立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

 学校法人森友学園に対する国有地払下げ問題について、連日、新たな事実が明らかになっています。きょう(1日)までに判明した事実だけでみても、財政法9条1項、学校教育法11条ただし書、教育基本法14条2項違反は言うまでもなく、残土の埋戻し問題は、当該場所にその旨の表示義務を怠っている点で、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則8条1号の規定に違反しています。法令違反の新たな事実は、今後も増えるかもしれません。論点を整理するだけでも大変ですが、全容の解明に向けて、衆議院、参議院はその国政調査権をフルに活用し、国民の知る権利に応えるべきです。

〈財政法〉(昭和22年3月31日法律第34号)
9条1項 国の財産は、法律に基く場合を除く外、これを交換しその他支払手段として使用し、又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。違反
2項 (略)

〈学校教育法〉(昭和22年3月31日法律第26号)
11条 校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない。違反

〈教育基本法〉(平成18年12月22日法律第120号)
14条1項 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
2項 法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。違反

〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則〉(昭和46年9月23日厚生省令第35号)
8条 法第12条第2項 の規定による産業廃棄物保管基準は、次のとおりとする。
一 保管は、次に掲げる要件を満たす場所で行うこと。⇒違反
 イ 周囲に囲い(保管する産業廃棄物の荷重が直接当該囲いにかかる構造である場合にあつては、当該荷重に対して構造耐力上安全であるものに限る。)が設けられていること。
 ロ 見やすい箇所に次に掲げる要件を備えた掲示板が設けられていること。
  (1)縦及び横それぞれ60センチメートル以上であること。
  (2)次に掲げる事項を表示したものであること。
   (イ)産業廃棄物の保管の場所である旨
   (ロ)保管する産業廃棄物の種類(当該産業廃棄物に石綿含有産業廃棄物が含まれる場合は、その旨を含む。)
   (ハ)保管の場所の管理者の氏名又は名称及び連絡先
   (ニ)屋外において産業廃棄物を容器を用いずに保管する場合にあつては、次号ロに規定する高さのうち最高のもの
二~四(略)

 森友学園問題に関しては、いま、野党会派による追及がピークを迎えています。しかし、今週以降の国会日程を考えると、やや気がかりです。2017年度の政府総予算案の審査は、今週から参議院(予算委員会)に舞台を移しましたが、予算案を通過させた衆議院では、予算委員会以外の委員会が、内閣が提出した法律案の審査に入っていくため、野党会派が森友学園問題の追及に、100%のエネルギーを注げなくなってしまうのです。
 たとえば、テロ等準備罪創設法案の審査が始まれば、国民の多くの関心がそちらに向いてしまうでしょう。個々の議員の情報収集能力、情報分析能力に頼るのも、自ずと限界が生じます。また、二院制を採る憲法の立場としては間違っていませんが、与党も野党も、衆議院(議員)と参議院(議員)は別業界という意識が根強く、衆議院側にある「怒りの追及のテンション」が、そのまま参議院に受け継がれていくわけではないことに注意を要します。さらに、各メディアが、森友学園問題のニュース性をいつまで維持するのか、じつに覚束ないところがあります。
 野党会派が追及の手を休めてしまっては、結局、誰を利することになるのかは、他言を要しません。そこで私は、森友学園問題を全容解明に至るまで、継続的に調査の対象とするべく、衆議院だけに認められている「予備的調査」の制度を活用することを提案します。衆議院規則に、具体的な定めがあります。条文をご覧ください。

〈衆議院規則〉

56条の2(予備的調査)
 委員会は、審査又は調査のため、(衆議院)事務局の調査局長又は法制局長に対して、その審査又は調査のために必要な調査(予備的調査)を行い、その結果を記載した報告書を提出するよう命ずることができる。

56条の3(  同  )
(1項)40人以上の議員は、連名で、委員会が前条の命令を発するよう要請する書面(予備的調査命令発動要請書)を、議長に提出することができる。
(2項)議長は、前項の書面の提出を受けたときは、これを適当の委員会に送付する。
(3項)委員会は、前項の規定による書面の送付を受けたときは、当該要請に係る前条の命令を発するものとする(予備的調査命令)。ただし、当該要請に係る予備的調査が国民の基本的人権を不当に侵害するおそれがあると認めるときは、この限りでない。

