立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

議論は大詰めに

 きのう(17日)の与党協議は、延期になるのではないかと信じ込んでいました。というのは、亡くなられた桂宮さまの本葬「斂葬(れんそう)の儀」が午前10時から行われる関係で、国会では午前中の委員会を一切予定しないことになっていたからです。まさかこんな日に、窮屈な日程設定をするはずがないと思っていた矢先、午前7時30分から、与党協議の第7回会合が開かれました。政府・自民党は相変わらずの“押し相撲”です。どんな窮屈な思いをしても、カレンダーをにらみながら、合意形成の可能性があろうとなかろうと、協議日程を強硬に押し込んできています。

 メディアは一斉に「議論は大詰めを迎えている」と報じています。実際、13日の前回会合で“高村私案”(自衛権行使のための新たな3要件)なるものが提示され、憲法解釈の変更等に係る閣議決定の“案文”がきのうの協議で配付されています(終了後、すべて回収)。もし、きのうの協議で、ウルトラC的に与党合意が整っていれば、この通常国会の会期中(実質、6月20日まで)に閣議決定が可能だったかもしれませんが、その見通しさえ徐々に怪しくなってきているのも事実です。きょう(18日)の段階で、閣議決定の期限を7月上旬まで延ばす案が出ているようですから、この、むりやりな閣議決定を止めさせるため、国民代表機関である国会においてあらゆる抑止手段が模索されるべきです。

閣議決定の重みとは

 国務大臣、公務員などに憲法尊重擁護義務が課されているとはいえ(憲法99条)、尊重擁護される憲法(解釈)の内容がバラバラになっては法治国家として具合が悪いので、政府全体で解釈を統一するべく、内閣法制局がその番人としての役割を担ってきました。事実、政府の憲法解釈は、憲法の条文・文言の論理から許される範囲内で、ずっと変更されることなく、今日に至っています。
 たとえば、憲法9条には、「国権の発動たる戦争」「武力による威嚇」「武力の行使」「国際紛争」「戦力」「交戦権」などの文言が出てきますが、政府がこれらの解釈について、変更したということは一度もありません(確かに、防衛・安全保障立法は拡大してきましたが、「解釈改憲を繰り返してきた」という言い回しには惑わされないようにして下さい)。憲法上は直接の規定がない「自衛権」の意義についても同様です。一度、自衛隊員が「文民」(憲法66条2項)に該当するかどうかという問題に関して、解釈をそのままに、自衛隊員は文民に該当するという従前のあてはめを、文民に該当しないというあてはめに変更した例が認められるだけです。

 政府による憲法解釈の変更の経験がない(真っ正面から、これにチャレンジしたことがない)ため、当然のことながら、政府内でこれを変更するということになった場合、内容の問題もさることながら、どういう手続に依ったらこれが可能なのかという点で共通理解がありませんでした。内閣法制局長官を入れ替えるだけではダメで、5月の会見のように内閣総理大臣が一方的な言明で行うことでもダメで、内閣としての決定(閣議決定)によらなければならないことが確認されたのは、ごく最近のことだと思います。
 ここで、問題となるのは、一度閣議決定された案件は、これを変更し、再変更したりすることは容易ではないということです。

 民主党の武正公一議員が2013年6月24日に政府に提出した「閣議決定の有効性に関する質問主意書」に、次のような問いがありました。

 閣議決定の法的効力・拘束力については政権が交代しても「原則としてその効力はその後の内閣にも及ぶというのが従前からの取扱いとなっております。」等、類似の答弁が政府からされているが、あらためて閣議決定の効力は政権交代して取り消すとか新たな閣議決定をすることによって変更するとかしない限り継承されていると考えてよいか。

 これに対して政府は、

 閣議決定の効力は、原則としてその後の内閣にも及ぶというのが従来からの取扱いとなっているが、憲法及び法律の範囲内において、新たな閣議決定により前の閣議決定に必要な変更等を行うことは可能である。

 と答弁しています。

 この質問主意書が提出された背景には、野田内閣が閣議で決めた「国債発行44兆円枠」を、安倍内閣も継続しているか(前内閣の方針に従っているか)、という問題がありました。憲法解釈の変更が直接、念頭に置かれているわけではなく、政権が代われば当然、マニフェストも変わるということで、憲法、法令に抵触しない限り、財政政策を変更してよいという結論が導かれます。安倍内閣もあえて、野田内閣の方針を取り消すための閣議決定は行っていません。

 もっとも、こうした事情を抜きに答弁書を読む限りでは、変更後の憲法解釈は「原則としてその後の内閣にも及ぶ」ということ、元の憲法解釈に戻す(法的には、新たな憲法解釈になる)ことも不可能ではないものの、やはり閣議決定に基づかなければならないことを押さえなければなりません。安倍首相が翻意することはありえないと思います。その上で、民主的に元の憲法解釈に戻すことを想像してみると、議院内閣制の下では衆議院の多数派を入れ替える“政権交代”によること以外に、これを実現する方法はないことに気づきます。

