立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

政局のニュースばかり

 来年6月19日以降に公示される国政選挙(衆議院議員総選挙、参議院議員通常選挙)から、18歳選挙権が実現します。若者の政治参加にかつてない期待が高まっている中、政府はすべての高校生に、『私たちが拓く 日本の未来』と題する副教材を配付し、民主政治の意義から始まり、衆議院と参議院の選挙制度の違い、投票用紙の書き方など、詳細な解説を施す一方、各党は、若者との双方向的な政策対話の場を設け、定期的にコミュニケーションを図るなど、試行錯誤が続けられています。

 来年は、かなりの確率で衆参同日の選挙が行われるとも予想されています。同日選挙になれば、各選挙区・比例区で、誰(政党)に投票するかは、それなりに大変な判断を要します。選挙が行われる7月まで、時間的猶予も十分ありません。そして、次期通常国会の召集まで、1カ月を切りました。若者による適切な選挙権行使を後押しする様々な取り組みが結実することを私は願っていますが、この2カ月間、毎日毎日、朝な夕な、誰(政党)と誰(政党)がもめているか、誰(政党)と誰(政党)がくっつくかという、政局(政治の枠組み、勢力の変化)に関するニュースばかりで、投票意欲がますます減衰するのではないかと、心配です。これから有権者になる17、18、19歳の若者がどれほどつまらない思いをしているか、想像に難くありません。「ニュースを見ろ、政治に関心を持て」と言う方が無理です。

 民主党と維新の党は7日、両党が「結集」することも視野に、「統一会派」を結成することで合意しました。「結集」とは「新党の結成」であると理解されていますが、議論の渦中にある政党は、妥協を急ぐあまり、新党と統一会派は何が違うのか、丁寧な説明を怠っています。

民主党と維新の党の確認事項 2015年12月7日
民主党と維新の党は下記事項について合意すべく、それぞれの党内手続きを進める。
1. 両党間で協議を重ねてきた基本的政策を共有すること。
2. 次期通常国会で統一会派を結成すること。
3. 政権交代可能な政治を実現するために、両党の結集も視野に、地方組織も含めさらに信頼関係を高めること。
4. 政策・理念を共有する幅広い野党勢力の協力・結集を目指し、各党、各会派等に呼び掛けること。

会派とは何か

 「会派」には、法律上、明確な定義はありません。政党とも、微妙に違います。定義を与えるとすれば、「衆議院、参議院それぞれで活動を共にする団体」と、一応考えられるでしょうか。衆議院、参議院ともに、政党という単位で活動しているわけではなく、会派が単位になっているという点が、少々ややこしいところです。
 
 Xという政党が存在するとします。政党Xに所属する衆議院議員が、衆議院で「X」という会派を結成することを届け出て、「衆議院会派X」が誕生します。政党Xの所属衆議院議員は、あくまで「衆議院会派X」に所属する議員として、衆議院の中で活動するイメージです。同じく、政党Xに所属する参議院議員が、参議院で「X」という会派を届け出て、「参議院会派X」が誕生します。政党Xの所属参議院議員は、「参議院会派X」の所属議員として扱われます。政党Xがそのまま衆議院、参議院の「会派X」になるのが基本です。衆議院、参議院どちらも先例によって、委員長・理事のポスト、質疑時間の割り振り等はすべて、会派に所属する議員数を基準に行われるので、会派はできるだけ規模が大きい方がいいということになります。

 注意しなければならないのが、政党Xに所属しない議員であっても(一般には、無所属の議員)、会派Xには所属することができる、という点です。具体的に名前を挙げれば、政権交代が起きる前、田中眞紀子衆議院議員は無所属でしたが、「民主党・無所属クラブ」という会派の一員として活動していました。民主党という政党の理念、政策には直接一致点が見出せなくても、院内で同じグループとして活動することには納得しているわけです。会派とは、集合体として政党よりも幅広く、「価値観が多少違っていても、一緒にやっていける議員の集まり」といっても過言ではありません。もちろん、国会の外に出たら、所属政党が違う「赤の他人」ということになります。

