時々お散歩日記

 このコラムのタイトルは「時々お散歩日記」である。始めたのは、2010年だった。気楽に、散歩でもしながら心に浮かんだことをとりとめもなく書いていく。誰かに読んでもらうというよりは、自分の楽しみのため…という感じの始まりだった。
 「マガジン9」の中のコラムだから、憲法問題や時事的な出来事を素材にすることが多かったけれど、それも味付けという程度というつもりだった。それが2011年3月11日以来、すっかり「原発コラム」の様相になってしまった。
 だから、先週の秀野さんからのようなご批判をいただくことになる。けれど、「原発事故」は、日本という国が、これから先も国として存続できるかどうかの、具体的物理的な問題である、というのが僕の認識だったから、どうしても「原発コラム」にならざるを得なかったのです、と言い訳しておこう。

 ところが、このところの安倍政権の凄まじいばかりの右ハンドル急展開に、このコラムも原発だけではおさまらなくなってきた。
 高濃度汚染水の漏洩による国土や海洋の汚染が深刻化し、原発事故問題を最重要課題として、再びマスメディアも取り上げざるを得なくなったけれど、同時に、安倍の極右路線があまりに露骨になってきて、そちらも無視するわけにはいかなくなったのだ。
 ざっと考えただけでも、こんなに危ないことだらけだ。

  • 秘密裡に進むTPP交渉の危うい内容
  • 私的懇談会を利用した集団的自衛権行使の容認
  • 集団自衛権行使による「地球の裏側」への自衛隊派遣も視野に
  • 解釈変更による国民や国会の承認なしの「なし崩し改憲」
  • 特定秘密保護法という名の治安維持法復活
  • 消費税増税と法人税減税
  • 社会保障制度(特に高齢者医療制度)の改悪
  • 教育現場への政治介入
  • オスプレイの再導入
  • 沖縄普天間飛行場の辺野古移設と高江地区の強引なヘリパッド建設
  • 原発再稼働への地ならし
  • 「福島は東京から250キロ離れているから大丈夫」という究極の福島差別の東京オリンピック招致
  • オリンピック招致活動での皇室の政治利用
  • 労働特区を作り残業代ゼロや解雇自由という労働者搾取の労働政策

 これほど一気にキナ臭い政策をあらわにした政権は、日本の近代史の中でも稀有だろう。
 もはや、安倍のやりたい放題は、僕の我慢の限度を超えた。どれがいちばん大きな問題か、なんて考えるのもバカらしいほど、安倍は多くの危うい課題を一気に押し出してきた。自分の支持率が高いうちに、やりたいことはみんなやっちゃおう、というわけか。
 デタラメも目にあまる。
 ことに凄まじいのは、東京オリンピック招致のIOC総会でぶち上げたデタラメ演説の数々だ。いわく…。

「原発事故の状況はコントロールされており、東京にはダメージを与えない」

「汚染水の影響は、原発港湾内0.3平方キロ内に完全にブロックされている」

「健康問題は、今までも現在も将来も、まったく問題はないと約束する」

「日本の食品や水の安全基準は世界で最も厳しく、被曝量は日本国内のどの地域でも基準の100分の1以下」

「抜本的解決へ向けたプログラムを、私が責任をもって決定し、すでに着手している」

 ここまでおおっぴらに、それも国際的な公の場でウソをついた首相というのは、歴史的にも珍しいのではないか。「新しい歴史教科書をつくる会」は、ぜひこれらの発言を「新しい歴史教科書」に掲載して後世に伝えてほしい。
 両手を左右に広げ、にこやかに(にやにや?)笑いながら「コントロールされている(under control)」と言い切って見せた安倍の顔を、僕は忘れない。それは、原発事故を隠蔽し、福島の人たちを切り捨て、さらには日本の(特に)子どもたちの健康被害を何の根拠もなく否定した、まさに最悪の政治家の顔だった。

 その健康被害は、いったいどれほどのものなのか、それも隠蔽され捻じ曲げられている可能性が大きい。
 『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(日野行介、岩波新書、760円+税)という本がある。この中で著者(毎日新聞記者)は、福島県民の健康調査について、検討委員会の座長を務めた山下俊一福島県立医大副学長らがどういう動きをしたかを克明に追いかける。
 その結果、検討委員会そのものの非公開性、隠蔽体質、資料改竄などが次々と明らかにされる。
 この本を読むだけでも、公的機関の調査というものへの大きな疑問が湧くし、検討もせずに「健康については、まったく問題がない」などと発言する安倍のデタラメさがよく分かるのだ。
 しかも、そんな隠蔽や秘密主義に拍車をかけるのが、安倍が躍起となって成立させようとしている「特定秘密保護法」だ。毎日新聞(9月23日付)が、その法案の闇の部分を暴いている。

