立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 九州電力・川内原発1号機の再稼働に向けた動きが、最終段階に入っています。2013年、原子炉の規制基準(国の原子力規制委員会が定める規則)がリニューアルされ、新しい規制基準が適用される初めての事例です。7月27日(月)から30日(木)までの4日間、“重大事故”の発生を想定した訓練(施設内部)が行われた後、来月10日にも原子炉の制御棒を抜いて、運転を始めると伝えられています。
 しかし、新・規制基準が原発事故の防止だけでなく、事故後の対応としても網羅的で、原子炉に対する厳格な適用が担保されているのかといえば、甚だ疑問です。住民の生命と安全を守るために不可欠な条件整備が依然、課題として残ったままです。

“住民避難”という究極の防護が出来ていない

 原子力の重大・過酷事故が起きないようにすることはもちろん、起きてしまったことを想定して、周辺住民の万全な避難対策を講ずる場合が、事故対策として最も重要です。住民避難は、IAEA(国際原子力機関)が示す「深層防護」という考え方の第5層目、最後の砦(とりで)であり、ここまでの対策を万全に講ずることが原子力規制に関する国際標準とされています。
 福島第一原発事故の反省と教訓から、現在、原発から半径30キロメートル圏内に在る自治体が「地域防災計画」を定め、その中で原発事故時の避難誘導を具体化することになっています(計画の策定については、内閣府が担当しています)。住民避難の実効性が担保されていることを、原発再稼働の要件(原子力規制委員会による審査の対象)とするべきであるという議論が、この2年間、かなり有力に主張されてきたわけですが、現在まで採用されていません。
 川内原発に関しては、鹿児島県が、県のバス協会と半径30キロメートル圏内の同協会加盟事業者33社との間で、避難者輸送の協定を締結しました(ことし6月26日)。マイカーなどで自力避難ができない住民を対象に、バスを使って、安全な地域に避難をさせるというものです。しかし、原子力規制委員会は、今回の川内原発の審査に際し、住民避難計画の実効性審査を行っていないため、当然、前記の協定についても、果たして実現できる内容なのかどうかのチェックをスルーしてしまっているのです。福島第一原発事故の直後、運送事業者が30キロメートル圏内での放射線被害を恐れたあまり、屋内退避指示を受けた住民への救援物資が届かないといったことがありました。この時の教訓を、今回、どのように活かそうとしているのでしょうか。
 現在、全国15原発のうち、25基の再稼働が申請中です。しかし、今回のようなバス協会、バス事業者との間で避難者輸送の協定が締結された例は、皆無です。政府は、「協定の締結に向けて、精力的に取り組みを進めている」と言いますが、今回を除いて、見通しが立っていません。原子力規制委員会は公正取引委員会のような「三条委員会」として、行政組織としての独立性が強く要請されることが言い訳になり、住民避難の実効性審査から距離を置く原子力規制委員会の態度が、見過ごされてきています。住民避難という最後の砦を自治体に押し付け、自治の名の下に法的責任を回避したいのが国の本音です。「自力ですぐに逃げられない住民は、運が悪い」といわんばかりの再稼働審査は到底、容認できません。

“経理的基礎”のチェックも欠いている

 今回、原子炉等の“変更工事”に関する基準適合性審査の中で、その経理的基礎(事業者の資金調達能力)のチェックが行われています。言わば、原子炉本体の工事費用に関するものです。他方、新・規制基準は、故意による航空機の衝突やその他のテロリズムが原因となる原子力の重大・過酷事故が起こりうるという前提で、その対処を行うため、発電所内に「特定重大事故等対処施設」(特重施設)を設置することを求めていますが、3年後の2018年7月まで、設置の猶予期間を置いています。
 川内原発1号機の再稼働に関しては、特重施設の設置が申請されていないことから、その経理的基礎の審査が抜け落ちてしまっています。特重施設の建設、整備には、原子炉本体に準ずる費用がかかると言われながらも、再稼働に際してその経理的基礎の審査を行わないというのは、国は本気で、重大・過酷事故の想定をしていないとの疑問が強くなるばかりです。損害賠償の能力、廃炉を行う能力の一切について、事業者の経理的基礎を厳しくチェックすべきではないでしょうか。

