立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 一昨日(9月26日)、臨時国会が召集されました。2カ月間の会期中、焦点となるのは第2次補正予算の成立とTPP協定の承認です。しかし、最近、輸入米の価格に「調整金」が支払われ、国産米と同じ水準の価格に維持されていたとされる、輸入米価格偽装の問題が明らかとなりました。輸入米を「高値」に見せかけていたわけです。TPP論議の入り口、土台を壊しかねない事実が発覚したことにより、政府・与党は今後、相当厳しい国会運営を強いられることになります。

 他方、私は、臨時国会の重要論点として、政府が11月、国連平和維持活動(PKO)で南スーダンに派遣する陸上自衛隊の部隊に、新しい任務として「駆けつけ警護」を付与しようとしている件に着目しています。自衛隊の任務に対し、国会がどのように監視していくのか、その制度づくりがまもなく始まります。この件に関し、私が知る限り、日経新聞だけが細々と報じています(
※)。

※日本経済新聞電子版(2016年9月26日0:02配信)
「自衛隊新任務、国会に監視機関 自公が近く準備会合」

5党合意に基づき、“新組織”の検討が始まる

 政府はもともと、PKOにおける駆けつけ警護は、憲法9条1項が禁止する「武力の行使」にあたると解釈してきましたが、2年前、解釈変更を大胆に断行し、一転して容認に転じました。昨年、安保関連二法の整備の中で、PKO法の改正を以て、駆けつけ警護が認められたことは、周知のとおりです。

 憲法解釈変更の是非、新たな憲法解釈に基づく法整備と現場(陸自)の運用の是非については、まだまだ議論を続けていかなければなりません。もっとも、この臨時国会では、昨年9月16日の「平和安全法制についての合意書」(自民、公明、元気、次世代、改革)の最後(9.)に書かれている部分、すなわち「平和安全法制に基づく自衛隊の活動に対する常時監視及び事後検証のための国会の組織のあり方、重要影響事態及びPKO派遣の国会関与の強化については、本法成立後、各党間で検討を行い、結論を得ること」との合意内容に従って、国会に監視・検証機関が作られようとしています。この国の平和主義、民主主義を守るためにも、国民の側から国会の議論の行方をしっかりとチェックしなければなりません。

特定秘密の壁が立ちはだかる

 日経新聞が報じたところによると、「自公両党は衆参両院に非公式の新機関を設け、特に任務遂行中と終了後の検証機能を軸にすることを想定」とあります。与党がイメージする「非公式の新機関」がどのようなものか明らかではありませんが、特定秘密保護法が施行されている以上は、特定秘密の提示を受けたり、指定、解除等を監視したりする情報監視審査会(衆・参)との一体的運用を、欠かすことのできない条件として考慮しなければならないはずです。

 しかし、現に設置されている情報監視審査会でさえ、「省秘」とされている自衛隊の部隊行動基準(ROE)について、この1年半、防衛省から具体的な説明を受けたことがありません。衆議院情報監視審査会年次報告書(2016年3月30日)でこの点が指摘されているものの、その後何ら進展はなく、半年が過ぎています。こんな状況で、情報監視審査会とは別に「非公式の新機関」を置いて、政府から十分な情報が開示されるのでしょうか。その他、特定秘密の壁が立ちはだかる中、自衛隊員のリスクを的確に把握しつつ、民主的な統制を図ることができるのでしょうか。私は、甚だ疑問に思っています。

 南スーダンPKOの派遣は、ことしに入って、繰り返し報じられていました。前記の5党合意に基づく国会監視の問題は、立法課題としていずれ現実化することは分かっていたはずです。新たな監視・検証機関をどのような形で作るにせよ、その前提として、情報監視審査会の足腰を鍛え、使える機関に制度改良をしておくべきでした。しかし、ことし6月、通常国会が閉じ、参議院選挙を挟みながら、国会はずっと閉会中になり、情報監視審査会がまさにカレンダー通り、「開店休業」に入っていたのです。国会閉会中にこそ、地道な監視活動を積み重ねるべきであったのに、経験値が上がらないまま今日を迎えています。

 本題は、根本的には、情報監視審査会の運用の為体(ていたらく)の問題です。情報監視審査会との関係で、新たな監視・検証機関の立ち上がり、方向性がどうなるのか、メディアももう少し関心を持っていただきたいと思います。このままだと、理念どおりにはいかず、情報監視審査会以上に、単なる「お飾り」となってしまうでしょう。

 国会は、政府のお墨付き機関ではありません。PKO派遣を中止し、部隊を日本に戻す、ストッパーとしての役割を果たせるかどうかがカギです。日本の自衛隊は、その前身を含め71年間、銃撃戦を行ったことがありません。

 年明けには衆議院の解散、総選挙が噂されています。野党は、来週からの予算委員会でしっかりした論戦ができるのでしょうか。

 

  

※コメントは承認制です。
第104回 駆けつけ警護の監視・検証に、国会は向き合えるのか?」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    情報監視審査会がきちんと運用されていないという問題については、この連載でも何度か指摘されてきました。「非公式の新機関」も名ばかりの存在で終わりかねません。そもそも混乱した情勢が伝えられる南スーダンでの任務に「駆けつけ警護」を付与することは現実的な判断なのでしょうか。自衛隊員の生命を大きなリスクにさらすことになります。議論も体制も不十分なまま、ずるずると進めさせてはいけません。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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