時々お散歩日記

 安倍内閣、なんだかもうメチャクチャ。内閣の大臣らが暴言を吐いて更迭、なんてことはこれまでも自民党政府のお家芸だったが、ここまで上から下までそろって問題発言を連発する政権があっただろうか? 
 こんな状態で内閣が長持ちするはずはない。
 なにしろ、御大の総理大臣からして、わけの分からない言葉や、言ってはならないこと、触れると問題になりそうな事柄を、ほとんど後先考えずに喋ってしまうのだから、内閣や党の部下たち、お友だち人事で要職へ送り込まれた人たちまでが、同じような勇み足をしてしまうのも無理はない。
 少し辿ってみようか。
 
 まず主だったところでは、自民党の高市早苗政調会長。神戸の党兵庫県連の会合で原発事故被災者の傷口に塩を塗るような発言。
 「事故を起こした東電福島第一原発を含め、事故によって死者が出ている状況ではない。安全性を確保しながら原発を活用していくしかない」(2013年6月19日)。むろん批判続出。するとすぐさま「福島の皆さんが辛い思いをされ、怒りを持ったとしたなら申し訳ないこと。お詫び申し上げる。私が申し上げたエネルギー政策のすべての部分を撤回する」と釈明。こうも簡単に撤回・釈明するような人が“政務調査会長”で、自民党の政策決定の根幹にすわっていると思うと、空恐ろしい。

 次に呆れ返ったのが、麻生太郎副総理兼財務相の発言。2013年7月29日のことである。ヒトラーが「民主的な議会選挙で選ばれて出てきた」と前置きして「憲法改正」に触れ、「だから、静かにやろうやと。憲法はある日、気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。誰も気づかないで変わった。あの手口を学んだらどうかね」
 ほとんどの心ある人たちは、眉をひそめた。しかも、滔々と物知り顔でしゃべったものの「ナチス憲法に変わった」なんて事実はない。知識もなしに、とにかく「ナチスに学べ」である。安倍がこの人を副総理に据えたわけが分かるだろう。ほとんど同じメンタリティーなのだ。
  
 菅義偉官房長官は、集団的自衛権の解釈について、阪田雅裕内閣法制局長官を小松一郎・前駐仏大使(集団的自衛権行使に前向き)に交代させた人事について「憲法解釈は内閣の責任。内閣法制局はあくまで内閣を補佐する機関」として、内閣が自由に憲法解釈の変更に踏み込める、との認識を記者会見で示した(同8月8日)。ついに、具体的に解釈改憲に踏み込んだといえる。時の内閣が、勝手に憲法解釈を変えていいのなら、憲法なんて無意味な存在になってしまうはずなのだが。

 安倍首相本人も負けちゃいない。
 8月15日の「全国戦没者追悼式」の式辞では、これまで歴代の首相が踏襲してきた「先の戦争での、アジア諸国への深い反省」や「哀悼の意」、そして「不戦の誓い」という対外的メッセージは外され、「あなた方の犠牲の上に、いま私たちが享受する平和と繁栄がある」と、国内向けに終始。これが、のちの靖国参拝への露払いだったわけだ。

 小野寺五典防衛相は、アメリカのヘーゲル国防長官と会談。「日本による敵国の基地を攻撃する能力の保持」について意見交換を始めるとした(同8月28日)。「専守防衛」だったはずの自衛隊を、いずれ海外の「敵地」を攻撃できるようにするという意味。戦争への道。

 新任の小松一郎内閣法制局長官は、毎日新聞のインタビューで「集団的自衛権行使容認だけではなく、自衛隊によるPKO(国連平和維持活動)の武器使用基準緩和なども幅広く対象にする」と言明(同8月31日)。安倍の意に沿った発言をさっそく。

 安倍首相が率先して乗り込んだオリンピック招致の会場では、明白なウソを自らが世界へ広言してしまった。13年9月8日のこと、もう有名になってしまったが、例の「アンダー・コントロール」発言だ。「福島原発事故の状況はコントロールされており、放射能の汚染水は事故原発の0.3平方キロ以内の港湾内で完全にブロックされている。私が保証する」と胸を張って言い放ったのだ。「アンタに“保証”されてもまったく信用できないよ」と突っ込みたくなる発言だ。このころ(いや、現在でも)汚染水漏れは延々と続いており、少なくとも日本に暮らしている人で、(原発推進派も含めて)原発事故の状況が“コントロール”されているなどと信じている人は、首相本人はいざしらず、ほとんどいなかっただろう。それでも彼は、IOCの最終プレゼンテーションの場で、こんな虚言で“東京オリンピック”に泥を塗ったのだ。
 当然のことながら、国内外から激しい批判が噴出した。すると安倍は恥の上塗り、その後の発言では“完全に”という言葉を抹消した。やることがセコイ。それにしても、いくらオリンピックを招致したいからといって、いまだに15万人にも及ぶ原発事故からの避難者をそのままに、「状況はコントロールされている」「汚染水は完全にブロック」などと、よく言えたものだ。