 安全保障に関する情報漏えい防止を目的にする「特定秘密保護法案」で、保存期間が過ぎた秘密文書がそのまま廃棄される恐れがあることが分かった。同法案を所管する内閣官房は、保存期間満了後の文書の取扱規定を盛り込まない方針で、「秘密にしたまま」担当省庁の判断で廃棄される可能性がある。(略)

 つまり、一旦、官僚や時の政府によって「特定秘密」と指定された事項は、永遠に明らかにされず闇に葬られる可能性があるということだ。国民の知る権利なんか、まったく無視。権力者に都合の悪いことは、なかったことにされてしまう。
 原発問題などは、この「特定秘密」指定に真っ先に狙われるだろうし、TPP交渉で何が行われたかも、肝心な部分は明らかにされないかもしれない。国防軍や憲法改定論議などに必要な外交資料なども、「安全保障に関する情報漏洩防止」の名目で永遠に隠されたまま。
 封建君主の「民はよらしむべし、知らしむるべからず」と同じだ。国民は、支配する対象であって物事を知らせる必要などない。それが安倍の言い続けてきた「戦後レジームからの脱却」なのだ。

 こんな安倍のやり方に、僕は我慢ならない。だからこのところ、連続して抗議集会やデモに参加している。小さくても、声を挙げていかなければ、安倍の思うがままの世の中にされてしまう。
 9月に入って、13日の「金曜日官邸前デモ」、14日「さようなら原発1000万人アクション・亀戸大集会」、20日「金曜日官邸前」、22日「差別反対・東京大行進」、23日「原発イヤだ!府中・打ち水デモ」…。
 さすがに、もう若くない身には少々きついけれど、14日の亀戸では、僕より年上の大江健三郎さんや鎌田慧さんも酷暑の中、2時間ものデモコースを歩き通しておられた。多くの人たちの危機感が伝わる。
 22日の反差別デモは、若い人たちがすごく多かった。これには勇気づけられた。最悪の汚い言葉を撒き散らす連中へ「仲良くしようぜ」と呼びかける若い人たち。このデモには、新宿の沿道から拍手や賛成の声が挙がっていた。
 僕も参加し続けよう。
 こんなにデモばかり。でも、これぞまさにデモクラシー。「デモ暮らし」という駄洒落が浮かんだ…。

 

  

※コメントは承認制です。
152 デモ暮らし…?」 に2件のコメント

  1. このまま行けますでしょうか?っていうのは隣の韓国、この間の大統領選挙の少し前から労働運動だのデモだの盛んになってたの、今じわじわガツーンと弾圧が始まってるじゃないですか。日本も同じ流れになる可能性ありますよ。

  2. より:

    少なくとも東京の放射線値が危険な水準では無いというのは本当でしょう。
    東京でオリンピックをするのに何の不具合があるのですか?
    本当に福島の被災者のためを思うなら国際的に約束したのだからちゃんと処理するように働きかけるのが筋じゃないですか?
    集団的自衛権に関してはアジア地域が中国が原因で極めてきな臭くなってきている現状やむをえないでしょう。
    そもそも憲法9条をそのまま読めば個別自衛権すら持てず、自衛隊は立派な憲法違反です。
    しかし、憲法違反の自衛隊が無ければ国を守れません。「憲法を守って国滅ぶ」なんてことはごめんです。
    文句なら中国に言ってください。
    特定秘密保護法案についても今の日本はスパイ天国で機密情報が駄々漏れなのですからそれを止める手段が必要でしょう。そもそも普通に暮らしていては関係ない法案なのです。
    反差別デモについては一言「差別と区別を一緒くたにするな」です。
    在日朝鮮、韓国人が特権をむさぼり、反対するものは暴力にて排除してきた事に対する日本人の怒りが爆発したのです。
    合法的に届け出た在特会側のデモを許可無く暴力的に妨害しているのは反差別といっている側なのです。
    そのことをお忘れ無き様に。

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すずき こう

すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)など。マガジン9では「お散歩日記」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。

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