立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 最高裁は25日、昨年の衆議院議員総選挙(2014年12月14日)で生じていた一票の較差(最大2.13倍)について、“違憲状態”とする判決を下しました。選挙の無効を求める原告の訴えは、退けました。結論は、大方の予想通りでしたが、15名の裁判官のうち14名が審理に参加し、3名は反対意見を記しています。
 ところで、違憲状態という用語の意味が、いまだによく分からないという声を耳にします。放送番組、新聞紙面でも、痒いところに手が届かないような説明が多く、国民には、判決の微妙な意味合いが伝わっていません。

憲法が保障する、投票価値の平等

 衆議院の選挙制度は、選挙区と比例区が並んで運用されています。選挙区は、いわゆる小選挙区制度(各選挙区から、1名の議員が選出される)が採用されていて、北海道から沖縄県まで295あります。

 295すべての選挙区が、市区町村の境界線にこだわらず、人口だけに着目して均等に分けられていれば(295等分)、どの選挙区で選挙権を行使するかにかかわらず、投票用紙が持つ価値(1/選挙区人口)は、同じになります。しかし、法律が定めている選挙区割りは、人口に対して均等でなく、大なり小なり歪(いびつ)になっています。実際に、人口23万人で議員1名を選出する選挙区(宮城5区)と、49万人で議員1名を選出する選挙区(東京1区)があります。後者は前者と比較して、一票の価値が半分になるのです。

 有権者は総選挙のさい、全国どこでも、投票所で1枚の投票用紙を手にします。しかし、枚数は平等でも、選挙区割りが歪になっているために、投票用紙の価値に較差が生じています。選挙権の内容、実質は、不平等なのです。俗例ですが、メロン1個を4人で分けて食べる地域と、8人で分けて食べる地域とを比較してみてください。皿の上にメロン一切れが載っていることでは同じですが、一切れの量が違います。前者は、後者の倍の量を食べていることになります。
 
 選挙権の持つ価値(内容)が平等でなければならないこと(投票価値の平等)は、憲法14条1項が定める「法の下の平等」(すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により政治的、経済的又は社会的関係において差別されない)で保障されています。したがって、投票価値に不平等をもたらす法律を制定することはもちろん、投票価値が不平等なまま、選挙を執り行うことは、憲法14条1項に許されません。選挙結果は当然、無効になります(憲法98条1項)。

違憲状態ってなに?

 昨年の衆議院議員総選挙では、最も人口の少ない選挙区(宮城5区)を基準に、すべての選挙区で最大2.13倍の較差が生じ、投票価値の不平等が認められたことになります。つまり、すべての選挙結果に対し、単純に憲法14条1項違反を認定して、議員の当選を無効とすることが、最も筋が通ると考えられます。しかし、理屈を付けて、憲法違反にいろいろな段階を設けて、選挙を無効とすることを躊躇するのが、最高裁を頂点とする日本の裁判所の態度です。裁判所は、どのような判断プロセスを経るのか、(図1)をご覧ください。

 裁判所は、2つの前提を置いています。
 まず1つ目、投票価値の平等が、法の下の平等で保障されるということは、さきほど確認したとおりです。問題はありません。
 2つ目が問題で、投票価値の平等は、絶対的な要請ではないということです。憲法47条の規定(選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める)に従い、選挙区割りなどの制度は「法律」で定めることになります。つまり、立法機関である国会の裁量下にあり、しかもその裁量が大きい中で、投票価値の平等が図られていくことになるのです。裁判所は、「合理的な調和」という表現を使っています。その限りで、14条1項>47条という序列を封じ込め、投票価値の平等の要請は“相対化”されることになります。

 2つの前提を置いて、裁判所はまず、「投票価値の不平等」があるかどうかを認定します。裁判所はもっとも、較差○倍以上なら不平等が認められ「違憲」、○倍未満なら不平等とは言えず「合憲」というような、具体的な基準を示したことはありません。しかし、最近の判例でも明らかなように、およそ2倍を超えるか否かで判断しているようであり、これが合憲か違憲か、憲法適合性の分水嶺となります。

 そして、投票価値の不平等があると認定されても、「違憲無効」とは直ちに結論付けられません。選挙区割りを定めている法律を国会が改正しない限り、不平等は是正されません。国会のアクションが必要です。事は、選挙制度改革に関わるため、その改正作業には、与野党の幅広い合意形成を要し、どうしても時間がかかります。裁判所はとくに、この点を重く見ています。

 「違憲無効」と評価されるための第一のハードルとして、国会が、法改正の作業を行うために必要な、合理的な期間内に、然るべき立法措置を行わない(立法不作為といいます)などの事情が認められることが必要です。合理的な期間内に是正がなされなかったか否かを判断するにあたり、裁判所は、「国会による立法裁量権の行使が相当であったか否か」を問題にし、「単に期間の長短のみならず、是正のために採るべき措置の内容、そのために検討を要する事項、実際に必要となる手続や作業等の諸般の事情を総合考慮」するとしています。法改正に時間がかかったということだけでなく、その内容等も含めて考慮するのです。

 その上で、合理的な期間内に是正されなかったといえない場合、「違憲状態」と評価されるのです。違憲状態判決の場合でも、選挙結果は有効のままなので、違憲無効と区別して「違憲有効判決」と呼ばれることもあります。また、合理的な期間内に、是正されなかったといえる場合には、「違憲無効」と評価されるための第二のハードル、すなわち「違憲違法」の判決の検討へと進むわけです。

