マガ9レビュー

木暮太一著/星海社新書

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 昨年刊行された本書はベストセラーとなっているので、いまさらこのコーナーで紹介するまでもないかなと思っていたのだが、湯浅誠さんの『ヒーローを待っていても世界は変わらない』を再読していた際、民主主義という面倒なことを考え、実践するには、そのための時間と空間が必要との指摘と、本書で語られている内容が私の中でクロスした。

 多くの勤労者が、いくら頑張って働いても余裕がない、常に急かされているような毎日を送っている、と感じているのはどうしてか? 本書はその原因を明らかにし、解決のための道筋を示そうとする。

 手掛かりとなるテキストはカール・マルクスの『資本論』とロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』だ。著者は前者から、住まい、食事、衣服など「明日も同じ仕事をするために必要とするもの」の経費として労働の対価が支払われる資本主義の構造を学び、後者から、自分のキャリアを積み上げることでしんどくない働き方をするためのヒントを引き出す。

 後者は本来「お金に働いてもらう」不労所得を増やすことをお父さんに勧めているのだが、本書は資産運用とは無縁の若者に対し、「自分の労働力を投資できる」=「将来の土台をつくれるような」仕事をせよと説く。

 そのためのアドバイスのなかでも「変化の遅い業界・職種をあえて選ぶ」は傾聴に値すると思う。たとえば、IT企業におけるシステムエンジニアの仕事で身につけた技術は数年で古くなってしまうことが多い。一方、建設、繊維、鉄鋼、そして農林水産の業界では、変化よりも経験が重視される分、そこで得たスキルは10年後も生かしていける可能性が高い。

 そうしてこつこつと土台を積み上げていけば、私たちは、常に同じ立ち位置から精一杯ジャンプして成果を上げようとするしんどさから解放されるだろう。昨今、第一産業に就きたいという若者が増えているのは、彼、彼女たちが、従来の「ラットレース」のような働き方に強い違和感を抱いているからに違いない。

 働き方が変われば、世の中は変わる。そのためのテキストとしても読んでほしい。

(芳地隆之)

 

  

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