国会サイドの甘い姿勢こそ、根本的な問題

 住民避難の実効性担保、重大・過酷事故に対応する経理的基礎について触れてきましたが、すでに3年前、国会事故調報告書が指摘していた問題です(2012年7月公表の報告書547-551頁)。報告書は、「国会による継続監視が必要な事項」として、「安全目標の策定」「過酷事故対策の先取的取り組み」「避難区域の設定」「自力避難困難者の避難支援の整備」「既設プラントに対する安全性向上のための検討」など、16項目を掲げていました。すべて、与野党の関係を超えた論点ばかりです。
 ところがこの3年間、国会は、原子力行政を推進する側の経済産業省(資源エネルギー庁)はもとより、規制する側の原子力規制委員会の動きに対しても、監視の目を厳しく光らせてきたとは言い難い状況です。原発問題に対して民主的統制が働かないという、福島第一原発事故以前と同じ政治状況を、繰り返してしまったのではないでしょうか。衆議院の原発事故調査特別委員会は2013年1月の設置以来、実質的な対政府質疑を17回しか行っていません。また、参議院の原子力問題特別委員会は、与党の都合でことし1月から東日本大震災復興特別委員会と合併させられてしまい、ますます実質的な質疑が難しい状況になっています。どの政党、議員も、参議院に舞台が移った安全保障関連二法案にエネルギーを集中させるのは当然ですが、原発再稼働問題に際し、国会事故調の指摘事項を国会自ら丁寧にフォローし、チェックすることさえ覚束ないようでは、福島第一原発事故の収束は程遠いと言わざるを得ません。残念なことに、この国には相変わらず、原発立憲主義も原発民主主義も不在です。

 7月26日(日)午前、調布飛行場近くで、離陸直後の小型飛行機が墜落し、炎上するという事故が発生しました。翌27日(月)、「飛行機を安全に飛ばして下さいとしか、言いようがありません」と、TV局のインタビューに答える飛行場利用客の言葉が印象的でした。
 確かに、一度の飛行機事故を以て、すべての運航を止めるという議論にはならないでしょう。しかし、原発に関しては、安全と安心の担保がなければ再稼働しないでくださいということを、いつでも、憲法を根拠に主張することができます。一人ひとりの切実な声を、国会がいかに汲み上げるかが課題です。国会の会期は9月末まで延長になりました。原発再稼働問題も、安全保障と同等、十分な時間をかけて議論が行われることを求めます。

 

  

※コメントは承認制です。
第74回 迫る、川内原発の再稼働
~国会事故調の指摘事項はどうなった?
」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    原子力防災の基本である深層防護(多重防護)とは、万が一の事態に備えて多重・多層の防護策を講じること。IAEAの考え方では、5層のレベルに分けられていますが、特重施設が先送りされたり、住民避難計画の実効性があいまいなままだったりと、そもそもの防護策に穴があっては、多層にしても意味がありません。いまなお日本各地に福島原発事故による多くの避難者がいて、ふるさとを失った人がいて、そして福島第一原発事故は汚染水の処理さえできずにいる状態です。ドイツは原発廃止を決めて、フランスでさえ原発依存度を下げることを決めました。被爆国でもあり、福島第一原発事故の当事国でもある私たちは、この4年間にいったい何を学んだのでしょうか。

  2. とろ より:

    ドイツは原発廃止決めたけど,まだ原発動かしているし,石炭で発電して大気を汚している。
    石炭のほうが安上がりらしいですけどね,大気は汚れるようですが。
    ホントに困ったら,他所から融通してもらえばいいし。
    フランスは原発依存度下げるだけで,原発は動かすわけでしょ。
    じゃあ日本も動かしてもいいよねって結論になると思うんですけど,その辺りはどうなんでしょうか。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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