時々お散歩日記

 関東地方は梅雨が明けたという。とたんに猛暑。帽子がなくちゃ外へ出られない。まだ残っている僕の髪の毛が、じりじりと焼け焦げそうでアブナイ。残り少ない髪なんだから大切にしているのに。
 そんな中、選挙カーの相変わらずの候補者名連呼が暑苦しい。ただただ「××をよろしく!」「○○党へ1票を!」と叫びたてるだけ。きちんと政策を話す余裕などないらしい。これが7月20日(投票日は21日)まで続くと思うと、いささかゲンナリする。
 でも暑いので、多くの人はクーラーをつけて窓を閉め切っているから、そんな声もほとんど家の中には届かない。叫んでいる人たち、虚しくならないのかなあ…。

 それにしても、低調な選挙戦だ。
 各マスメディアは、公示日(4日)のすぐ後の5日~7日にかけて、一斉に「選挙戦序盤の情勢」というヤツを、お得意の世論調査をもとに報じていた。それによると「自民党圧勝の勢い」なのだそうだ。むろん、「まだ投票先を決めていない人たちが30~40%にも上るので、今後の情勢次第では変動もありうる」という但し書き付きだけれど。
 でも、これだけよってたかって「野党共闘不調」「有権者は投票先を見つけられない」とか「自民圧勝、単独過半数も視野に」などと連日報じられると、「どうせそうなら、投票なんかやめようか」という有権者も出てくるだろう。
 各社の世論調査でも「投票率は最低ラインか」との推測だ。でも、それじゃあ本当に困るんだよ。
 世論調査では、選挙戦の争点の第1位は「経済問題」なんだそうだ。だから、他の問題はその陰に隠れてしまっている。アベノミクスという得体の知れない言葉だけが紙面に躍り、アナウンサーが株価の状況を報告する。お、なんだか景気がよくなりそう…。
 しかし、ここできちんと安倍自民党の言っていることを確認しておかないと、選挙後、ひどいことになるかもしれないんだよ。
 そう思って、安倍自民党政権がこれまでに明らかにしてきたことの中で、重要だと思われる事項をチェックしてみた。21日の投票日に、少しでも参考になれば…という気持ち。

1.アベノミクスで景気はよくなり、国民の所得は上がり、生活は楽になる、というのは事実か?

 どうも、そんなことにはならないようだ。株価の乱高下はしばらく続くだろう。もっとも、株なんかに縁のない(僕のような)庶民には、関係ない。儲かるのは投機筋と大企業。円安がらみで輸出企業は多少潤っているようだが、輸入品(特に食糧)は大幅値上がり。つまり、我々の口に入るものはどんどん値上がり。簡単に値上げできない中小企業や商店は、値上げ分に自腹を切って対応、四苦八苦だ。輸出関連大企業など以外は、ほとんど恩恵がない。
 いい加減なのは安倍。
 「アベノミクスによって、10年後には国民所得をひとり当たり150万円増やすことができます!」と大見得を切った。おお、それは素晴らしい! だったら、いわゆる標準家庭(夫婦と子ども2人)では、所得はなんと600万円増! バンザーイッ!!!
 ウソだ。これは騙しのテクニック、なんとか詐欺よりひどい手口だ。だって、これまでこういう話のときに使われてきた指標のGDP(国内総生産)でもGNP(国民総生産)でもなく、GDI(国民総所得)なる聞き慣れないものを持ち出してのまやかしなんだから。
 つまり、GDPが国内での総生産を表すのに対し、このGDIってのは企業や個人が海外での活動で得た所得などもすべて合算した数字。でも、海外所得に関しては、その地で課税されるから日本企業が得た所得がそのまま日本へ還流されるわけじゃないし、むろん、企業は利益を溜め込むのだから国民へそのまま分配されるはずもない。ただ、国民総数で割り算して平均するとそういうことになる、という机上の計算、砂上の楼閣。個人所得とは関係ない話なんだ。いやはや。
 もし「オレの給料はこれだけ上がったぜ」という人がいたら教えてほしい。少なくとも僕の周辺で、そんなオイシイ話は聞いたことがない。