 そして、夏ごろから政府自民党は、しきりに「日本版NSC(国家安全保障会議)」の設置と、それに伴う「特定秘密保護法」の制定をアピールし始める。自民党の選挙公約ではまったく触れられていなかったものが、突然の浮上。

 安倍首相が設置した私的有識者懇談会「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(略称・安保法制懇)」が活発化。これは、柳井俊二座長(元外務次官、元駐米大使)、北岡伸一座長代理(国際大学学長)らをはじめとする14人の全メンバーが集団的自衛権容認派という恐るべき偏向“有識者”集団。この会合で安倍は「積極的平和主義こそ、日本の背負うべき看板。新しい時代にふさわしい憲法解釈の基礎を」と、あからさまに解釈改憲の意志表示(同9月17日)。改憲まっしぐら路線が止まらない。

 政権で安全保障政策と危機管理を担当する高見沢将林(まさしげ)官房副長官補は自民党の安保関係合同部会で「集団的自衛権が認められれば、自衛隊が絶対に地球の裏側へは行かない、という性格のものではない」と、自衛隊が日本周辺以外でも武力行使ができるとの認識を明言(9月19日)。どんどんキナ臭い発言が飛び出す。

 「アベノミクスを加速させるために」ということで、政府は企業が従業員を解雇しやすい特区(いわゆる解雇特区)を検討。残業代ゼロの「ホワイトカラー・エグゼンプション」も視野に。

 安倍首相の放言も止まらない。訪米中に、保守系のシンクタンク・ハドソン研究所で講演「もし私を右翼の軍国主義者と呼びたいのならどうぞ」と開き直った(9月25日)。どうも、自分が右翼であると認識しているらしいが、そんなことを外国へ出かけて言う神経が分からない。

 政府の「安全保障と防衛力に関する懇談会」は、紛争当事国などへの武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」を見直すことを提言することに決めた(10月9日)。なし崩しの武器輸出解禁。

 石破茂自民党幹事長は特定秘密保護法に絡み「知る権利」について「国家の安全保障に重大な支障を与える情報まで、すべて国民が知る権利にあたるかというと、そうでもない」と発言(10月13日、BS-TBSの番組で)。そろそろと、衣の下から鎧が…。

 安倍首相は「政権交代で新閣僚が誕生した場合、特定秘密の指定状況を確認して、改めてその適否を判断することもあり得る」と参院予算委員会で答弁。その時々の内閣で特定秘密がコロコロ変わる、ということを認めてしまった(10月24日)。秘密保護法のデタラメさを露呈。

 政府は、NHK経営委員に、長谷川三千子氏(埼玉大名誉教授)、百田尚樹氏(作家)、本田勝彦氏(JT顧問で安倍のかつての家庭教師)ら5人の人事案を国会へ提案(10月25日)。菅官房長官は「自らが信頼し評価している方にお願いするのは当然」と、安倍首相の“お友だち人事”であることを認めた。

 なお、百田氏は自身のツイッターでこんなネット右翼も顔負けの文章を書いていた。「すごくいいことを思いついた! もし他国が日本に攻めてきたら、9条教の信者を前線に送り出す。そして他国の軍隊の前に立ち、「こっちには9条があるぞ! 立ち去れ!」と叫んでもらう。もし9条の威力が本物なら、そこで戦争は終わる。世界は奇跡を目の当たりにして、人類の歴史は変わる」。
 同じく長谷川三千子氏は「『性別役割分担』は哺乳動物の一員である人間にとって、きわめて自然」で、男性が外で働き、女性は家で子を産み育てるのが合理的。男女雇用機会均等法の思想は、個人の生き方への干渉だと、新聞コラムで主張している。

 陸上自衛隊の朝霞訓練場での観閲式での、安倍首相訓示。「平素は訓練してさえいればいいとか、防衛力はその存在だけで抑止力になるなどという従来の発想は、完全に捨て去ってほしい」と。つまり、実際に戦争準備をしろ、ということ。これぞ安倍持論の積極的平和主義!

