立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 日本の国会は、2007年から2016年までの10年間、年平均で243.8日開かれてきました(注:土日祝日を含みます)。ちょうど、一年の3分の2にあたります。外国の国会と比べても、開会日数が少ないとはいえません。
 しかし、最近では、TPP協定承認議案、(カジノを含む)IR法案がそうであったように、委員会の強行採決、野党の審議(出席)拒否、審議時間のカラ回し、大臣の発言による混乱など、私たち国民には、国会運営のネガティブな印象しか残っていません。国会を長く開いている割に、法案審議を尽くして採決に至るという、ポジティブな立法の様子をイメージできないのは、ひとえに、国会運営の拙さが日常化していることによるものでしょう。
 私は「日程闘争中心主義」と言っていますが、国会運営を司っている各党幹部クラスの主たる関心が、審議の内容ではなく、「日程」にあることも見過ごすことができません。日程闘争の煽りを受けて、良い内容の質疑ができなくなることさえあります。
 議事に混乱が生じると、いつも、与党は「野党が悪い」と言い、野党は「与党が悪い」と言います。与党vs野党の構図で、お互い、責任をなすり合うわけです。しかし、国会運営は例外なく、与野党の協議に基づいて進められます。客観的にみれば、国会運営の拙劣、失敗は常に、与党・野党双方に責任があります。与党・野党どちらも「両成敗」にし、責任を取らせることができるかどうか、今や私たちの「主権者力(⇔国会を監視する眼)」が問われていると思います。

5年ぶりの議会制度協議会

 第192回臨時国会は15日(木)、事実上の閉会となりました。最後の最後まで国会運営の機能不全ぶりを見せつけられて、私の頭の中は悶々としていました。そんな中、22日(木)、衆議院議長の諮問機関である「議会制度に関する協議会」が、2012年1月以来、5年ぶりに開催されました。端的に言うと、大島理森衆議院議長が各党の代表者に号令をかけ、先の国会の「反省会」を催したのです。拙い国会運営をこれ以上続けられないと、大島議長は的確な政治判断を下したと私は思います。
 残念なことに、当日、新潟県糸魚川市で大規模火災があったため、協議会の件はさほど大きなニュースにはなりませんでしたが、毎日新聞が比較的詳しく報じてくれていますので、ぜひ、こちらの記事をご覧ください。

 (毎日新聞)2016年12月23日配信:大島衆院議長「審議の充実策報告を」与野党に猛省促す

 記事にありますように、大島議長は、第192回臨時国会に関する「所感」(文末に掲載)を示しつつ、法案の審議を充実させるための方策を来年(2017年1月召集)の通常国会までに報告するよう、与党・野党双方に指示をしました。
 「猛省促す」との見出しが目を引きます。協議会は20分ほどで終了したようですが、重苦しい雰囲気のなか、大島議長の厳しい一言ひと言が、各党の代表者に伸し掛かったのではないでしょうか。「国民の負託に応える気概はあるのか!?」。私には、大島衆院議長のボヤキが聞こえてきます。

与党・野党による公開協議の場を

 大島議長の指示を受け、各党は、法案の審議を充実させるための方策を、あと1カ月弱の間にまとめて報告しなければなりません。年末年始をはさんで、与党も野党も意見集約は大変でしょうが、議長指示には真摯適切に従っていただきたいと私は思います。
 生意気な言い方になりますが、与党・野党は公開の協議を行って、提案と譲歩を重ね、合意を整え、全党連名のもと、一本の報告にまとめ上げるべきです。各党が個別に策を絞るだけでは、それぞれの立場を前提とした一方的な態度表明になってしまうので、何の解決にもつながらないからです。
 ここで、私からの提案です。国会閉会中ではありますが、衆議院議院運営委員会で、国会改革に関する議員間討議(自由討議)を行ってはどうでしょうか。古い話ですが、1992年6月4日、衆議院議院運営委員会(中西啓介委員長)において、メディア・フルオープンで、このような自由討議が行われたことがあります(…実現すれば、25年ぶりとなります)。当時、宮沢内閣の下、PKO協力法案をめぐって国会運営が大変な混乱をもたらした状況でしたが、今から思えば、与党・野党が対立を超えて、一つのテーブルを囲む空気は残されていたのでしょう。
 翌1993年6月15日の衆議運委でも各党間の自由討議が行われ、法案審議の充実に関する申し合わせも行われています。しかし、その3日後、衆議院が解散され、総選挙の結果、細川連立内閣が誕生しました。2009年8月にも、再び政権交代が実現しましたが、1993年6月の申し合わせの趣旨が活かされないまま、現在に至っています。議長指示による受動的な協議になるのは何とも情けない話ですが、いまこそ、議運委の自由討議をフルオープンで行い、与党・野党それぞれが、議会人としての矜持を示すときではないでしょうか。

来年は、憲法施行70年

 来年、5月3日には、日本国憲法が施行70年目を迎えます。参議院も70回目の誕生日となります。国会にとって、大きな節目の年になります。
 単なる「政治」ではなく、「立憲政治」をテーマに扱う本連載では、国会運営の拙劣、失敗に対し、さらに厳しい目で向き合っていく所存です。憲法の理念に従い、一人ひとりの権利、自由を守ろうとするならば、その時々の多数派と対峙する強い意思がなければ、与党・野党いずれであっても、議員という公職は務まらないであろうと率直に思うからです。
 2016年は、きょうを含めて残り4日となりました。読者のみなさまにおかれましては、どうぞ良い一年をお迎えください。来年も、よろしくお願いいたします。

