立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

小林教授が思い描いていた、憲法審査会のイメージ

 4日に行われた衆議院憲法審査会の参考人招致で、小林節・慶大名誉教授ら3名の参考人が全員、安全保障二法案を「憲法違反」と断言しました。私は「6・4ショック」と呼んでいますが、この参考人発言をきっかけに、法案審査の潮目が変わったことは明らかです。与党幹部はその後、参考人の会派推薦を厳格に決するよう関係方面に徹底するとともに、憲法審査会の運営に対する口出しを強めようとするなど、つまらない動きをしているようですが、「6・4ショック」の影響はあまりにも大きく、「衆議院の特別委員会では、違憲法案の審査が進められている」という印象、評価は、もはや拭い去ることはできなくなったと思います。
 憲法審査会といえば、憲法改正原案を審査することだけがその役割であると誤解されてきました。この誤解をなかなか解くことができず、審査会を動かすことは即、憲法改正に向けた動きを加速するものだと、以前は随分と批判と警戒を受けたものです。しかし今回、安全保障二法案という具体的な対象に関し、合憲・違憲のどちらであるか、憲法適合性のコンセンサスを作り上げる可能性を秘めていることへの気付きが広まりました。「政治の中で、立憲主義の番人たる役割を果たせ」と、憲法審査会に期待する声もようやく生まれてきています。

 実は、これこそ、小林教授が元々思い描いていた憲法審査会の運営イメージであると、私は確信しています。
 2006年11月16日、国民投票法案の審査を行っていた衆議院の委員会で、参考人として招致された小林教授は、「大いに憲法審査会の権限を行使して、憲法を守る活動をなさればいい。(法律で)憲法審査会に権限を与えるという発想ではなくて、憲法審査会にはもともと(法令の憲法適合性を審査する)権限があるのです」と発言されています。この頃、小沢一郎民主党代表(当時)が、政権交代が実現した暁には、アフガニスタンでの国際治安支援部隊(ISAF)の参加を実現したいと言い始めていました。その後、具体的な立法にはつながりませんでしたが、当然、憲法9条1項が禁止する「武力の行使」に該当するのではないかと、解釈問題が避けられなくなります。小林教授はこうした動きをも踏まえ、憲法審査会こそ当然に、チェック機関としての役割を担えと示唆していたのです。
 「6・4ショック」を、一つの出来事として流してしまうのではなく、委員会で審査する法案が重大な憲法解釈問題を孕んでいる場合には、憲法審査会がまず、その憲法問題を集中的に議論するという慣行を、この際築いていくべきでしょう。本来は、昨年7月1日の閣議決定の後、野党が声を上げて、憲法審査会で早速扱うべきテーマだったはずです。憲法問題は本来、与野党双方が納得するまで続けられるべきものであり、憲法審査会こそ議論の場にふさわしいということに尽きると思います。

これから参議院に法案を送るのは、不文律に違反する

 いまの国会は、今月24日が会期末で、あと2週間を残すのみです。労働者派遣法改正案、安全保障法案など、重要法案の衆議院通過にめどが立たず、焦りが募る政府・与党と、これらの法案を時間切れに追い込もうとする野党との攻防は、来週半ば辺りからヒートアップしていくでしょう。良い悪いは別にして、憲法が会期制を採っている以上、活動期間の終わりをめぐって与野党が攻防を繰り広げるのは、ごく自然な行動原理として避けられない面があります。
 政府・与党は、どの法案を、いつ頃提出し、いつ頃成立をめざすかという具体的な立法計画を、国会が召集される前には確定させています。しかし、いまの国会では、西川(前)農水相、下村文科相の政治資金問題が明るみになり、国会のスケジューリングが早々に狂い始めました。国会はテレビの生番組などと違って、法案審査の進行を“巻く”ことができません(無理に巻くと、野党の抵抗が強まり、運営をかえって困難にさせます)。きょうも議事堂内の控室で、カレンダーとにらめっこをし、しかめ顔をする与党幹部の姿が浮かびます。
 
