時々お散歩日記

 原子力規制委員会の有識者会議は5月15日、日本原子力発電(日本原電)の敦賀原発2号機(福井県)の真下の断層を、活断層であると断定する報告書をまとめた。
 国は、活断層上に原子力発電所の安全上重要な施設を設置することを認めていない。規制委は7月に「新規制基準」を策定する。国が繰り返し「規制委員会の厳格な安全審査にしたがって」と述べていることから、この報告によって敦賀原発2号機は、廃炉に追い込まれる可能性が大きくなったわけだ。
 それに対し、原電の浜田康男社長は猛反発。同じ15日、即座に記者会見を開き「最初から結論ありきで、公権力の行使に携わる規制当局としてまことに不適切だ。容認できない。今後の状況次第では、行政訴訟も検討する」と声を荒らげて反論した。
 だが、この反論、どこかヘン。規制委はこの調査に5ヵ月間もかけている。浜田社長の言うように「最初から結論ありき」ならば、そんなに時間をかける必要もなかったはずだ。
 むろん、原電所有のすべての原発(3基)が停止している状況で、敦賀2号機が廃炉ということになれば、原電という会社の存続も不可能になるだろう。浜田社長が必死に抗議するのも分からないではない。だからといって、規制委に抗議するのは筋違い。自らの手で「活断層ではない」という証明をすることしか方法はないだろう。それをしないまま、ただ抗議するのは駄々っ子のやり方である。
 しかも原電、規制委員会の調査チームの個人宛に「抗議書」を送りつけるという前代未聞の挙に出た。東京新聞(20日付)である。

 日本原子力発電(原電)が、敦賀原発2号機(福井県敦賀市)の真下に活断層があると認定した原子力規制委員会の調査チームの専門家たちに、「厳重抗議」と題した異例の文書を送りつけた。専門家からは「個人として抗議されるのはおかしい」など戸惑いの声が出ている。今後、各原発での活断層調査に当たる専門家への影響も懸念される。
 十七日、議論のやり直しを要請するため規制委を訪れた原電の浜田康男社長は「専門家はわれわれの意見をほとんど無視した。だから抗議文を送った」と報道陣に言い放った。(略)
(調査チームの)名古屋大学の鈴木康弘教授は「審査された側が、審査に協力した外部の専門家に抗議文を押しつけるのはいかがなものか」と指摘。「研究者個人の勇気や使命感に頼った審査体制ではいけない」と規制委にも注文をつけた。(略)

 いやはや…、である。こういう行動を恫喝という。自分たちの手で「活断層ではない」というしっかりとした証拠を示すこともできず、調査の専門家を恫喝する。ほとんどヤクザの所業ではないか。
規制委は、審査に協力してくれる専門家から、こうした圧力を排除しなければならない。でなければ、専門家の協力を得られなくなるおそれが大きくなる。

 規制委は、「もんじゅ」についても、かなり踏み込んだ命令を下した。朝日新聞(5月16日付)はこう報じている。

 原子力規制委員会により、試運転再開に向けた準備作業の中止を突きつけられた高速増殖炉もんじゅ(福井県)。日本原子力研究開発機構(JAEA)は、1万個近い機器の点検漏れを「安全文化が劣化している」と痛烈に批判された。もんじゅが中核施設になるはずだった核燃料サイクルの実現は遠のくばかりだ。(略)

 この記事の中で、島崎邦彦規制委員長代理が「こういう組織の存続を許していることが問題ではないか」とまで発言したと書いてある。存続してはならないほどひどい組織が、何度も故障や事故を繰り返した超危険な原子炉を運営していたのだ。考えると、背筋が寒くなる。
 さすがにそこまで言われて居座りも限界と思ったか、JAEAの鈴木篤之理事長(前原子力安全委員長=班目春樹委員長の前任者)も17日、突如辞任、事態の収拾も諦めた。ま、次の天下り先には事欠かない原発マフィアのドンのひとりだから平気なのかもしれない。
 これで「もんじゅ」は、試運転再開のメドはまったく立たなくなった。つまり、日本の核燃料の一部は確実に行き場を失ったことを意味する。核燃料サイクルのもう一方の柱である六ヶ所村(青森県)の核燃料再処理工場も事故や故障続きで稼働の見通しはまったく立っていない。日本の原子力政策の根幹は完全に破綻したのだ。
 この核燃料サイクルには、すでに10兆円を超える資金が投入されている。ほぼ、どぶに捨てたと同じことだ。まだ続けるというのは、どぶへ捨てる金をもっと増やすだけ。
 「いま止めるのは、ここまで投入した資金が無駄になる。続けるべきだ」などという意見を、訳知り顔で言う論者がいるが、それは、失敗を認めたがらない官僚たちのセリフだ。撤退時期を誤れば、ますます深みにはまる。潔く諦めるしかないのだが、そうなれば責任問題が出てくる。誰も責任をとりたくない、というのも官僚の性だ。