 「特定秘密保護法案」について、自民党の小池百合子衆院議員は、新聞に載る「首相動静」について「これは知る権利を超えているのではないか」と発言(10月28日)。首相の動きすら“秘密”にせよ、との主張。
 また、町村信孝衆院議員も「知る権利が国家や国民の安全に優先するという考えは基本的に間違っている」(11月8日)
 さらに、法案担当の磯崎陽輔首相補佐官は、テレビ報道をめぐり「あるキャスターが『廃案にさせなければならない』と明確に言った。明らかに放送法に規定する中立義務違反だ」とツイート。報道の自由を否定するもの。

 秘密保護法担当の森雅子大臣の答弁が右往左往。法案の内容がデタラメだから、答える担当相も何が何だかわからない。ことに「首相が第三者機関的観点からの関与する」とした与党とみんなの党の合意内容は、「首相が第三者か?」という疑問だらけの中身。

 下村博文文科相は、教科書の記述に政府見解を反映した記述をするように、検定基準を見直す「教科書改革実行プラン」を発表。教育基本法の理念が反映されていなければ不合格にするという。道徳教育の正式科目化など、教育への政治介入が露骨になりつつある(11月15日)。
 
 自民党の沖縄選出国会議員5人が、普天間飛行場の辺野古移設をついに容認。記者会見で石破幹事長は「圧力を加えたつもりはない。沖縄の気持ちを代弁する国会議員が、党に県外移設を求めることは、これまで許容してきた」と述べた(11月25日)。

 石破幹事長が、自身のブログで秘密保護法案反対のデモについて「主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきなのであって、単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思います」と記述(11月29日)。石破氏及び自民党の考え方が端的に表れたもの。批判が殺到するや、「テロと同じと見た、と受け取られる部分があるとすれば、そこは撤回させていただく」と記者団に語った(12月1日)。ここにも、失言→撤回のお家芸。

 特定秘密保護法案、強行可決(12月6日)

 沖縄の仲井真弘多知事は、県議会本会議で「日米両政府に普天間の県外移設、早期返還を強く求めていく」と表明(12月5日)。のちに、ウソだったことが判明。

 強行採決の翌日、安倍は「公邸で目が覚めたら、国会の周りが静かで、嵐が過ぎ去った感じだ」と、側近に語った(12月7日)。人々の反対の声を“騒音”としか捉えていない。石破幹事長と同じ。

 石破幹事長、指定された秘密を報道機関が報じることについて「何らかの方法で抑制されることになる」と日本記者クラブの会見で言明(12月11日)。だが、その2時間後、「漏えいした公務員は罰せられるが、報道した側は処罰の対象にはならない」と前言撤回、訂正。またもお家芸。
 ところがまたも「報道の自由として報道する、処罰の対象ではないから報道してもいいんだ、ということで、大勢の人が死にました、となればどうなるのか?」と発言(同12日)。もう言うことがメチャクチャ。

 「NHKの国際放送に、みんながもう少し興味を持ってくれればいい」と安倍首相。尖閣諸島や竹島が日本領土であるという主張をNHKがもっと強く打ち出すべきとの認識。NHKへの介入。

 南スーダン自衛隊PKO部隊が韓国軍へ銃弾の譲渡を決定(12月23日)。これまで「武器弾薬などの物資協力はあり得ない」としてきた政府見解を転換。これに対し「PKO法の条文に『武器弾薬は除く』とは書かれていない」というのが、政府の苦しい解釈。書かれていなければ何をやってもいいのか。

 沖縄県の仲井真知事、ついに辺野古の埋め立て申請を承認。安倍首相の口約束を「驚くべき立派な内容」「前へ進めた実感がある。これはいい正月になるなあ…」と語った(12月25日)。沖縄県民は猛反発。県庁のホールは反対する人たち1000人以上で埋まった。知事は、県庁での記者会見ができず、公舎での会見に。

 安倍首相、靖国神社参拝(12月26日)。これに対しアメリカ側は「日本の指導者が近隣諸国との関係を悪化させる行動をとったことに、米国は失望している」と強い調子で批判。

 伊勢神宮に参拝した安倍首相は、参拝後の記者会見で、原発政策について「エネルギー源の多様化と既存の原発の再稼働の判断に集中する」と、改めて原発再稼働方針を強調(2014年1月6日)。相変わらず「アンダー・コントロール」していると思っているらしい。

