立憲政治の道しるべ

憲法によって国家を縛り、その憲法に基づいて政治を行う。
民主主義国家の基盤ともいえるその原則が、近年、大きく揺らぎつつあります。
憲法違反の発言を繰り返す政治家、憲法を無視して暴走する国会…。
「日本の立憲政治は、崩壊の危機にある!」
そう警鐘を鳴らす南部義典さんが、現在進行形のさまざまな具体的事例を、
「憲法」の観点から検証していきます。

混乱は誰の責任か

 
 12月6日夜の参議院本会議で、特定秘密保護法案が可決、成立しました。
 思えば、この法案は「重要広範議案」といって、担当の国務大臣(今回は森まさこ大臣)だけでなく、内閣総理大臣も立法府側の要求に応じて委員会に出席し、答弁するという、他の法案よりも重要度が一ランク高い取扱い(位置づけ)になっていました。
 それにもかかわらず、法案の審議が参議院に入ると、日を増すごとに委員会運営が醜悪になっていきました。さいたま市で行われた地方公聴会(4日)の後は、政府原案及び修正案の内容を超えた、「答弁の上塗り」が止まらなくなります。特定秘密が恣意的に指定、廃棄されることを排する趣旨は理解できますが、「情報保全諮問会議」「保全監視委員会」「独立公文書管理監」「情報保全監室」などという、法令上の位置づけ、権限、構成が明らかでない組織の名前が突然乱れ飛び、それらの意義・目的が明らかにされないまま、審議の混乱に拍車を掛けました。国会の中にも、これらの政府組織とは別に、特定秘密の指定をチェックする委員会を設置するという話も飛び出す始末。本来であれば、法案の「再修正」を以て、衆議院とともに審議は振り出しに戻るべきところでした。
 重要広範議案とされながら、この法案は終始、殺伐とした政局と、政党の面子に囚われた駆け引きに支配されてきました。衆議院では45時間54分、参議院では21時間54分の法案審議がされたとはいえ、衆議院段階では修正案が提出される前の「政府原案」に対する質疑が中心で、参議院段階でも肝心の法案内容の議論は深化せず、質疑が一巡したにすぎません。質疑が終局しかかったときに、前記の新たな論点が登場している次第です。
 臨時国会が閉じてしまいました。個々の議員が「質問主意書」を以て、条文・答弁の解釈を細かく問うこともできません。そんな中、特定秘密保護法は、まもなく公布されます。

詰め切れなかった論点

 
 衆議院段階では、連立与党に加えて、維新、みんなの4党で政府原案の修正協議が進み、結果として成案となったわけですが、修正したはずが、その後議論が深まることなく、手つかずで終わってしまった論点がいくつかあります。
 その一つが「国会に対する特定秘密の提供」の問題です。国会(衆参各議院の議員、会派、委員会、調査会、審査会など様々なレベルがありえます)は、(1)政府に対して「特定秘密を開示せよ」と要求できるのか、(2)要求できるとしても、政府は要求どおりに開示するのか、(3)秘密会等、特定秘密が提供されるための条件はどのようなものか、といった問題です。
 憲法上、各議院には国政調査権が認められ(憲法62条)、議員も事実上の調査権を行使します。特定秘密の管理と公開をめぐって、今後、政府と国会との間には緊張関係が生じます(とくに、野党会派との関係)。この点に関し、参議院でこそ十分な検討を行い、法的な決着(折り合い)を付けなければならなかったのですが、議論は深まらず、「検討課題」として温存されたまま可決、成立しています。
 現時点で、政府が国会側からの特定秘密の開示請求を拒否することができる、3つの理由づけが存在します。拒否できない仕組みができなければ、国民代表機関であるところの国会には、特定秘密は明らかにされません。特定秘密保護法の施行日までに、以下の問題点がクリアにならなければ、法は不完全な施行状態に陥ります。

拒否できる理由1 「内閣声明」という対抗手段

 
 国会法第104条の規定をご覧ください。
 

第104条 各議院又は各議院の委員会から審査又は調査のため、内閣、官公署その他に対し、必要な報告又は記録の提出を求めたときは、その求めに応じなければならない。
2 内閣又は官公署が前項の求めに応じないときは、その理由を疎明しなければならない。その理由をその議院又は委員会において受諾し得る場合には、内閣又は官公署は、その報告又は記録の提出をする必要がない。
3 前項の理由を受諾することができない場合は、その議院又は委員会は、更にその報告又は記録の提出が国家の重大な利益に悪影響を及ぼす旨の内閣の声明を要求することができる。その声明があつた場合は、内閣又は官公署は、その報告又は記録の提出をする必要がない。
4 前項の要求後10日以内に、内閣がその声明を出さないときは、内閣又は官公署は、先に求められた報告又は記録の提出をしなければならない。(下線:筆者)

