時々お散歩日記

 最初に、引用する。

 相変わらず、行き当たりばったりの安倍首相。しかし、彼の腹は透けて見える。ゴリ押しでもなんでもとにかく、憲法改定に突っ走りたいのだ。
そのためには、改定反対勢力を力ずくででも押さえ込んでしまいたいということなのだろう。
前回の「共謀罪」論議の際にも指摘されたように、たとえば「改憲反対デモ」の相談や打ち合わせをしただけでも、罪に問われかねない。
「そんなことはない」といくら政府・自民党が言いつくろっても、反戦ビラを撒いただけで逮捕されるというような実例が、すでにたくさん報告されている以上、そんな言い分はとても信用できない。「ビラ撒き」から「デモ相談」へと、逮捕の対象がすぐに拡大されてしまうに違いない。
かつて、このコラムでそう書いたら、「何を言うのか。なんのために裁判所があると思っているのか。もし無実ならば、裁判で判断してもらえばいいではないか。それが民主国家だ」というような、なんともスゴイ反論をいただいたことがある。
普通に暮らしている人にとって、「逮捕される」ということが、いかに恐ろしいことか、この人はまるで理解していない。というより、想像力が欠如している。たとえ一日であっても、警察に拘置されることの恐怖。
有罪か無罪か、そんなことは権力側にとってはどうでもいいのだ。「逮捕の恐怖」という脅しを最大限に利用して、反政府的な言動を取り締まる。それが「共謀罪」の目的なのだ。

長々と引用したが、これは最近の文章ではない。実は、僕が2007年1月に書いたものだから、もう6年以上も前の文章である。『目覚めたら、戦争。』(コモンズ刊、1600円+税、2007年9月刊行)という僕の著書に収録した。
第1次安倍晋三内閣誕生(2006年9月)から間もないころに書いたものだが、まるで最近の状況とそっくりではないか。ここでは「共謀罪」を取り上げているが、現在ではそれが「秘密保全法」に代わっただけ。前回、おなかの病気で退陣したときにやり残したことへの、安倍の執念の再チャレンジ、考えることは同じなのだ。

「秘密保全法」では、秘密を漏らせば、即逮捕っ! では、この法案はどんな事態を想定しているのか。大きく言えば、次の3分野だ。
(1)国の安全、(2)外交、(3)公共の安全及び秩序の維持、である。この3分野で「国家の存立に重要な影響を与える情報」を漏らした公務員やその共犯者などへの罰則を強化するための法律である。
「自民党憲法改正草案」というものがある。この凄まじい時代錯誤の自民党案にやたらに出てくるのが「公益及び公の秩序」というヤツだが、同じ概念がこの「秘密保全法案」にも顔を出す。(3)の「公共の安全及び秩序の維持」という部分だ。
これをどう運用するかは、時の為政者(権力)のさじ加減ひとつだ。たとえば、政治家と企業の談合や癒着。それを知り、内部告発しようとした公務員(官僚)などは、この(3)に引っかかるだろうし、その情報を告発者から入手して報道しようとしたジャーナリストなども、共犯者として一網打尽…。「公共の秩序の維持」という錦の御旗を掲げれば、多分、どんな情報だって引っ掛けられる。
むろん、弾圧は公務員や報道者に対してだけではなくなる。ツイッターやフェイスブック、ブログなどのSNSを使って情報を探り、それを発信しようとする人たちへも、網は広がる。「共犯者」とみなされれば、公務員でなくともかまわず逮捕。
そうなれば、一般の人たちは怖くて自己規制してしまう。ここに、権力側の都合のいい「秘密保全」が確立する。つまりこれは、「国のやることに口出しするな」という安倍らの意志そのものなのだ。
(1)の「国の安全」というのも曖昧な概念だ。もし、憲法改定こそが国の安全にどうしても必要だ、と権力側が判断すれば(安倍は確実にそう判断しているわけだが)それに反対する勢力は「国の安全を乱すもの」として取締りの対象になりかねない。
政府内で進む改憲の動きの詳細を知った(良心的?)官僚が、その情報を取材記者に流し、それが報道されれば、官僚も記者も秘密保全法違反で逮捕、である。
いいのだろうか…。