 その官僚たちに誑かされたか、財界の意を汲んだか、自民党内には規制委へ圧力をかけようという動きが露骨に出てきた。特に凄いのが「電力安定供給推進議員連盟」だ。はっきり「原発推進議員連盟」と名乗ればいいものを、ここでもごまかし。まだまだ国民の間に脱原発意識が強いのを恐れての妙なネーミングだ。

 議連には、島根選出の細田博之、青森の大島理森、静岡の塩谷立、福井の高木毅議員ら、原発立地県のそうそうたる人物が顔をそろえている。この動きに押されるかのように、自民党は「原発再稼働容認」を、7月に行われるとみられる参院選の選挙公約に掲げようとしている。

 まさに、”石棺(議事堂)の中の懲りない面々”(『塀の中の懲りない面々』安部譲二著より)である。

 原子力ムラの復活は、安倍の再登場がきっかけとなったようだ。この2月、安倍へ「緊急提言」なるものを提出した「エネルギー・原子力政策懇談会」(会長・有馬朗人元文部大臣、元東京大学総長)という”民間”団体もそのひとつだ。ここには、ウサン臭い人材が結集している。しかも、”民間”とは言いながら、それを手助けしているのが、経産省の役人たちだ。朝日新聞(19日付)を見てみる。

(略)提言は「責任ある原子力政策の再構築」と題し、有馬会長を発起人とする有志名で出した。有志に電力会社トップはいないが、日立製作所など原発メーカーや大手商社のトップ、元経産次官の望月晴文氏(日立製作所社外取締役)ら29人が名を連ねる。
 A4用紙5枚の提言は原発規制のあり方に約4割を割き、規制委に対して「最高水準の英知と最大限の情報を活用した検討が実現していない」と批判した。その上で「原発再稼働を図るべきだ」などと求めた。(略)
 ファイルの作成者はいずれも経産省でパソコンを管理する「情報システム厚生課」になっている。(略)
 エネ庁(注・経産省資源エネルギー庁)幹部は朝日新聞の取材に対し、原子力政策課の職員が提言のもとになる文書をつくったことを認めた。(略)懇談会関係者は「昨年暮れに事務局と元経産次官の望月氏で骨子をつくり、経産省職員がパソコンでまとめた。首相との面談も経産省が手配した」と明かした。(略)

 何のことはない。羊の皮を被ったずる賢い狐、民間団体を装った官僚主導の提言だったのだ。そして、自分たちの意のままにならない規制委を、民間団体の口から批判させたという構図だ。
 こんな連中が跋扈する原子力ムラが、大手を振って、また表通りに出てきたのだ。福島原発事故からしばらく、あまりの予測の外れやデタラメな意見の表明などですっかり信頼を失い、鳴りをひそめていたムラ人たちが、安倍の復帰とともに我が世再来とばかりに、自信回復のご様子なのだ。

 そして、安倍内閣の海外への原発輸出ののめりこみ方が凄い。中東歴訪に、財界人や原発メーカー首脳を伴って、「世界最高水準の安全性の原発」を売り込んだかと思うと、今度はインドへの原発輸出を念頭に「日印原子力協定」の締結交渉を再開した。
 これは、福島原発事故で交渉が止まっていたものだが、事故の収束などそっちのけでの原発輸出だ。まさに「死の商人」だ。
 自国民をこれほど苦しめている「原発事故」の後始末もできないくせに、その過酷事故をセールストークに利用しての原発売り込み。16万人にも及ぶ「原発難民」の前でも同じことが言えるのか。
 「我が国の原発の安全性は、あの福島原発事故を教訓に、世界最高水準のものになりました」と、16万人へ直接語りかけてみるがいい。

 こんなことが、現在の「日本の原発」の状況なのだ。
 橋下大阪市長の妄言暴言もひどいものだが、それ以上に、安倍内閣がやろうとしていることは、ひとつ原発政策だけに限っても許されざるものだと、僕は強く思うのだ。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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