 石破幹事長、沖縄県名護市長選の応援に名護入り。街頭演説で「500億円の名護市振興基金を新たに設ける」と、またも札束で市民の横っ面をひっぱたく(1月16日)。ところが菅官房長官は、その財源は、政府がすでに確保している予算や一括交付金を活用すべきで、新たな予算措置はしないとの考えを示した。口裏さえ合わせていない慌てぶり。
 そして、名護市長に辺野古移設反対の稲嶺進氏が大差で当選。札束作戦は不発。すると石破氏、すぐに「500億円は末松氏(落選)ビジョンのため。稲嶺氏とは何も話していないからやるつもりはない」と、またも撤回。

 森喜朗元首相が、なぜか都知事不在の中でオリンピック組織委員会会長に就任。「オリンピックのためにはもっと電気が必要。原発ゼロならオリンピックは返上しなければならない」とテレビ番組で発言(1月18日)。ほとんど脅し。しかも、オリンピックの政治利用。

 岸田文雄外相が、核兵器の使用について「集団的自衛権に基づく極限の状況に限定すると宣言すべき」と、長崎大の講演で発言(1月20日)。どう言い訳しようと、核兵器使用を限定的ながら認める発言。

 安倍首相、今度はスイスのダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)の各国メディアとの会見で日中関係について問われ、「…偶発的に武力衝突が起こらないようにすることが重要。今年は第一次世界大戦から100年目。イギリスもドイツも、経済的な依存度は高かった、最大の貿易相手国だったが戦争が起こった…」と説明(1月22日)。それに対し、欧米各国では第一次大戦直前の英独関係を例に出すのは、日中間の緊張の高まりを説明したものとしては危ない、との声が出ている。なぜこんなことを国際的な場で話すのか、どうにも理解に苦しむ。
 安倍首相は、中国の拡大政策に対し「中国包囲網」を構築しようとして外遊を繰り返し、行く先々で札ビラを切りまくっている。しかし、靖国参拝は中国や韓国のみならず、アメリカの強い批判を受けたし、EUの多くの国やロシアからまで批判されている。
 その火に油を注いだのが、このダボス会議での発言だ。「中国包囲網」どころか、安倍自らが「日本包囲網」を作りだしているではないか。どんなに諸国外遊で協力金をばらまいたところで、これでは“金づる”としては喜ばれても、尊敬される国にはなれないだろう。

 NHK会長に就任した籾井勝人氏は、就任会見で「慰安婦」「靖国」「秘密保護法」「領土問題」などについて、個人的見解としながらも、安倍政権べったりの発言を連発(1月25日)。特に「政府が右と言うことを、左だと言うわけにはいかない」として、政府見解に沿った報道をするとも取れる発言は、まさに報道機関としての役割を捨てたといってもいいほどの重要性を持つ。

 ざっと、最近の政府や与党首脳、さらに、安倍内閣が任命した要職の人たちの言説を挙げてみた。
 ほんとうに、よくもこれだけの“スター”を揃えたと、感心せざるを得ないような陣容と内容。これに東京都知事として舛添氏が加わったらと思うと、ゾッとする。
 今回の東京都知事選は、こんな安倍暴走内閣にストップをかける絶好のチャンスだと思う。ぜひ、危険な安倍路線にNO!を。

 

  

※コメントは承認制です。
167 「中国包囲網」が、
いつの間にか「日本包囲網」に…
」 に4件のコメント

  1. ピースメーカー より:

    >なぜこんなことを国際的な場で話すのか、どうにも理解に苦しむ。
    在英ジャーナリストの木村正人氏は安倍首相のダボス会議での発言について、以下の論評を書いております。
    ”(抜粋)ギデオン・ラクマン氏は安倍首相のどこを評価したのか。英メディアを代表するラクマン氏のすごさは先入観や偏見にとらわれず、ジャッジする目を持っていることである。そのラクマン氏は、今年のダボス会議で注目された2人として安倍首相とイランのロウハニ大統領を挙げる。 これまでの日本の首相について、ラクマン氏は「ほとんど期待もされず、固苦しくて形式的だった」と切り捨てたのに対し、経済政策アベノミクスで日本を復活させようとする安倍首相の演説には、欧米の政治指導者でも苦心している情熱とエネルギーがみなぎっていたと公正に評価した。 「帝国主義者に似ている中国・習近平国家主席のスタイルとは対照的に、安倍首相は驚くほどフランクだった。オフレコからオンレコに切り替えるのもためらわなかった」とラクマン氏はいう。 問題の「第一次大戦前の英独」発言についても、「安倍首相は好戦的ではなく、戦争は日中双方にとって悲劇になることを明確に発言した。靖国参拝について質問者を納得させることはできなかったが、前向きな安倍首相の姿勢はとても印象的だった」と評価した。 「中国や韓国の反発を差し引いても、日本が新しいダイナミックな指導者の下で変化していることを確信させることに成功した。安倍首相のダボス会議はおそらく成功だった」と結んでいる。(終了)”

