立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

国民投票法の公布から9年、施行から6年

 きょう5月18日は、日本国憲法の改正手続を定める国民投票法が公布されてから9年、全面的に施行されてから6年に当たります。9年前は第一次安倍内閣で、6年前は鳩山内閣でした。政権は再交代となり、いまは第三次安倍内閣ですが、総理自らの任期中に憲法改正を実現したいという個人的な信条(願望)は、なお変わっていません。

 国会は6年前から、憲法改正の発議が可能な状態になっています。しかし、憲法改正の発議は一度も行われておらず、衆議院議員、参議院議員の手によって憲法改正案の原案が各議院に提出され、それが受理されたことさえありません。半ば意図的ともいえる国会の不作為は、一般の目にはとても分かりにくいものです。憲法審査会の議論が休止しているのは、与党が強力にブレーキをかけているからです。「憲法改正を必ず実現する」という精神論、運動論的なメッセージだけを強力に発し続け、騙し騙しやってきたというのが、この6年間の実像ではないでしょうか。

 ことしも、憲法記念日を中心に、憲法を改正するべきか否かという議論が盛んに行われましたが、私はとてつもない違和感に苛まれていました。国民投票の制度上、早期に解決しなければならない問題が置き去りにされている状況で、なぜ、憲法を改正するべきか否かという中身の議論に入ることができるのか、議論の順番が「逆」であることにじつに無自覚なメディアの論調に、大いに疑問を感じていたのです。その違和感、疑問は一体どこからやって来たのか、今回は、年齢の問題を取り上げることで、読者のみなさんに具体的にお伝えしたいと思います。

選挙は18歳、国民投票は20歳という不合理

 1カ月後、6月19日には、18歳選挙権法が施行されます。選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられることは、ほとんどの方がご存じでしょう。一方、国民投票に参加することができる年齢(国民投票権年齢)はご存知でしょうか。国民投票権年齢も、すでに18歳以上である、選挙権と同じタイミングで18歳以上になると、誤解をされていないでしょうか。

 否、国民投票権年齢は現在、20歳以上となっています。つまり6月19日以後、制度上は、選挙権年齢と国民投票権年齢との間に、「2歳の較差」が生じてしまいます。仮定の話として、7月10日、参院選挙と国民投票がダブルで行われるとしたら、18歳、19歳の者は選挙の一票はあっても、国民投票の一票は与えられないことになるのです。

 選挙も国民投票も、投票の対象こそ異なりますが、政治参加としては同じです。選挙権、国民投票権は、参政権として仲間の関係に立つので、権利年齢に差が生じてはなりません。しかし、1カ月後には、選挙権年齢は18歳以上、国民投票権年齢は20歳以上という不合理を、私たちは抱えてしまうことになります。実際、外国にも両年齢に差を設けている立法例はありません。日本は美しい国どころか、「珍しい国」になってしまいます。

2年前の合意の未履行

 問題の背景を、詳しく説明しましょう。
 2年前の2014年、国民投票法は一度、大きな改正が行われています。法改正の前までは、いったい何歳以上で国民投票に参加することができるのか(18歳以上か、20歳以上か)、法律上はっきりしない状態が続いていました。2014年の法改正はこの問題に決着を付けるべく、国民投票権年齢を、2018年6月20日までの4年間は、いったん20歳以上とし、翌21日からは18歳以上と、自動的に引き下げることを大原則としてまず、定めたのです。

 加えて、法改正のさい、与野党8党は、(ア)2年以内に公職選挙法を改正して18歳選挙権を実現することとし、(イ)18歳選挙権が実現した場合には、これに合わせて、国民投票権年齢も2018年6月20日から前倒しして、18歳以上とすることも合意していました。次のとおり、8党の確認書の中で、合意されています。

2014年4月3日

確 認 書

 自由民主党、公明党、民主党、日本維新の会、みんなの党、結いの党、生活の党及び新党改革は、日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案に関し、下記の項目で合意に至ったことを確認する。

1 選挙権年齢については、改正法施行後2年以内に18歳に引き下げることを目指し、各党間でプロジェクトチームを設置することとする。
また、改正法施行後4年を待たずに選挙権年齢が18歳に引き下げられた場合には、これと同時に、憲法改正国民投票の投票権年齢についても18歳に引き下げる措置を講ずることとする。

2~5 (略)

 私が今回、「国民投票の制度上、早期に解決しなければならない問題」と指摘するのは、(イ)の、2018年6月20日から前倒しして、18歳国民投票権を実現するという8党合意が、いまだに履行されていない点です。確認書の1で、私が下線を引いた部分です。

 18歳国民投票権を実現するためには、国民投票法をもう一度、改正しなければなりません。この点、8党は2年前、その立法措置を講ずべき義務を自らに課したことは間違いありません。しかし、国会の会期は、残りあと2週間を切っています。立法の期限は迫っているのです。こんな短期間で、国民投票法の再改正は本当に実現するのでしょうか。また、8党のうち4党は、現在存在していません。民主党、日本維新の会、みんなの党、結いの党はすでに、過去の政党です。「国民投票の制度上、早期に解決しなければならない問題」があるということさえ、国会では十分、認識されていないかもしれません。

リアリティのない、20歳国民投票権

 もっとも、2014年の法改正に基づき、2018年6月21日には、自動的に18歳国民投票権が実現します。この時点で、18歳選挙権とお揃いになります。「2歳の較差」問題は、あと2年ほど辛抱すれば自然に解消することは間違いありません。

 しかし、制度は現在、20歳国民投票権です。18歳、19歳の者は、法的に排除されています。現下、熱く繰り広げられている「憲法改正論議」に、果たしてどれくらいの有権者、国会議員がリアリティを感じているのでしょうか。20歳国民投票権であるうちに憲法改正の発議が可能であると、国会議員は本気で考えているのでしょうか。憲法改正の発議をしたとしても、有権者の失笑を買うだけです。それにもかかわらず、「参院選挙では、与党を中心に3分の2以上の勢力を確保する」、「初回のテーマは緊急事態条項だ」などと、メディアと国会議員との掛け合いの中で、深入りした話ばかりが出てくることが、私にはまったく理解できません。今回は年齢の問題を取り上げましたが、なぜ、国民投票の制度にもっと、目が向かないのでしょうか。

 国民投票は、立憲国家にとって、最大の国家的行事です。日本は未経験ですが、国民投票を実施するには公正、中立なルールが不可欠です。有権者が納得する形でのルールづくり、見直しが必要である点では、公布から9年、全面施行から6年が経ったといっても、制度はまだ、生成過程の最中にすぎません。このような状況では当面、憲法改正論議に立ち入らないのが、健全な発想、立ち位置だと思います。あえて言えば、立ち入るのは自由ですが、法的にも、政治的にも、まったく意味を為さないということです。来年5月18日、国民投票法の公布10年、施行7年を迎えても、私はまだ、憲法改正論議にリアリティを認めていないことでしょう。

 

  

※コメントは承認制です。
第94回 選挙は18歳、
国民投票は20歳という不合理
」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    国民投票法の改正にしても、選挙権の18歳への引き下げにしても、市民を巻き込んで十分に議論を尽くした上で決めた、という印象はありません。後追いでつじつまを合わせる政治を許していると、矛盾がいろいろ出てきてしまいます。「美しい国、日本」よりも、「珍しい国、日本」のほうがしっくりくる現状に、笑えない気持ちになります。

  2. 多賀恭一 より:

    東京都知事選挙が近いようです。
    小林節氏には都知事選挙に出てもらい、
    新党「国民怒りの声」の参議院選挙参戦による、護憲勢力の分断を止めてもらうべきです。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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