立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

(請願権)
憲法16条 何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

(臨時会)
憲法53条 内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。

 第189回国会(通常国会:2015年1月26日~9月27日)が閉じて、1カ月が過ぎました。しかし、新閣僚の所信、TPP問題をはじめ、政府を追及しなければならない案件、課題は多々あり、与党議員も野党議員も羽を休めている暇はありません。加えて言えば、連日、内輪で喧嘩を繰り広げている場合ではないでしょう。

 先週21日、野党125名の衆議院議員、野党84名の参議院議員が、憲法53条に基づく「臨時国会召集の要求」を安倍内閣に対して行いました。
 議員による適法な要求があった場合でも、憲法53条には、具体的な召集期限が明記されていません。これは確かに、問題です。現にそうであるように、「いつの日か、召集を決定すればいい」という解釈を許すからです。しかし、すでに巷で指摘されているとおり、自民党憲法改正草案(同じ53条)は「要求があった日から20日以内に臨時国会が召集されなければならない」と規定しています。当然、この趣旨を尊重して、11月10日までに臨時国会を召集する運びになるのでしょう…。

国会に寄せられる数多の請願は、どう扱われているか?

 今回は、請願(憲法16条)についてです。第189回国会は、会期が長かったこともあり、多くの請願が寄せられました。
 それでも、請願を提出したことがある方はごく少数だと思います。実際には制度の概要はおろか、制度の存在すら、よく知られていません。冒頭に、憲法16条の条文を記しておきましたが、請願は誰でも行うことが出来ます。個人、法人の別も問われませんし、「○○の会」というような任意団体でも、未成年者でも可能です。国政に関する事項であれば、内容は何でもOKです。

 ただし、法律が定める手続上、請願には「国会議員の紹介」が必要とされています。したがって、請願文書を各議院の請願窓口に持参したり、各行政機関に郵送したりしても、それは正規の請願としては受け付けられません。請願の紹介議員になってくれるよう、国民は国会議員に「お願い」をしなければならない立場に置かれています。
 
 請願文書が窓口で受理されると、その内容を審査するに相応しい委員会に送られます。以下、衆議院の場合ですが、例えば「消費税率に関する請願」であれば財務金融委員会、「年金、社会保険に関する請願」であれば厚生労働委員会、「エネルギー問題の請願」であれば経済産業委員会、といった具合です。

 請願文書が受理された後、衆議院の各委員会で審査が行われます。審査の結果は、①採択する、②不採択とする、③保留とする、の3つしかありません。
 委員会で「採択」の議決を行うと(慣例上、与野党が全会一致で行います)、本会議でも同じ旨の議決を行って、その請願文書は内閣に送付されます。送付されてお終いかというと、そうではありません。内閣は、請願の内容をどのように処理しているか、半年に一回、国会に報告をしなければならないことになっているのです。

 時の政権与党は、この報告義務が政府の負担になることを嫌って、請願採択に原則反対の立場をとります。例えば民主党は、2009年の総選挙の結果、与党になったことを機に、野党時代の方針を180度転回し、「請願の紹介議員となることを禁ずる通知」を所属議員に発出したことがあります。しかし、国会議員は与野党関係なく当然に、“国民の権利の擁護者”であることをもっと自覚すべきでしょう。採択された請願を内閣が誠実に処理しているかどうかをチェックすることも、国会の重要な役割なのです。

 前置きが長くなりましたが、先の第189回国会の会期中、衆議院と参議院において、どれだけの請願が受理され、そのうちどれだけ採択されたか、委員会ごとに表でまとめましたので、ご覧ください。


 衆議院では4,543件の請願文書が受理され、その内、採択されたのは326件で、採択率は7.2%です。また、参議院では3,921件が受理され、277件が採択されています。採択率は7.1%です。約15件に1件の割合でしか、採択されていません。このような運用状況を、みなさんはどう思われるでしょうか。

ほとんどは「保留」扱いになる請願文書

 両議院の担当者が打ち合わせをして、取り扱いを調整しているのではないかと疑いたくなるほど、請願の採択率はともに7%にとどまっています。さすがに、憲法体制、法制度を破壊するような内容のものは採択されませんが、誰から見ても内容的に当たり障りのない内容のものしか採択されないという、全会一致ルールの慣例が裏目に出ているともいえます。

 請願文書の審査に関しては、もっと根本的な問題があります。請願文書は、会期を通じて、委員会で丁寧に一つひとつ審査されているわけではないという実態です。審査は、会期の“最終日”にまとめて行われているのです。夏休みの宿題を、8月31日に一気に片づけるという感覚です。

 もっとも各委員会の理事会においては、請願文書の取り扱いをどうすべきか、会期末が近づいてくると非公式な協議を始め、採択する請願と、採択しない請願を取り急ぎ仕分けしています。しかし、協議の過程はまったく不透明であり(委員会の理事に就いている与野党議員しか、その状況は分かりません)、結果が表に出てくるのはいつも、国会会期の最終日なのです。

 全会派の意見が一致せず、採択しない請願文書については、本来であれば、委員会で「不採択の議決」をすべきところ、「保留」という決定をしています。保留にしただけだから、ある程度の日数を置いて、再審査すればいいのではないかとの声が聞こえてきそうですが、如何せん、会期末に決定しているわけです。請願文書の取扱いの件は、次の国会会期に継続することなく、…非常に失礼な言い方ですが、ただの紙切れにされてしまうのです。

昭和44年の決定事項が守られていない

 「請願については、現在会期末に一括して審査しているようであるが、会期が長期にわたる場合には、各委員会における実情に応じ、会期半ばの適当な時期にもその審査を行い、また請願小委員会を設置する等の方法を考慮し、請願審査の慎重を期する必要があるものと認める」
 これは、昭和44年7月3日、当時の衆議院議院運営委員会理事会が決定し、各委員長に通知された文書です。会期末の一括方式による請願審査は、半世紀近く前から問題視されていたのです。この決定事項は、今まで一度も遵守されたことがありません。「会期半ばの適当な時期にもその審査を行(う)」というのは、至極もっともな提案だと思いますが、この程度の運用の見直しがなぜ実現してこなかったのか、思わず首をかしげてしまいます。

 臨時国会が召集されるのかどうかは不明ですが、通常国会を来年1月4日に召集する方針は、どうやら固まりつつあります。通常国会において早速、「安全保障関連二法案の廃止を求める請願」を提出しようと考えている方が多数いらっしゃると思います。請願文書の提出だけで終わることなく、最低限、委員会で審査を行うよう、紹介議員にその旨、しっかりと伝えてください。各議員事務所では、請願の手続きそれ自体が、「やっつけ仕事」になり下がっています。そろそろ、ずさんな扱いにストップをかけましょう。

 

  

※コメントは承認制です。
第80回 請願の採択率はたった7%! 国会のずさんな扱いは、いつまで続くのか」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    請願とは、国または地方公共団体に対して、希望、苦情、要請を申し出ることです。選挙以外で、私たちの声をつたえる手段でもあるわけです。しかし、会期末審査で7%強の採択率では、その声に真摯に耳を傾けているとは思えません。国会は国民の代表機関になり得ているのか、その視点から「慣例」を見直すよう求めていくことが必要です。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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