政党×政党の統一会派はうまくいくのか

 田中眞紀子さんは、議員個人の例ですが、政党と政党の関係でも、会派を一にすることは可能です。これが俗にいう、統一会派と呼ばれるものです。
 政党と政党の統一会派は可能であるとしても、実際、それがうまくいくかどうかは別問題です。この点、小政党どうしの統一会派であれば、所属議員数に応じた会派別割当て(人事案件、質疑時間など)を有利に動かす意味で、十分メリットが生まれると考えますが、中規模以上の政党になってくると、意見の対立、軋轢のほうが協調と融和を超えてしまい、それが目立つことで結局、分解してしまうというのが政党史の一つの教訓です。

 20年以上前、衆議院で中選挙区制が敷かれていた頃ですが、日本新党と新党さきがけが「さきがけ日本新党」という統一会派を結成していまいた。両党は新人がほとんどを占め、政治的スタンスも比較的似ていたことから、当初は会派の仲間内ではうまくやっていけたものが、その後、さらなる政界再編の荒波の中で、フェードアウトしてしまいました。小選挙区制が導入されてからは、政党=会派の構図がより強くなり、目立った統一会派というのは存在していません。他方、参議院は衆議院よりも小政党が多く存在し、統一会派も頻繁に結成されていますが、やはり寿命は短いものばかりです。維新の党が結党されるまで、「日本維新の会・結いの党」という統一会派がありましたが、その後の紆余曲折は、ここで論じる必要はないでしょう。
 
 有権者は選挙の際、候補者や政党に投票するのであって、会派に投票するわけではありません。有権者は議員色、政党色を見て、判断したいのです。統一会派というある種のクッションは、今や何の効果も見いだせなくなっていると思います。

新党結成はあるのか

 民主党と維新の党の両方を解党し、新党を結成する方向へと、事態は向かうのでしょうか。

 7日、両党の確認事項には、「両党の結集も視野に入れ」とあります。「結集」には、①新党の結成、②一方が他方を吸収、の二つの方向性が考えられます。
 
 この点、②の吸収合併には、法律上のハードルがあります。それは、衆参比例代表選出の議員は、議員辞職してからでないと、他の政党に加入することができないことになっているからです。現職のまま、他の政党に異動することは禁じられています。それがため、①の新党の結成を視野に、民主党も維新の党もいったん解党することが議論されているのです。
 
 今から13年前の話、小泉内閣が絶頂だった当時、保守党という与党がありましたが、民主党から離党する(保守系)議員を迎え入れるために、わざわざ保守党をいったん解党して、保守新党という政党を新たに結成したことがありました(このとき、民主党を離党して保守新党に入り、その後自由民主党に入ったものの、離党して現在は別の野党に所属している現職もいます)。当然のことながら、与党入りしたいために離党し、法の網目をかいくぐるように新党結成に参画した行為には、当時の世論は冷ややかでした。その後に行われた、2003年総選挙(史上初めてのマニフェスト選挙といわれました)では、保守新党の看板は完全に消滅しました。

 民主党と維新の党の協議は現在進行形で、まだ結論は早いですが、比例選出という特定の議員の身分・地位を救済する意図で新党を結成することは、国民の理解を得られないことは明らかでしょう。たとえ統一会派を結ぶということになっても、お互いに溜飲を下げることにはならないと思います。

 誰(政党)と誰(政党)がくっ付くかという話に、政治のエネルギーをどこまで使うべきでしょうか。そのさじ加減を考えていなければ、利口な政治家とはいえません。冒頭申し上げたように、多くの17、18、19歳が、来年の国政選挙に臨むため、少しでも政治の仕組みを知ろうと毎日、一生懸命過ごしています。若者の目を輝かせ、心を動かすような、政治の動きを作ってほしいと願うばかりです。

 

  

※コメントは承認制です。
第83回 民主×維新
新党と統一会派は、何が違うのか?
」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    策をめぐらせ、駆け引きをするさまを「政治的」と表現することがありますが、最近の動きには、大人も若者もうんざりしているのではないでしょうか。選挙で社会が変わるかもしれないという希望が感じられれば、「投票に行こう」なんてアイドルのポスターをあちこちに貼らなくても、投票率は上がるはず。どんな国を目指すのか、どんな社会をつくりたいのか――市民の声に耳を傾けて、国会で代弁してくれる、そんな本来の政治の姿を取り戻してほしいと思います。

←「マガジン9」トップページへ   このページのアタマへ↑

マガジン9

南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

最新10title : 立憲政治の道しるべ

Featuring Top 10/117 of 立憲政治の道しるべ

マガ9のコンテンツ

カテゴリー