マガ9レビュー

2012年日本/舩橋淳監督

 福島第一原発の20キロ圏内にある福島県・双葉町は原発事故の後、被災市町村の中で唯一、役場機能を県外(埼玉県)に移す「町ぐるみ」移転をしたことで知られる。のちにその決断を下した井戸川克隆町長が、議会と対立の末に辞任を表明したことでも注目を集めた。
 東日本大震災と原発事故から約1年半後に公開された『フタバから遠く離れて』は、その双葉町から埼玉へ避難してきた人たちの原発事故後の日々を、丹念に追ったドキュメンタリー映画だ。何十人もが一つの部屋に雑魚寝する、避難所での日常。その合間合間によぎる、原発事故の日の記憶。すぐ帰れると思っていた人も多かっただろう「我が家」への、防護服に身を包んでの一時帰宅…。

 その中でも、どうしても頭から離れないシーンがある。
 事故から数ヶ月が経った暑い夏の日、双葉町民たちは他の町からの避難者たちとともに、大型バスに乗って永田町へと向かう。政府(当時は民主党政権)に、そしてかつて原発政策を推し進めてきた自民党に、自分たちの置かれた状況を訴え、救済と補償を求めるために。
 到着した自民党本部前には、ずらりと並んだ自民党の国会議員たちの姿があった。「帰りたくてもね、帰れないんだ」「まだ毎日弁当の生活なんだよ」…口々に訴える町民らを、なぜか議員たちは「拍手」と「握手」で迎える。「頑張ってね」「必ずなんとかしますから」――そんな言葉とともに。
 その場では「頼みますよ」「なんとかしてよ」などと言いながら握手に応えていた町民たちは、けれど後で、カメラの前でこうつぶやくのである。
 「なんで握手なのかねえ…」
 「帰れるなんて思ってないよ。みんな、帰れないってわかってて(帰りたいと)言ってるんだよ」
 言葉を荒らげるでもない、怒りをあらわにするでもない、諦めにも見える表情。それを見ていたら、悲しさと、痛ましさと、申し訳なさと怒りと、情けなさと、いろんな感情がごちゃごちゃになって膨れ上がってきた。住み慣れた場所で、安心して暮らし続けたい。そんな当たり前の、ささやかな願いさえも奪い去って、それでもなお道を改めようとしない政治とは、社会とは何なんだろう――。

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 私がこの映画を見たのは、今からちょうど1年くらい前のこと。そのとき、上映後のトークショーで舩橋監督が言っていたことが強く記憶に残っている。
 「今も(避難所である)旧騎西高校には、169名の(双葉町民の)方が暮らしています。その人たちは、今でも3食出来合いのお弁当の生活です。彼らをそんな生活に追いやった責任の一端は、(東京で電気を使い続けてきた)私たちにあります」
 旧騎西高校の避難所は、そこからさらに半年以上経った2013年末、閉鎖された。でも、当たり前だけれどそれで何かが「終わった」わけではない。震災と原発事故以前から私たちの社会が抱え込んでいたひずみやゆがみ――双葉町の人たちを長い避難所暮らしに追いやった原因の一つ――は、一部の人たちを踏みつけにする形で、今も変わらず存在し続けている。3・11から3年。せめてその事実から、目をそらさずにいたいと思う。

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 「フタバから遠く離れて」は3月11日から23日まで、ネット上で無料公開中。また、双葉町民の「さらにその後」を追った第二部も制作中だそうで、資金集めのためのクラウドファウンディングが呼びかけられているので、こちらもぜひ。今、見るべき&作られるべき映画だと思います。

(西村リユ)

 

  

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