※括弧書きは、筆者が必要に応じて記した。

要請書の提出だけで、調査は始まる

 難しい内容が書かれているように見えますが、まったくそんなことはありません。
 40人以上の衆議院議員は、連名で、「森友学園問題に関する予備的調査命令発動要請書」(仮称)という書面を、衆議院議長に提出することができます。この40人以上という数は、野党会派だけで充たすことができます。議長は提出を受けた後、その要請書を衆議院文部科学委員会に送ります。文部科学委員会はその議決により、「森友学園問題に関する予備的調査命令」を、衆議院調査局長(法制局長)に下します(与党会派は、この命令を阻止することはできません。衆議院規則違反となってしまいます)。何か月か経って衆議院調査局(法制局)による調査が終わると、その結果を記載した報告書が、文部科学委員会に提出される、という流れです。少なくとも民進党、共産党、社民党、自由党の4党は、この報告書を安倍内閣追及のための「共通の武器」とすることができます。あえて言えば、要請書を提出するだけでも、安倍内閣、政府関係者に対して、相当なプレッシャーを与えることができます。
 予備的調査は1998(平成10)年から始まった制度です。2015(平成27年)までに44件、議長に対して要請書が提出されています。中には、衆議院の解散によって命令自体が消滅したもの、報告書が未提出となっているのも数件ありますが、残りはすべて、報告書が提出されています。「平成20年 衆議院の動き」の「第6 予備的調査」という項目には、2008(平成20)年までに提出された要請書の一覧が記されています。
 ただ、2009(平成21)年の1件、2010(平成22)年の1件を最後に、きょうまでは予備的調査命令の実績はありません。政権交代の後、政治的な混乱が続いたことに加え、東日本大震災等の発災、さらにその後の政権再交代という状況で、少数会派が予備的調査権を行使する機会(場面)が結果として無くなってしまったのだといえます。7年間、一度も使われていない権利ではありますが、この森友学園問題で行使されることがなければ、その価値、意義を永久に失ってしまうでしょう。

刑事訴追を受ける前に

 衆議院規則56条の3第3項ただし書は、国民の基本的事件を不当に侵害するおそれがある場合には、委員会は予備的調査命令を発しないことを定めています。これに加えて、「刑事訴追を受けている事件については、予備的調査を命ずることは見合わせる」という各会派の申合せがあります(1997年12月11日の衆議院議院運営委員会で議決)。裏を返せば、予備的調査は、当該対象が刑事訴追を受ける前でなければなりません。
 森友学園問題は日々、展開が早いところですが、大阪地検が刑事事件としての立件を視野に入れ、初動に入ったとの報道もあります。関係者の刑事訴追も、当然想定されるところです。予備的調査は、衆議院側だけに認められている少数会派の特権です。一日も早く、然るべき手続きが執られることを願うばかりです。

 

  

※コメントは承認制です。
第113回衆議院の“予備的調査”で、森友学園問題の全容解明を」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    過去には「消えた年金問題」を扱ったこともある予備的調査。こうした制度も活用しつつ、野党は追及の手をゆるめることなく真相を明らかにしてほしいと思います。そのためには、メディアが一過性の話題にせず、きちんと取り上げ続けることも大切ではないでしょうか。それはつまり国民の関心の高さにもかかわってくるのだと思います。

  2. L より:

     非常に素晴らしい提案で感激しました。こんな方法があるなんて!
     刑訴法改悪や戦争法のように多くの問題について民進党の本音は大勢として自民党と変わらないので、「ホップ、ステップ、ギックリ腰」と揶揄されるように自民党と対決しきることがありません。
     しかし、今回の件は極右与党幹部が行政に不当な圧力を掛けたという問題なので、権力がない野党は原理的に蚊帳の外・無関係です。
     従って、日本会議メンバーを含むとはいえ民進党でも思い切った論戦・追及ができるはずです。なかなか、テレビに取り上げられない中、民進党は大阪に調査団を送って調査とともにニュースネタを提供するなど、調査・質問力を補う議場外の戦いを見せました。野党共闘を望むなら、調査、質問、論戦力に秀でた共産党に時間をバーターし、敢えて力が劣る民進議員には質問をさせないことも必要でしょう。
     とはいえ、“予備的調査”の存在を野党がだれも知らないということはないのに、なぜこの件が表に出てこないのかについては疑問です。「自民党野田派」や日本会議所属議員が抑えているのか、それとも何か月も先になるのでは「六日の菖蒲、十日の菊」という判断なのでしょうか?相手が嫌がることは小さなことでも厭わずに積み上げていくということは弱者の戦法として極めて重要だと思うのですが。小さな傷でも膿んで敗血症になるということはままあるのですから。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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