マガ9レビュー

(髙橋英與著/彩流社)

 日本はいずれこわれる、というのが著者の持論だ。少子高齢化の進行、経済成長の鈍化、膨らむ国の借金などでこの国が立ち行かなくなるのは明らか。ゆえに、こわれる日本をソフトランディングさせるために、自分は高齢者向け住宅を運営しているのだという。

 どうして高齢者向け住宅なのか。

 本書はその理由を、一人の経営者の生い立ちから現在までの歩みを描くことで説く。いわゆる功成り名を遂げたビジネスマンの物語ではない。むしろ逆だ。語られるのは、東北の寒村で両親不在のなか、様々な大人たちに育てられたこと、高齢者の住宅の運営や会社の経営において様々な困難に直面したことなど、挫折や失敗の連続なのである。

 にもかかわらず、著者が楽観的なのは、その過程で多くを学んだからだ。高齢者、女性、子ども、障がい者など、いわゆる「社会的弱者」と思っていた存在が、実は地域づくりにおいて強い味方になること、ひいては弱さと強さは表裏一体なのだということに気づいたとき、著者はこわれていく日本で生き抜いていけることを確信するのである。

 民間研究機関「日本創成会議」は昨年、このまま各地方で人口減少が進めば、全国の半数近い市町村が消滅する可能性があるとのリポートを発表し、多くの自治体に衝撃を与えた。日本政府も、人口の一極集中を是正すべく、石破茂氏を地方創生担当大臣に任命(先般の内閣改造でも留任した)。内閣官房には地方活性化対策の司令塔「まち・ひと・しごと創生本部」を設置し、「生涯活躍のまち」というスローガンが掲げられている。「一億総活躍大臣」なる役職も生まれたが、言うは易し、である。著者は日頃から、政府主導の有識者会議の提言などについて、具体的な事業化にまでつながらなければ意味がないと苦言を呈している。

 「一億総活躍など、余計なお世話」という向きもあるだろうが、多世代かつ様々な立場の人が地域で何らかの役割を担いながら暮らしていくことと捉え、地域の人々が自ら作り上げていけばいいのである。

 本書には「地方創生」や「生涯活躍」といった言葉は一切登場しない。しかし、ずっと以前から、現在の日本が抱えている問題の解決に取り組んでいたことがわかる。

 時代の先取りとはこういうことをいうのだろう。

(助田好人)

 

  

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