立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 今日(4月22日)は、党首討論が行われる予定でした。「予定でした」というのは、今月に入って、今日の実施をめざして与野党の幹部が協議を重ねていたのですが、総理がどうしても国外の会議に出席するというので結局都合がつかなくなり、来月以降に延期になってしまったのです。
 党首討論は、昨年6月11日を最後に、実施されていません。きょうまでの10カ月間、民主党、維新の党は、代表が替わりました。また、総選挙の結果、日本共産党が党首討論に参加する資格を回復しました。しかし、直接対決はいまだに実現していないのです。

“週に1回行う”という、当初の申合せ

 党首討論が正式に制度化されたのは、2000年1月のことです。当時、イギリス下院のPrime Minister’s Questions Timeをイメージしながら(皮肉を言えば、制度のつまみ食いですが)、与野党のトップが議会で直接対面し、丁々発止の討論を行うことが期待されていました。とかく、政権交代が可能な二大政党制を志向しながら、国会審議の活性化、政治主導の確立が言われた頃です。
 そして、今回のテーマにかかわりますが、与野党は当時、党首討論の実施頻度について、「国会の開会中は、週1回40分間、水曜日午後3時より行う」(週1回原則)との申合せをしていました。ただし、この申合せを杓子定規にあてはめるのではなく、「総理が、予算案やいわゆる重要法案の審査のために、衆参いずれかの委員会に出席する週には、党首討論は開催しないこととする」という別の申合せも抱き合わせていました。言い返せば、他の委員会に総理が出席しない週には、党首討論が行われなければならないことになります。総理は、週1回必ず国会に出てきて、野党の質疑に直接対峙するものだという、与野党の共通認識があったことがうかがえます。

与野党申合せは、なし崩しに

 導入当初、与野党は、上記の申合せを誠実に守っていました。小渕恵三総理(当時)は、脳梗塞で緊急入院する前の週まで、党首討論に応じていました。それが、森総理、小泉総理と続き、第一次安倍内閣の頃になると、開催ペースは完全に怪しくなってきています。ねじれ国会になり、国会そのものを正常に運営することが困難になってくると、週1回原則は完全に見失われてしまいました。最近5年間、党首討論の実施は、(2010年)2回、(2011年)4回、(2012年)3回、(2013年)2回、(2014年)1回、というペースにまで落ち込んでいます。
 最近では党首討論の代わりに、総理が出席する予算委員会(集中審議)を開催する運用のほうが定着してきています。理由はいくつか考えられますが、予算委員会のほうが、特定の曜日に縛られず、柔軟に日時を設定できること、朝9時から夕方5時まで開会する(途中1時間休憩)という具合に、時間が十分に確保できること、そして何よりも、すべての野党会派が質疑に立つことができること、が挙げられます。しかし、予算委員会の場なので、総理がすべての答弁を行うわけでなく、その他の大臣や、内閣法制局長官、さらに参考人として招致されたNHK会長なども答弁席に立たされます。国政に直接関係しないテーマが扱われたり、圧の弱い質疑が行われたりと、必ずしも、党首同士の充実した論戦にはなっていません。

「月1回原則」に変更されてしまった

 なし崩しになった週1回原則の申合せは、「月1回原則」に変更されてしまっています。2014年5月、与野党7党は「党首討論は、内閣総理大臣が国会に出席する週にあっても弾力的な運用を図り、毎月1回実施できるようにする。」との合意を交わしたのです。
 とすれば、昨年12月に総選挙が行われたことを差し引いても、今日までに、少なくとも5回は実施されていなければならないはずですが、わずか1回だけです。「弾力的な運用」どころか、「総理が忙しいから」、「他の委員会に出席するから」などの理由で、与党が断り続けてきたことは明白です。そもそもこの新しい合意が有効なものか、かなり疑わしい点があります。
 党首討論の実施ルールが曖昧になったことに加えて、総理の国会出席それ自体が怪しいものになっています。今週、安倍総理は国会に出席する予定がありません。先週は、16日(木)、電気事業法等改正案が審議入りした衆議院本会議に臨んだだけです。それも、官僚が予め用意した答弁用原稿を読み上げるだけで、拘束時間もわずか2時間でした。決められた原稿を読むだけですから、誰でも出来ます。総理が出席するとはいえ、緊張感ある、政治家同士の論戦にはほど遠い現状です。

“安倍隠し”を防ぐために

 連休が明けると、国会は後半戦に差しかかります。今後、総理をなるべく国会に出席させないようにする、いわゆる“安倍隠し”がますます横行するのではないか、危惧されるところです。
 新しい安全保障法制に関する法案の審議に備えて、与党はすでに、国会会期の大幅な延長を公言しています。8月上旬まで続くとも報じられています。この点、平日(月~金の毎日)、衆参の特別委員会で法案審議が行われることになったとしても、総理が出席するのは、最初と最後のタイミングだけになるでしょう。あとは、外務大臣、防衛大臣、そして各省の局長等に一切の答弁を任せることになり、(憲法解釈変更を伴う)安保法制の閣議決定の最終責任を追及する機会が失われてしまいます。
 そこで、党首討論の機会を確保することが重要になります。週1回原則に戻すことは困難であるものの、まずは月1回原則を遵守することから始め、5月、6月、7月と、定期的に実施する慣例を築くことが不可欠です。いったん実施日程を決めたら、同時に次回日程の目途も立てるなどして、運用上の中断が生じないようにする配慮が求められます。辺野古基地建設の件、原発再稼働の件、NHKとテレビ朝日の担当者を自民党本部に招致した件、TPP交渉の件、大阪都構想住民投票の件など、扱うべき課題、案件は山積しています。
 きょう、党首討論が行われることなく、先送りされていること自体、問題です。安倍隠しを許さない、議会の矜持が問われます。

 

  

※コメントは承認制です。
第66回 “党首討論は週1回”のルールは、どこへいった?」 に3件のコメント

  1. magazine9 より:

    党首討論って、週1回だったんですか…とつい思ってしまいました。それくらい存在が薄れています。日本の党首討論のモデルとなったイギリスの「クエスチョンタイム」では、党首だけでなく無名の議員も質問を行うことができ、政治家としてのアピールの場にもなっているのだとか。選挙のときでさえ政策アピールを聞く機会がほとんどない日本。総理自身がきちんと議論を戦わせるのは当然のことのように思えますが、実際は「安倍隠し」なんてことに!? イメージ作り、言葉遊びに終始せず、きちんと民主政治を行ってほしいものです。私たちも、それをしっかり求めていかないといけないのでしょう。

  2. とろ より:

    週1回ってルール自体が馬鹿げていたと思いますよ。
    党主=首相なわけですから,週に1度国会にいないといけないルールにしてしまうと,
    それだけ国外でれないわけでしょう。国の代表でもあるから,そっちの弊害の方が大きかったんじゃないかな~。

    野田さんの「解散しますよ!」みたいなのあるかもしれませんから,たまにはやって欲しいですけど。

  3. 井出浩一郎 より:

    党首討論をちゃんとやれ、という意見は、どこに対して行えばいいのでしょうか?

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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