アメリカの弱体化と、日本を巡る安全保障環境は悪化の一途を辿っています。
    それに何とか対応しようと安倍内閣が動いている中、国内に向けてうだうだと言っている様な場合ではないのです。こうやって国内で無駄に時間を浪費する事を一番喜んでいるのは中国です。
    このままでは自由と民主主義などこれっぽっちも無い中国に飲み込まれる未来が待っているだけなのですがあなた方はそれを望んでいるのですか? 私は絶対に嫌です。
    いくら日本が戦争から逃げても戦争は日本を逃がしてくれないのですよ。

  4. かものはし より:

    戦争をすれば最大の犠牲者は我々一般庶民です。中国の庶民・韓国北朝鮮の庶民。アメリカの庶民。自衛隊・軍隊は犠牲が出た場合恩給がでたり、賠償が付きます。家を焼かれた人、殺された人、負傷した人、かってのあの東京空襲の犠牲者被害者、各地の空襲の被害者に一銭の賠償もされたいません。家屋の賠償を国家が弁済してくれたでしょうか。暮らしを守るって、戦争・軍事・武力では無理でしょう。無理でないというならだれも死なない、殺されないというなら軍備増強もいいでしょう。
    戦争になればみんな殺され殺す世界になって、命と暮らしを守るために戦争して国破れて国勝って山河だけ残る。敵味方の庶民に全員悲劇が残るだけでしょう。積極的平和主義など大ウソでしょう。平和主義といいなら 反戦平和主義なり非戦平和主義なり不戦平和主義でなければ嘘でしょう。積極的平和主義も消極的平和主義も安倍のいう平和主義は戦争主義の言い換えにしかすぎません。政治家が戦争に誘導するときは戦争します、戦争して平和を守りますとは言いません。

  5. Loveまさはる君 より:

    >>ここでストップをかけないと、この国は「美しい国」ならぬ「醜い国」に確実に変質していく。

    沖縄人にとって日本は大昔から「醜い国」。「醜い国」の「醜い左翼」は泥靴で沖縄人の尊厳を踏みつけながら「沖縄の痛みを知ろう」とうそぶく真似を平気でしてきた。一度も「ストップをかけ」てくれたためしはない。努力は評価するし連帯して闘うことは必要だが「どうせまたユクシあらんな?」という思いは消えない。

  6. 鳴井 勝敏 より:

    「国や権力は批判の対象。人間は信頼の対象」。この一言に納得だ。ところが、この批判精神の衰えが気になる。そもそも民主主義は、国民が権力を監視し、批判し、改善を要求することができるから進歩すると考えられるからだ。「自分が体験したことしか理解できないのであれば,それは動物と同じ」(月刊現代2005/3・塩野七生)。ところが、自分が体験したことさえよく理解できていないのか、理解はできるが消したいのか。安倍氏の政権運営に危うさを感じるのだ。多数派に軸足を置いているとなかなか周りが見えない。その結果、「想像力」は高まらない。今時代が国民に要請しているのは、「孤独」に耐え、「想像力」を磨くことであろう。民主主義は手段であって目的ではない。ここをはき違えると「法の支配」ならね「人の支配」が風を切って闊歩することになる。そうであれば、これは独裁国家誕生の予兆なのだ。まさに「国民にとって、戦後政治で最大の危機的状態だ」。

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岡留安則

おかどめ やすのり:1972年法政大学卒業後、『マスコミ評論』を創刊し編集長となる。1979年3月、月刊誌『噂の真相』を編集発行人として立ち上げて、スキャンダリズム雑誌として独自の地平を切り開いてメディア界で話題を呼ぶ。数々のスクープを世に問うが、2004年3月の25周年記念を機会に黒字のままに異例の休刊。その後、沖縄に居を移しフリーとなる。主な著書に『「噂の真相」25年戦記』(集英社新書)、『武器としてのスキャンダル』(ちくま文庫)ほか多数。 HP「ポスト・噂の真相」

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