2.原発再稼働にのめりこんでいるのは、安倍自民党だけ。

 先日行われた「9党首討論会」では、自民党だけが「原発再稼働に前向き」だった。というより、安倍はもう原発を動かしたくってウズウズしている。もはや「原発首相」というしかない。
 他の8党首は、濃淡はあるけれど、すべてが「原発ゼロ社会を目指す」としている。むろん、どうも怪しいという政党もあるけれど、少なくともすぐに原発再稼働を主張した政党はない。なぜ、安倍自民党だけが突出しているのか?
 これは、例のアベノミクスと密接に絡んでいる。なにしろ(金融政策以外の)経済復興の具体的な政策はほとんどない。金を刷ってじゃぶじゃぶとばら撒くことだけが、ほぼ唯一の政策。これで実体経済がよくなるわけがない。そこで安倍がしがみついているのが「国土強靭化政策」と「原発輸出」、さらには「武器輸出3原則の緩和」という、どれをとってみてもウサン臭い政策だ。
 「国土強靭化」なんて言葉は勇ましいが、実際は土建国家への逆戻りで、美しい(安倍の大好きなフレーズ)国土を、またぶっ壊そうというもの。どこが“美しい”のか、わけが分からない。
 「武器輸出3原則の緩和」にいたっては、日本が誇るイメージ「平和国家」を、根底から否定するものでしかない。
 そして極めつけは「原発輸出」だ。安倍は口を開けば「福島原発事故の経験を生かし、世界最高水準の安全性の原発を提供できる」と、どこまで正気かと頭の中を疑いたくなるようなペラペラなリクツで売込みを図る。買うほうも買うほうだと思うが、そこに莫大な利権が絡んでいると考えれば腑に落ちる。
 7月8日には、またも福島原発の港から凄まじい高線量の放射性物質が検出されたと、東電自ら発表せざるを得なかった。それも3日連続の上昇である。事故はまだ継続中なんだ。どこが「経験を踏まえた最高水準の安全」なんだ? せめて、事故原因の検証がすべて終わってから“世迷い言”を言え、安倍よ。
 しばらく鳴りを潜めていた原発御用学者たちが、またぞろテレビ画面に笑顔をさらすようになったことも、アベノミクスの副次効果というしかないか。原子力ムラ、堂々の復活である。

3.安倍流「憲法改定」の底の浅さがバレ始めた。

 まあ、ひどいもんだ。何がって? 「自民党憲法改正草案」ってヤツの中身のこと。さまざまな人や組織が、これまで多くの「改憲草案」を提案してきたが、その中でもこの自民案は最低最悪だ。
 しかも問題なのは、その中身さえ、安倍自身、ほとんど読み込んでいないし理解していないことが分かってしまったことだ。
 前述の9党首討論会でも、その理解の浅さを露呈していた。安倍は「立憲主義」について問われると、答えに窮して支離滅裂。「憲法とは権力側をしばり、権力の乱用を許さないためにある」ということが分かっていない。「現在は、専制主義、独裁的な政府ではない。民主主義であるから、国のあるべき姿を書くべきです」と、何を言っているのかわけが分からんチン。おいおい、大丈夫か、この首相…。
 民主主義によって選ばれた政府であろうと、権力の乱用で国民と対立する、なんて例は世界中いたるところにある。ヒトラーのナチス・ドイツの例を引くまでもなく、現に、エジプトで起きている事態を見ても分かるではないか。安倍は、歴史も知らなければ世界の現状も分かっていないと言わざるを得ない。
 さらに同討論会で、小沢一郎生活の党代表に「基本的人権の永久的権利を定めた憲法97条を削除してしまったのはなぜか?」と問われると、安倍は「逐条的に聞かれても…」と、97条とはどんなことを定めた条文なのか知らなかったことを露呈してしまった。ちなみに97条は以下の条文である。

日本国憲法第97条
 この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 ま、「立憲主義」という憲法の基本さえ理解できていないのだから、仕方ないか…、なんて言ってちゃまずい。なにしろ、こんな人物が残念ながら現在のこの国の最高責任者なんだから。しかも、その最高責任者が我々国民の最も大切な「基本的人権」の条文さえ知らないというのであれば、ことは重大だ。
 こんな憲法無理解の安倍政権に、信頼の1票を投じていいものだろうか?
 その1票の先には、「国防軍」と「徴兵制」が待ち構えている。「心配しすぎだ」という人もいるが、そういう人は「自民党憲法改正草案」を読んでみるがいい。ぶっ飛ぶぜ!

自民党憲法改正草案 
第九条の二
 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
 2.国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
 3. 国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
 4. 前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。
 5. 国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、補償されなければならない。

 この国防軍に関するやけに細かい規定が、安倍自民党の改憲案の本質を示している。参考までに、現行の日本国憲法第9条を引用しておく。自民党案の細部にわたる異常さがよく分かるだろう。

第九条
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

 ②前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

 読み比べてもらえれば、安倍自民党の目指すところが、国家による戦争と、それを支える軍隊の確立にあることは明白だろう。軍隊の確立とは、将来的には徴兵制を視野に入れる方向へ進む、ということもまた明らかだ。そして、その対象となるのが僕のような老齢者ではなく、若い“アナタ”であることもまた自明だろう。
 まだまだ書いておかなければならないことはたくさんある。けれど、それは次週に譲ろう。
 最後に、内田樹さんの言葉を引いておく。「週刊金曜日・臨時増刊号、特別編集・憲法」(7月9日発行)掲載のインタビューだ。

 日本は戦後六八年間、国家として他国民を誰一人殺さず、また殺されもしませんでした。これは、先進国のなかでは極めて例外的です。非戦を貫けたのには戦争の放棄を定めた憲法の理念的な支えがあったからです。戦後日本が「近親者を日本兵に殺された」経験を持つ国民を一人も生み出さずに済んでいるという事実は憲法がもたらした動かしがたい現実です。
 しかし、自民党は改憲で戦争をできる権利を確保して、集団的自衛権の行使によって米国の軍略に奉仕できる方向をめざしています。(略)

 僕の認識を、きちんとした言葉に置き換えてくれた、とさえ思える文章である。この内田さんの論旨に、どんな反論ができるというのだろう…。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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