マガ9レビュー

2013年・WOWOW/ 監督・水谷俊之、鈴木浩介

 軍隊で行われるような警察署での点呼や登場人物たちがくゆらすタバコの煙など、昨年WOWOWで放映された高村薫の同名小説『レディ・ジョーカー』のドラマ化では、地上波のテレビが自主規制する表現をしっかり押さえている。これらがなくては、この作家の世界は映像として成り立たないだろう。

 業界最大手の日ノ出ビール社長を誘拐するというのが物語の発端だ。きっかけは同社の社員採用に関わる部落差別。実行犯は競馬仲間たち。出自は違うが、みな日常に困難や不満を抱えた男たちは、そのなかの1人である刑事が立てた計画に従って、城山社長を誘拐し、後に釈放。そして、ビールに異物を混入するという脅迫をもって、同社から20億円をせしめることに成功する。

 本筋はここからだ。事件は実行犯たちの意志を振りほどき、総会屋など日本経済に巣食う地下社会を巻き込んで、自ら複雑に動いていく。

 1997年に発表された原作(2010年に文庫の改訂版が出版された)では、犯人たちの抱える空漠とした闇のような感情が丹念に描かれていたが、このドラマは、当時は普及していなかった携帯電話やパソコンを重要なツールとして使いつつ、企業と警察という組織のもつ身内意識の陥穽に焦点を当てる。会社を守るため、警察の面子をつぶさないための行為が、企業社会を歪んだものにしていく様が描かれる。

 そのため、主犯の刑事を除く実行犯たちの人物像がはっきりしないという不満を感じるかもしれない。とはいえ、あれだけの重厚な長編小説である。7時間強のドラマで、あれもこれもと欲張っては、かえって物語は平べったくなるだろう、と思って見ていたのだが、物語からも捨て置かれたような実行犯である薬局のじいさん、レディと呼ばれる障害者の少女、そして町工場の青年がラストで見せる、人生への諦観のようなものに身震いを覚えた。

 物語は何も問題を解決せずに終わる。爽快感はない。毎日、一話ずつ、昨日の話を引きずりながら見ることをお勧めする。

(芳地隆之)

 

  

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