マガ9レビュー

(伊勢崎賢治/朝日新書)

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 そもそも「集団的自衛権」とは何か。「集団的安全保障」とはどう違うのか。日本は、どんな法的根拠のもとでアフガニスタンやイラクに自衛隊を送ったのか。「集団的自衛権が行使できなければ、日米関係は崩壊する」というのは本当か。竹島や尖閣などの領土問題解決に、集団的自衛権は効力を発揮するのか――。
 集団的自衛権の問題、そして日本の安全保障や外交について語るときに、本来ならまず論じられるべきはずの(けれど実際にはほとんどまともに議論されないまま来てしまった)そうした問題を、世界各地で武装解除や紛争後処理に携わってきた伊勢崎賢治さんが、初歩から解説した1冊である。
 「紛争屋」(をなぜ名乗るのか、という前書きにあるくだりは必読!)としての経験に根ざした、丁寧な論説。そこから、これまでまことしやかに囁かれてきたことの多くが、薄っぺらい「嘘」に過ぎなかったことが明らかにされていく。自衛隊の海外派遣を後押しした「湾岸戦争のトラウマ」が単なる外務省の「勘違い」だったこと、「日本人も血を流さなければアメリカと対等な関係にはなれない」という安倍首相の主張の無意味さ…。安倍政権が「集団的自衛権の行使容認が必要な理由」として示した、いわゆる「15事例」についても、そのすべてが個別的自衛権などで対応できる「不要な理由」に過ぎないことが、一つひとつ詳細に検証されている。
 その上で、伊勢崎さんは日本が今後目指すべき道についても、明確なあり方を提示する。それが国連軍事監視団への参加などの「武力を使わない集団的自衛権の行使」だ。これまで日本と自衛隊が(誤解のもとで、ではあっても)築いてきた「平和」「中立」のイメージという強みを最大限に活用できると同時に、〈真の積極的平和主義の先駆けとなるための、極めて現実的な方法〉だという主張には、単なる理想論には終わらない希望を感じさせられた。

 一方で「自衛隊は人を殺しに行くのか」と題された最終章には、「自衛隊(軍隊)を海外に派遣すること」の重みを理解しないまま、その場しのぎの政策を続けてきた日本政府、そしてそれを容認してきた日本社会への、強い苛立ちと怒りも滲む。
 イラクでの大義なき、そして多くの人たちの命を奪った戦争に加担したことに対して、わずかの反省もなく「国益を守るためには正しい行為だった」と言い募る「有識者」たち。それどころか、今回の集団的自衛権の行使容認もまた、まったく同じロジックのもとで進められてきている――。

 〈私は、日本のこんな行いが、日本人として本当に恥ずかしい。(中略)こんな行いをすることが、美しい日本のあり方だとは、決して思わない〉(本文より)

 「9条は日本人にはもったいない」などの、辛口(とも思える)発言を続けてきた伊勢崎さんの、これは紛れもない「愛国の書」なのだと思った。

(西村リユ)

 

  

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