 さて、参議院には「20日間ルール」という、1980年代から確立している不文律があります。これは、重要な内容の法案は、衆議院から送られた日から原則として最低20日間は、参議院で審査を行うというルールです。当時、衆参両院で自民党が安定多数を占めていましたが、衆議院のカーボンコピーと言われないよう、参議院の運営の見直しが進められていました。
 最近では、国民健康保険法の改正案が4月28日、衆議院から参議院に送られ、連休を挟んだものの、この20日間ルールに基づいて審査が進行し、5月27日の参議院本会議で可決、成立しています。参議院では目下、電気事業法等の改正案が20日間ルールに従って審査中ですが、内容の重要度からすれば労働者派遣法改正案、安全保障二法案も当然、これに従わなければならないはずです。最低20日間を確保するためには、会期末となる24日(水)から逆算し、重要法案は5日(金)までに参議院に送られていなければなりません。
 しかし、実際はどうでしょうか。ご承知のとおり、労働者派遣法改正案、安全保障二法案はまだ、衆議院の委員会でそれぞれ審査が続いています。期限となる5日までに参議院に法案を送ることができていないので、必然的、常識的に「廃案」となる途しか残されていません。ラストオーダーの時刻を過ぎていれば、入店を断られるのは当たり前でしょう。もし、衆議院の側が20日間ルールを無視すれば、参議院を軽視しているということであり、参議院の側(与党)がこれを無視すれば、責任放棄に他なりません。

会期延長に大義は無い

 合法的に、20日間ルールを担保しようとすれば、いまの国会の会期延長を決定し、“延長戦”に持ち込むことしかありません。先ほど指摘したように、会期延長をめぐる動きは来週半ば辺りから激しくなってきますが、違憲法案の審査を続行することは国会延長の大義、目的になりえないのは明らかなので、ここは大人しく、冷静に、予定通り24日で閉じることが政治論としても妥当です。私は、通年国会制論者なので、国会は開きっぱなしで構わないと常日頃思っているわけですが、今回ほど「早く国会を閉じよ」と願ったことはありません。政府・与党にも虚しさが広がるだけなので、本当に止めたほうがいいと思います。
 衆議院の委員会で、十分な時間をかけて法案審査を行ったものの、どうしても質疑を終わらせることができない、法案の採決を行う機運が熟さないという判断に至れば、与野党の合意で“閉会中審査”とする可能性はあります。その次の国会以降、衆議院の委員会で審査を再スタートすることになり、それまで結論は持ち越しです。安全保障二法案に関して言えば、政府・与党に残された唯一の現実的選択肢となるでしょう。
 読売新聞が公表した最新の世論調査(*)では、安全保障二法案をこの国会で成立させることに、賛成30%、反対59%と、大きな隔たりが生じています。法案の内容には賛成でも、この国会で成立させることには反対という国民の声が多く反映されていることでしょう。会期末にかけて、連立与党の内部からも、一定の冷却期間を置こうとする健全な意見が出てくるのではないでしょうか。みなさんは、どうお考えになりますか?

(*)読売オンライン 2015年6月8日

 

  

※コメントは承認制です。
第70回 違憲法案の審査はもう無理。
6月24日に国会を閉じるべき
」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    6月3日に、国内の憲法研究者が「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法案」の廃案を求める「安保関連法案に反対し、そのすみやかな廃案を求める憲法研究者の声明」を発表しました。参加人数は増えていて、6月9日時点で、呼びかけ人38人、賛同人170人、合計208人となっています。そこには、「これが『戦争法案』と呼ばれていることには、十分な根拠がある」と書かれています。これは、もうどう言い逃れしても「違憲」ですよね。本当に当たり前のことが、やっと公の場で声になってきました。いまこそ憲法の力を正しく発揮して欲しいと強く願います。
    そして、なんだか影にかくれてしまっていますが、労働者派遣法改正案も大いに気がかりな問題です…。

  2. 松宮 光興 より:

    「違憲状態」の選挙で当選した議員達が、「違憲法案」を強行採決しようとしています。
    これでは日本は「違憲国家」になってしまいます。
    これほどのブラックユーモアはないでしょう。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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