 ある意味、裁判所が国会の裁量を広く認めることは、国会に対して甘く、一定の温情を示していることにもなります。なお、違憲状態という用語は、憲法には存しません。裁判所の造語です。私は、(図1)のように、イエローカード判決と呼んでいます。違憲無効(レッドカード)判決、選挙を無効とはしないで、“違法”を宣言するに止める違憲違法(オレンジカード)判決という区分も考えてみたところですが、この点の解説は省略させていただきます。

3回連続の違憲状態判決

(図2)でご覧いただいたように、今回の最高裁・違憲状態判決は3回連続です。2011年3月23日の判決は、東日本大震災の直後でしたが、その後4年8カ月間、一票の較差を是正するための立法努力が、微弱ながらも積み重ねられ、較差が2倍を超える選挙区は、確かに減ってきました。事態が一応、改善傾向にあることは、原審である高等裁判所の判決結果の分布からも見てとれます。

 しかし、投票価値の不平等が現に存在していることは、変わりありません。人口は常に変動していることを念頭に置きながら、国会は終わりのないマラソンを続けなければならないのです。

今回の判決で、特筆すべきこと

 11・25最高裁・違憲状態判決は、こちらで公開されています。

 多数意見で、特筆すべき部分があるとすれば、

 国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり、投票価値の平等が憲法上の要請であること等に照らせば、より適切な民意の反映が可能となるよう、国会においては、今後も、前記のとおり衆議院に設置された検討機関(筆者註:衆議院選挙制度に関する調査会)において行われている投票価値の較差の更なる縮小を可能とする制度の見直しを内容とする具体的な改正案の検討と集約が早急に進められ新区画審設置法3条の趣旨(筆者註:選挙区割りは、最大較差が2以上にならないようにすることを基本とする)に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があるというべきである。

 と述べ、早期是正を国会に諭した部分でしょう。

 他方、反対意見として、大橋正春判事は違憲無効判決を、鬼丸かおる判事は違憲違法判決を、そして木内道祥判事は、較差が2倍を超える選挙区について違憲無効とし、2倍未満の選挙区について違憲違法とする判決をそれぞれ支持しています。大橋判事は、衆議院が機能不全となる混乱を回避するため、「本判決確定後6カ月経過の後に、選挙を無効とする」考えを示し、6カ月以内に法律を改正(投票価値の不平等を是正)し、総選挙をやり直し、違憲状態を解消すべきことを指摘しています。私も、6カ月以内に是正措置を求めることは、いくら国会がだらしないと言っても、不可能を押し付けるものでないと思います。最高裁内部ではこうした考えが少数ではあっても、国民に広く支持され、国会内で共通認識となることを願ってやみません。

次に予想される改革

 多数意見でも引用されていますが、衆議院選挙制度に関する調査会が2014年9月に発足し、現在まで14回の会合を重ねています。一票の較差を是正することは、調査会の最大テーマとなっているところ、都道府県人口を一定の数で割り、得られた数(商)の小数点以下を切り上げた数に基づいて、都道府県に議席を再配分する案(アダムズ方式)が有力となり、来年にも成案をまとめ、衆議院議長に対して答申がなされる見込みです。これは、青森や岩手など計9県の定数を1ずつ減らし、埼玉、千葉、静岡及び愛知の4県を1議席、神奈川を2議席、東京を3議席増やす「9増9減案」で、県単位の最大較差は1.6倍にまで縮減できます。

 次回の衆議院議員総選挙は、ひょっとするとそう遠くない時期に行われるかもしれませんが、現行制度ではなく、少なくともアダムズ方式を反映した新制度の下で実施されるべきです。来年の通常国会で必要な法整備を完了させるべきです。

少数政党の比例優遇も必要

 一票の較差の是正は当然のこととして、加えて、比例区選挙における少数政党の優遇措置(一部)を導入すべきと、私は考えます。一票の較差を是正しても、小選挙区における“死票”の問題は解決せず、民意の適切な反映という点で問題を残すからです。一例を挙げれば、衆議院の比例区選挙の定数は180となっていますが、このうち150は現行どおり、得票に応じた当選数とし、残りの30は、小選挙区で多く当選した大政党には不利になる得票計算を課して、少数政党に有利に働く制度を検討すべきです。

(表)は、政党A~Jが衆議院の選挙区選挙で獲得した議席、比例区選挙における得票をベースに、比例区の一部に、特別な計算過程を置いて、少数政党の優遇措置が働くようにしたものです。民主党が与党だった当時に、実際に検討された案です(中身の数値は、筆者が任意にあてはめました)。本来であれば、丁寧な説明が必要ですが、字数の関係もあり、こんな制度案もありうるということで、ご紹介だけさせていただきます。表を左から右へと眺めていただいて、イメージだけでも掴んでいただければ幸いです。

 違憲状態からの脱却は、何か秘策があるわけではありません。最高裁に法律を改正する権限はありません。与党も野党も関係なく、国会にムチ打つしかないのです。各党がどのようなアクションを起こすか、しっかりと見据えたいと思います。

 

  

※コメントは承認制です。
第82回 国会にムチ打って、“一票の較差”違憲状態からの早期脱却を」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    またしても、の「違憲状態判決」で、反対意見はあったものの選挙無効とまではいきませんでした。一票の較差が改善されてきているとはいえ、あまりにも長い時間がかかっているのではないでしょうか。
    そして、小選挙区の「死票」問題も、早急に解決が必要です。選挙は、私たちが民意を示すことができる大事な手段。いつまでも違憲状態を許していてはいけないのです。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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