原発だって同じことだ。
このところ、各地でときならぬ空間放射線量の増加が見られると、ネット上では大きな話題になっている。確かに、なぜか東電が福島事故原発からの「湯気」だとか、「海への汚染水漏れ」などを、小出しに、おそるおそる発表しだしたころから、この傾向が始まったようだ。
僕もさまざまな資料を漁っているけれど、この線量増加の原因などは分からない。だが、どうも東電自体もきちんと原因把握はできていないらしい。発表の仕方が妙に自信なさげなのだ。これらは、正式な発表というよりツイッターやFBでネット上に広がっている情報だ。
だから、もし秘密保全法が成立していて、これを政府が「国の安全を阻害する情報」と認定してしまえば、ネット上での情報流通もシャットアウトされる。国民は危ない情報からは遮断される。

そんな折も折、麻生太郎副総理(考えれば、安倍・麻生コンビって、かなり怖い)が、凄いことを口走った。スポニチが、7月30日に配信した記事だ。

麻生副総理 改憲でナチス引き合い、都内の講演会で語る

麻生太郎副総理兼財務相は29日夜、都内で講演し、憲法改正をめぐり戦前ドイツのナチス政権時代に言及する中で「ドイツのワイマール憲法はいつの間にか変わっていた。誰も気がつかない間に変わった。あの手口を学んだらどうか」と述べた。
「けん騒の中で決めないでほしい」とし、憲法改正は静かな環境の中で議論すべきだと強調する文脈の中で発言したが、ナチス政権を引き合いに出す表現は議論を呼ぶ可能性もある。
麻生氏は「護憲と叫んで平和が来ると思ったら大間違いだ。改憲の目的は国家の安定と安寧。改憲は単なる手段だ」と強調した。その上で「騒々しい中で決めてほしくない。落ち着いて、われわれを取り巻く環境は何なのか、状況をよく見た世論の上に憲法改正は成し遂げられるべきだ。そうしないと間違ったものになりかねない」と指摘した。(略)

恐るべき発言といわざるを得ない。
「ナチスドイツの手口を学べ」と言っている。「誰にも気づかせないで改憲するのがいいのだ」とも言っている。
これが、政権NO.2の発言なのだから放ってはおけない。
しかも、「けん騒の中で決めないでほしい」とは、いったいどういうことなのか。
国民が侃々諤々の大議論をすることを否定する。静かに、一握りの人間たちだけで粛々と改憲するのがベストだと考えているらしい。国家の命運を左右するような大問題を議論することを「けん騒」だとか「騒々しい中」だとかと表現する。
この人、首相時代には、「漢字を知らない」だの「言葉の意味を知らずに使う」などとバカにされたが、それは短期間で直るようなものではなかったらしい。国民間の議論を「騒々しい」と言うのだから、使用法が間違っていると指摘する以前に、呆れ返るしかない。
ナチスが登場した時代のドイツにあった「ワイマール憲法」とは、当時、世界で最も民主的といわれた憲法である。それをナチス・ヒトラーは、ほとんど騙し討ちのような格好で骨抜きにしてしまった。その結果がどうなったかは、歴史を辿ればすぐに分かる。誰にでも分かるのだよ、麻生副総理閣下…。
その「手口を学んだらどうか」と言うのだから凄まじい。

ナチス政権下のドイツで「クリスタル・ナハト」という事件があった。クリスタル・ナハト。ドイツ語で「水晶の夜」という美しい言葉だ。だがその言葉が表すのは、美しさにはほど遠い。ドイツにおけるユダヤ人迫害から大虐殺へいたる導火線となった事件だった。
ポーランド系ユダヤ人青年が起こした暗殺事件をきっかけに、1938年11月9日、ドイツ各地で狂信的差別主義者たちが主導した群衆が、ユダヤ人商店街などを襲い、ショーウィンドーを叩き壊して回った。粉々に砕け散ったガラスの破片は、まるで水晶のようにきらめきながら、ドイツの夜を飾った…。
そこからこの「水晶の夜=クリスタル・ナハト」という名称が生まれたとされる。ナチスドイツの差別主義の表れだった。
同じことが、日本では起きないだろうか?

いま、日本でも東京・新大久保や大阪・鶴橋などで、聞く(見る)に堪えないスローガンを叫び、プラカードを押し立てて韓国人たちを差別して回る集団がいる。いまは少数だとはいえ、こんな麻生的・安倍的な言動に煽られていれば、やがて妙な錯覚から参加し始める人間が増えないとも限らない。
そうなると、日本版「水晶の夜」が起きないと、誰が確信を持っていえるだろう?

安倍・麻生ラインは、もはや「改憲」を政策の軌道に乗せ始めたといっていいだろう。
この国に「クリスタル・ナハト」を現出させないためにも、彼らが目論む姿での「憲法改悪」(「改正」では、絶対にない!)を、どうあっても許してはならない。

 

  

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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