- 特別企画 -

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武田信大(たけだ・のぶひろ)  1987年福島県生まれ。大学中退後の2010年にピースボートの地球一周クルーズに乗船。震災後に宮城県石巻市でのボランティア活動に参加し、11月から「脱原発世界会議」実行委員会スタッフ。

 2012年1月、パシフィコ横浜で2日間にわたって開催が予定されている「脱原発世界会議2012YOKOHAMA」。トークセッションやパネルディスカッション、映画上映や音楽ライブ、そして各地で活動する市民グループなどによる「もちこみ企画」と、さまざまな形で「脱原発」を考え、語ろうという国際会議だ。広い会場のあちこちでさまざまな企画が同時並行に実施され、来場者は興味のあるテーマを選んで自由にそれに参加できる、というスタイルは、「会議」というよりも巨大イベント、といったほうがイメージしやすいかもしれない(現時点でのプログラム概要はこちら)。
 1万人が集うともいわれるこの「世界会議」は、何を目指し、どんな未来像を描き出そうとしているのか。スタッフの1人、武田信大さんにお話を伺った。

◆福島の現状を伝え、見つめ直す場に

 「国内外から集まった人たちに、福島の現状を知ってもらう機会をつくりたい。同時に、福島の人たち自身にとっても、自分たちの置かれている状況を客観的に見つめる場になれば、と思っています」――「脱原発世界会議」開催の目的の一つをそう説明する、実行委員会スタッフの1人・武田信大さん。本番まで1カ月を切り、準備に走り回る多忙な日々を送っている。

 武田さん自身も、出身は福島県の郡山市。福島第一原発から約50キロという場所だが、自分の住む場所が「原発立地」だという意識はほとんど持たずに育った。震災と原発事故が起こった3月11日は実家にいたが、立て続けに襲ってくる余震のほうに気を取られ、地元ニュース番組で流れてくる「家の外にはなるべく出ないように」というアナウンスにも、なかなか現実感を抱けなかったという。「それによって自分たちにどんな影響があるのか、という知識がなかったことも大きかったと思います」。

 3月後半からは、前年に参加したピースボートの知人の誘いを受け、大きな津波被害を出した宮城県石巻市での救援活動に参加。4月からは上京して、ピースボートの災害ボランティアセンターで、被災地へ大勢のボランティアを送り出す側に回って活動を続けた。

 もちろんその間も、家族や友人が暮らす福島のことは、ずっと頭の中にあった。ニュースで流れてくる「避難勧告」「屋内退避」といった耳慣れない言葉、一度実家に戻ったとき、幼い子どもを抱えて放射能への不安を口にしていた姉のこと…。支援の可能性を探るため、他のスタッフとともに福島県の南相馬市を訪れたときも、避難するべきか留まるべきか、ぎりぎりの状況で悩んで追いつめられている人たちの声を、いくつも耳にした。

 「そんな中で、原発に対してあまりに無関心だったこれまでの自分に本気で腹が立ったし、社会全体の無関心さにも驚かされて。これは福島だけの問題じゃない、みんなの問題のはずだ、と改めて思うようになりました」。世界会議の企画が本格化した11月から、スタッフの一員として準備や告知に奔走している。

◆報道されない「一人ひとりの声」と向き合う

 会議のメインプログラムとなるトークセッションには、国内外から約100名のゲストが参加。「福島原発事故で何が起きたのか」「放射能から子どもを守る」といったセッションに加え、脱原発を決めたドイツの歩み、世界各地の原発・核政策の現状やエネルギーシフトの試み、チェルノブイリ事故や核実験によるヒバクシャの証言など、さまざまなテーマで世界中の人々の声を直接聞き、語り合う場が設定されている。行政の立場からの脱原発の道を探る「脱原発・首長会議」や、ゲストをまじえての少人数制ワークショップも企画中だ。

 さらに、武田さんたちスタッフが「とても重要な意味を持つ企画」と位置づけているのが「ふくしまの部屋」。福島に暮らし続けている人たち、県外での避難生活を選んだ人たち、県内外でその支援に携わる人たち…さまざまな立場の人たちが、まずは一堂に会して話をする場をつくろう、という企画だ。福島の親子を、保養を兼ねて大型バスで招待しよう、というプロジェクトも進行している。

 避難すべきかどうか、除染をどう考えるか、もっとも不安に思うことは何か。「福島」という共通項はあっても、それぞれに置かれた状況や考え方はさまざま。意見が対立してぶつかる場面も、おそらくはいくつもあるだろう。それでも「まずは話をする」ことに意味があるはずだ、と武田さんは言う。

 「今、福島とそれ以外の地域の間の『壁』みたいなものが、どんどん大きくなっている気がします。そうではなく必要なのは、なかなか報道されない福島の人たち1人ひとりの声とちゃんと向き合うこと。その上で主張の違いを超えて向かっていける道は、必ずあるはずだと思うんです」

 準備を進める中では、今も福島に暮らす人に協力を求め、「自分たちは命を守るだけで精一杯で、そんなことを考えてる場合じゃないんだ」と声を荒らげられたこともある。「放射能汚染が進行中の今、こうした企画は時期尚早なのでは」との問いかけも、何度も投げかけられてきた。

 「でも、福島がそういう状況だからこそ、これは外にいる僕たちがやらなきゃいけないこと。原発に対する関心も県外ではどんどん薄れているし、このタイミングでも『遅すぎる』くらいだと感じています。今回の事故では、たくさんの人たちが政府の言う『安全』を信じて被曝してしまったわけで、ちゃんと『知る』ことをしなければ、僕よりもまだ若い世代、そしてその子どもたちの世代にも、また同じ重荷を背負わせてしまうことになると思うんです」

 実行委員会に名前を連ねる団体のほか、トークセッションへの参加、もちこみ企画の実施など、会議の開催にかかわる団体は現在、国内外あわせて100以上。さまざまな思いや経験の出合いとぶつかり合いから、生まれてくる新しいアイデアやプロジェクトもあるだろう。会議の最後には、「脱原発」に向けた具体的な行動計画も作成・提言される予定だ。

 「たくさんの人の思いが一つの場所に集まる、そのエネルギーをどう活かすかは、参加してくれる皆さん次第。特に、これからの日本を、世界をつくっていく若い世代に参加して、いろんなことを考える機会にしてもらいたいと思っています」

 来年1月14日、15日。横浜から、「核のない未来」に向けた、新たな一歩が動き出す。

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