マガ9レビュー

みわよしこ/日本評論社

 「うちの近所には、生活保護を受けてるくせに昼間っからパチンコに出入りしているやつがいる」

 「働けるくせに生活保護を受けて、呑気に暮らしている人を見ていると、真面目に働いているこっちがバカみたいな気がしてくる」

 生活保護に関する話の中で(専門的な場ではなくて、世間話の一部として)、こういう感じの発言を、けっこうな頻度で耳にする、もしくは(インターネットなどで)目にする。もちろん、その多くはもっと柔らかな言い回しだし、たいていは「本当に困っている人は助けなきゃいけないと思うけど」といった言葉が前についていたりするのだけれど、話の到達点はいずれにしても同じ。「ズルするやつがいるんだから、少々締め付けを厳しくするのはしょうがない」だ。
 気持ちとしてはわからなくはないのだけれど、そういう声を聞くたびにいつも不思議になることがある。みんな、そんなに「生活保護受給者」と直接会って、それぞれの生活や事情を知る機会があったんだろうか? ということ。ちなみに、私は「受給してます」という人と、取材や集会などを除き個人的に会ったことは、これまでたぶん一度もない。受給していてもそれをあまり知られないようにしている人も多いだろうことを考えると、そんなに不思議なことでもないと思うのだけれど。

 だから、「ダイヤモンドオンライン」の連載コラムをまとめる形で今年7月に出版された本書『生活保護リアル』は、とても興味深い1冊だった。
 激務の末にうつ病になり、仕事を離れざるを得なかった元デザイナー。妻の浮気相手を傷つけて服役し、仕事も家族も失って行き場をなくしたまま年を重ねてきた男性。怪我の影響もあって、ずっと不安定就労でなんとか生計を立ててきた人…。さまざまな生活保護利用者へのインタビューから見えてくる「事情」や「思い」は実に多様で、ひとくくりになんてとても語れない。とんでもない悪人でもないけれど聖人君子でもない、当たり前の「人間」たちがそこにいる。
 それぞれの言葉や言動には、正直なところ共感できる部分もあるしそうでない部分もある。甘いと感じる人もいるかもしれないし、連載時もそういった声はツイッターなどで寄せられていたようだけれど、何を大変だと思い、つらいと感じるかは、人によってぜんぜん異なる。仮に少々の「甘さ」があったとしても、それがそこまで(例えば生活保護受給を責められるといった形で)非難されるべきことだろうか、とも思うのだ。
 ましてや、外から見ているだけでは、その人がどんな事情を抱え、どんな気持ちで毎日を暮らしているのかは、絶対にわからない。「働けるのに呑気にぶらぶらしている」その人が、本当に「働ける」のか、あるいは本当に「呑気に」過ごしているのかなんて、どうして簡単に判断できるだろう。そして、自分が同じような立場になったとき、果たして今考えているほど「立派に」行動できるだろうか。
 噂や印象ではない当事者の「事情」や「思い」を知り、想像すること。そして、「自分ごと」として引きつけて考えること。「バッシング」や当事者不在の議論の前に、まずはそこからはじめたい。そのための入門書として、格好の一冊だと思う。

(西村リユ)

 

  

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