衆議院議会制度協議会(2016.12.22)で示された、大島理森議長の所感

〈第192回国会を振り返っての所感〉
~今後の充実した審議に向けて~

〇今国会を振り返ってみるに、TPP協定やその関連法案、国民年金法改正案、IR法案などが審議に付され、それらの法案の審議内容と同時に、むしろそれ以上に審議の進め方について国民の高い関心を呼んだのは諸君ご承知のとおりである。

〇国会が言論の府であることは、改めて言を俟たない。国会議員は、国会での活発な論戦を通じて、国民の代表として国民に対する責任を果たすべきものである。

〇平成11年7月に、国会審議活性化法が制定され、さらに平成26年5月に、与野党7党国対委員長間で「国会審議の充実に関する申し合わせ」を行った。これらの目的は、立法府の責任である充実した審議を行い、国民の負託に応えるためである。

〇しかしながら、今国会における審議の実情をみると、法の精神と申し合わせが生かされていると言えるのかという疑問を感じざるをえない。

〇今国会では、審議日程をめぐり、与野党が激しく対立する場面が一度ならず見受けられた。私は、政党政治であるが故に、それぞれの会派の主張が激しく対立することを全て否定するものではない。しかし、国会議員が国民の代表として国民に対する責任を果たすためには、与野党ともども、徹底した話し合いを持ちつつ、とりわけ日程の協議については、それらの法律や申し合わせを基本に、合意形成をつくる努力をもっと行うべきではないだろうか。

〇そこで、たとえば公聴会や参考人質疑について申し上げると、かつて河野議長が採決直前の開催に疑問を示され、運用の改善が図られたところであるが、今一度、国民の目線を十分に踏まえることの重要性を再認識した上で、国民の意見が審議に十分反映されるよう、更なる努力を傾けるべきではないかと考える。

〇また、会期制の中で、定例日に関しては、予備日の使い方を含め、柔軟な対応をすべきであったのではないか。「つるし」(※)についても、なるべく早期に各委員会に付託できるよう、与野党間で十分に話し合いをすべきであったのではないかと考える。議員立法については、提出者が各会派に対し充分な説明を行ったうえで、理解を得る努力を行う必要があると考える。

〇さらに、今般、審議当初から「出口」に関して、日程の想定がマスコミ報道を通じて広く流布されたり、政府関係者の不用意な発言等もあり、審議過程に大きな影響を与えたとも思える。国民が納得できる充実した審議をしっかりと行い、与野党ともに合意に向けた真摯な努力をした上で、可否を決するのが議会制民主主義の基本である。

〇今会期終了に際し、国会審議活性化法及び平成26年の申し合わせの重要性に改めて思いをいたしつつ、与野党間の一層の意思疎通を図るとともに、定例日や「つるし」、公聴会・参考人質疑の在り方など今後の審議充実に向けた方策について検討を深めて、国民の代表として国民に対する責任を果たしていく必要があるものと考えている。

〇ついては、各会派におかれては、今般の私の思いを重く受け止めて、今後の審議のあるべき姿についで、しっかりと検討をしていただいた上で、その結果を次期常会の開会前までにご報告願いたい。議長として、今後の審議充実に向けた実りある成果が得られ、もって国民の立法府に対する期待に十分応えることを心から願っている。

※「つるし」=法案が委員会に付託されず放置された状態のこと

 

  

※コメントは承認制です。
第109回国民の負託に応える気概はあるのか!? 大島衆院議長のボヤキが聞こえてくる」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    去年から今年にかけて、「強行採決反対」という言葉を何度口にしたでしょうか。おかしなことが常態化しつつある国会をみていると、「国民の負託に応える」という役割など忘れてしまったのではないかと思わざるを得ません。こうした大島議長のような声が、もっと多くの議員から自発的にあがってほしいものだと思います。

  2. L より:

    問題意識は正しいと思うが、与野党の力関係は段違いなのだから「妖怪どっちもどっち」になってはダメ。日程闘争が何のことなのか説明がないけど、力が極端に足りなければできることは手続き論の組み手争いでなるべく土俵での四つ組を避けるのは数の力で瞬殺されたくなければ当然。審議という土俵に上がれば、質問時間は短いわまともに答えないわ、サッカーのようにずっと時計を見ていやがるわで最後はアレコレの段取りを数でぶっ飛ばしての強行採決。
     というわけで、若い法律家に目立つ気がするけど、力関係がきちんと見えない、不平等、組み込まれた不公正を見ない、重視しない「フラットな権利観」を感ずる。
     責任の重さは権力の強さに比例するのは当然ですよ。

     もちろん、野党にも責任なり罪がある。それは対与党というより、野党内の問題。つまり、民進で顕著なように本当はTPP,カジノ、刑訴法改悪、集団的自衛権、秘密法など、安倍政権の政策に賛成であるにもかかわらず、政権党でない野党なので非与党支持の有権者にアピールするために反対ぶりっこをしているというところにある。だから、国会の内外で腰を入れて安倍自民と対峙できず、八百長よろしく腰砕けであり、アリバイの反対ぶりっこになる。
     こういう部分を踏まえて政治を見ないと、上面の上滑りの細かい技術論や書生的制度論になるのでは。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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