 2009年を基準に考えると、政権の再々交代が実現しない限り、安倍内閣が行う新・憲法解釈の閣議決定を否定することができません。政府の憲法解釈は、最高裁判所で否定されない限り、有効な解釈として通用します。この点、閣議決定された新・憲法解釈に基づいて、安全保障基本法案、自衛隊法改正案などが国会に提出され、両院の審議でいずれ扱うことになるのだから、そのときに政府解釈の論理的正当性、合理性を追及すればよいという考えもあります。しかし、法案審議では具体的事例へのあてはめが中心争点になり、与党も野党も関係なく後手に回ってしまいます。審議時間も限られます。政府立法(閣法)の提出を待っていては手遅れなのであり、国会において一定の抑止手段が必要になるのです。

内閣法の改正で、
憲法改正発議に準じた“ハードル”を置くべき

 戦後の憲政史では、自らのリーダーシップで憲法解釈を変更しようという首相が、偶然なのか必然なのかは分かりませんが、誰ひとりと登場しなかったことで、憲法解釈それ自体は安定を保ってきました。今回、安倍首相のような人物が登場したことで、政府の憲法解釈が大きく転換し、ひいては憲法秩序にダメージを与えることが現実となりつつあります。

 極めて高度な政治問題に関わるため、政治部門の中で何とかこの問題に決着を付けなければならないわけですが、他方で、何らかのテーマで憲法解釈の変更が否定できないことも考慮しつつ、「政府において憲法解釈を変更するためには、変更する案につき、事前に国会の承認の議決(両議院の総議員の3分の2以上の賛成)を要するとする」というルールを、国会が主導して打ち立てるという抑止手段が考えられます。
 具体的には、議員立法で「内閣法」(昭和22年1月16日法律第5号)を改正し、前記の趣旨を法律上明確にしてしまうことです(憲法解釈の変更に関する特例規定)。内閣は、「法律を誠実に執行する義務」を負っているため(憲法73条1号)、「国会承認を要するとは、政府の有権解釈を不当に制限しようとするもので、権力分立の観点からも問題が多い」と不満に思いながらも、国会が制定、改正した法に従わなければなりません。

 「両議院の総議員の3分の2以上の賛成」という、憲法改正の発議に相当するハードルを置くことは、憲法解釈の変更を試みようとする政府(内閣)に対して、かなり慎重な姿勢を要求することになります。
 この立法提案は、与党に期待していては望みが薄いので、野党にアクションをお願いするしかありません。
 問題は、会期末まで、あと3日しかないということです。立法提案としては、ほとんど無意味かもしれません。しかし、何も発言しないより、具体的な何かを発信したほうが、憲政史上初となる、政府解釈への歯止めを設ける、有意な議論につながっていくのではないかという期待もあります。
 危機感を共有する、できるだけ多くの方々に、本稿の趣旨と願いが届けば光栄です。

 

  

※コメントは承認制です。
第45回 集団的自衛権行使容認 
むりやりな閣議決定を止めさせる方法は?
」 に5件のコメント

  1. magazine9 より:

    〈一度閣議決定された案件は、これを変更し、再変更したりすることは容易ではない〉――政治の安定性を考えれば、それは当たり前のことともいえるでしょう。だからこそ、国民不在の(というか、国民を無視した)議論で、あまりにも無理矢理に進められようとしている今の動きを、なんとかして止めなくては、と思うのです。 

  2. これは通らないですよ。だれがどう見ても解釈だけで3分の2の賛成が必要となったら、まともな国会運営ができなくなるもの。それで国会が空転して毎年予算が先送りされるような事が常態化したら、借金かかえてる地方自治体は終わってしまうよ。

  3. 多賀恭一 より:

    本来、憲法解釈は国会が行うもの。
    法制局に憲法解釈を行わせるのは、国会の怠慢だ。
    つまり、
    集団的自衛権の解釈は選挙ごとに異なるのが民主主義だ。

  4. 松川のり子 より:

     私は85歳の老婆で政治のことはわかりませんが、戦争の悲惨さは身に染みております。これからの若者に戦争だけは体験させたくないと願っています。
     最近の政治は戦争をする国へと進んでいて不安です。今回の集団的自衛権行使容認を何としても否定して欲しいのです。最高裁判所に否定してもらうにはどんな手続きが必要なのでしょうか。どなたか否定してもらう方向へ動いてもらえないでしょうか。

  5. 松川のり子 より:

     私は85歳の老婆です。政治のことは分かりませんが戦争の悲惨さは身に染みております。これからの若者には戦争の無残さは絶対に味わわせたくないと願っています。今政治は戦争をする国へと向かっていると思います。今回の集団的自衛権行使容認は最高裁判所で否定されない限り取り消せないと読みましたが どなたか
    この手続きをしてくださる方はないでしょうか。何としても取り消してほしいのです。お願いいたします。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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