  2. 山口 より:

    はじめまして、なんか歴史をたどってそれは事実ですが、どういう展開が待っているのか推論・論理が物足らないと感じました。そういう時系列が何をもたらすのか、なぜこうなったか、次は何か?政権が何を構想しているのか?こうした思考を深めることをしてほしいと思います。そしたら私たちの思惟の良い指針となりうるからです。

  3. hiroshi より:

    籾井氏の発言や安倍首相の靖国参拝については、在英ジャーナリストの木村正人氏は、以下の論評も書いております。

    籾井会長は、安倍首相の財界応援団「さくら会」の重鎮で元経営委員長の 古森重隆・富士フイルムホールディングス会長と親交がある。籾井会長就任は「政権の意向が反映された」といわれてきた。

    籾井会長の発言が安倍政権の意向とは思いたくないが、安倍首相をはじめとする「保守勢力」を自称する政治家やメディアは、東京裁判に端を発する歴史認識を「自虐史観」と激しく批判してきた。

    それに対抗する意味で「自由主義史観」という名の運動が起きたが、歯止めがきかなくなった最近の論調に「居直り史観だ」という批判が保守陣営からも寄せられるようになった。

    筆者が恐れるのは、海外から日本では「居直り史観」が主流になったとみなされることである。安倍首相は年末、靖国神社を参拝した理由を「恒久平和を誓う」ためと説明した。

    しかし、世界は、靖国参拝の目的は東京裁判の否定、すなわちサンフランシスコ講和条約による戦後秩序の否定とみなしている。裏返せば、日本は先の大戦についてまったく責任がないという歴史認識である。

    靖国参拝が「靖国史観」と受け取られ、籾井会長にみられる「居直り史観」と結び付けられる。一般の靖国参拝まで色眼鏡でみられるようになる。これでは靖国にまつられている戦没者があまりにもかわいそうだと思う。

    「悪いのは日本だけではない」という論理がいつの間にか「日本は何も悪くなかった」「日本の植民地支配は素晴らしかった」というとんでもない勘違いにすり替わり始めている。

    こうした世間の風潮が橋下発言、籾井発言の裏側にある。

    中国と紛争を起こさずに尖閣諸島の主権を守り抜き、日本経済の成長を取り戻すのは大変な仕事である。筆者は個人的には安倍首相に5年とはいわず、10年は頑張ってもらいたいと思っている。

    前回の安倍政権を殺したのは誰か。朝日新聞でもNHKでもない。安倍首相のまわりで東京裁判史観の否定をたきつけた自称「保守勢力」の政治家、識者、メディアである。

    そして今回も自称「保守勢力」が安倍政権を殺そうとしている。真の愛国者とはいったい誰なのか。いい加減に目を覚ませ。 (終了)

  4. クレヨン伯爵 より:

    鈴木さん。たぶん安倍さん&ヒズ・カンパニーは以前と変わっておられなくて、伝えるマスメディアと受け取る国民の側がこの10年、いや、5年ほどで大きく変わったのでしょう。
    順序としては国民のニーズ→汲み取るメディア、の順かも知れませんね。
    第二次大戦を知る世代の方の引退が進んだことや、雇用不安定化などの要因にくわえ、彼ら(対岸の、阿吽の呼吸の人たちも含む)が地道に着々とまきちらかしてきた憎悪のタネが芽を出しすくすく育ってきたのでしょう。その執念には呆れるほかない。やれやれ。
    ついでに民主党政権への失望もあるでしょうが、(民主党自身の問題は無論あるにせよ)全力で小沢つぶしに協力したマスメディア、後先読まず感情の赴くまま鳩山バッシングに加わった当初の連立相手も結果として安倍再登場の地ならしに協力したと私は考えていますよ。
    ああ、サメのお人が一言言うたびにバッシングの嵐でお身内からまで「あたしが総理やったほうがマシよ!」と揶揄されたり、安倍内閣だってナントカ還元水やばんそうこうのお人を巡り散々に批判された、あの時代はいまいずこ。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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