 第1項には、各議院、委員会の調査権を定め、第2項では、内閣がそれを拒否する理由を疎明(=「言い訳」と考えていただいて構いません)しなければならないとしています。そして、第3項では、内閣の疎明を国会側が受諾できないときには、「内閣の声明」を要求することができるとしています。内閣の声明が発出されたことを以て、「(野党)情報を出せ」、「(政府)いや、出せません」という押し問答に決着を付けるという仕組みです。
 たとえば、衆議院の安全保障委員会、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会などから「特定秘密」の提供の要求を行っても、政府側は「これをオープンにしてしまうと、外交上支障が出るので開示できません。ごめんなさい」という声明を出すことにより、国会は最後の対抗手段を失うことになってしまいます。
 とりわけ、特定秘密に関しては、第3項の「国家の重大な利益に悪影響を及ぼす」ことの該当性が強調され(特定秘密のすべてが該当するとも読めます)、内閣声明が濫発されるおそれがあると考えます。いずれにせよ、国会法第104条は現行のままでは、特定秘密に対しては為す術がない状態に置かれてしまいます。
 

拒否できる理由2 「秘密会」に関する規定の未整備

 
 国会に対する特定秘密の提供に関しては、国会側で特定秘密が漏えいしないよう、必要な措置を講ずることを以て、政府から提供されるというスキームになっています(特定秘密保護法第10条及び附則第10条)。
 政府原案では、わかりやすく言えば「国会で然るべき措置(その基準と内容は、政府が決定する)を講じ、安全保障上、支障がないと政府が判断するときには、議員連中に見せてやってもいい」という上から目線の、高飛車な規定になっていたところですが、国民代表機関であり国権の最高機関である国会と政府との関係を逆転しかねない発想に立った規定ぶりであるとして、伊吹衆院議長をはじめ、党派を超えて問題視する声が上がっていました。修正案は、この批判を受け入れ、特定秘密の管理を担保する措置は、あくまで国会側が自律的に制度化するという書きぶりに改められています(修正後の本則第10条)。私も、この点については肯定的に理解しています。
 とはいえ、国会において特定秘密を保護する措置が講じられなければ、制度としては功を奏しません。
 冒頭申し上げた、「検討課題」として温存されている条文があります。附則第10条です。

(国会に対する特定秘密の提供及び国会におけるその保護措置の在り方)
附則第10条 国会に対する特定秘密の提供については、政府は、国会が国権の最高機関であり各議院がその会議その他の手続及び内部の規律に関する規則を定める権能を有することを定める日本国憲法及びこれに基づく国会法等の精神にのっとり、この法律を運用するものとし、特定秘密の提供を受ける国会におけるその保護に関する方策については、国会において、検討を加え、その結果に基づいて必要な法制上の措置を講ずるものとする。(下線:筆者)

 前段部分は、憲法の理念にも触れつつ、運用の指針を説いています。後段部分は、これを受けて、国会が特定秘密の保護措置を講ずる(国会法、議院規則の改正)ということになっています。しかし、本来であれば、附則の検討事項に落とし込むのではなく、特定秘密保護法の制定と同時に、国会法等の改正を行うべき事柄であるはずです。
 また、附則に明記したからといって立法上必ずしも解決したことにならないことは、憲法改正国民投票法の「3つの宿題」(附則の検討事項)が6年半以上にわたって放置され、不完全な施行状態に陥っていることからも証明済みです。
 附則第10条に関する保護措置が未整備だということを理由に、政府は特定秘密の提供にネガティヴになるのは火を見るより明らかです。そもそも、特定秘密の提供を熱心に要求するのは、与党ではなく、野党の側です。与党の側が、野党を利するような国会法等の改正にアクセルを踏むとは、通常は考えられません。
                       

 
 さらに、国会における保護措置とは、一体どのようなものかが問題となります。
 法案審議の間、「秘密会」という言葉が何度も聞かれました。憲法57条1項ただし書に「秘密会」という文言が出てきます。これは、衆参の本会議を秘密会として行う場合の規定です。しかし、憲法施行後、衆参の本会議で秘密会が行われたことはなく、この条項は空文化しています。実際、特定秘密が、所属議員のすべてが出席する本会議の場で審議されるというのは政治的に想定しづらいといえます。
 他方、国会法52条2項は「委員会は、その決議により秘密会とすることができる」と定め、前記のような衆議院の安全保障委員会、北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会などを、委員会の決議(出席議員の過半数の賛成による)秘密会とし、特定秘密の提供を受けるということが考えられます。
 しかし、特定秘密保護法の立法趣旨からして、現行の国会法52条2項の規定は不十分なのです。なぜなら、これは委員会の議事を公開しないとすることができる根拠条文にすぎず、政府から提供される特定秘密が院外に漏えいしないということを担保するものではないからです。たとえば、衆議院の安全保障委員会を秘密会で開き、特定秘密の提供を受けた場合でも、情報に触れるのは議員だけではありません。委員会の運営・調査にあたる職員、速記部の職員、秘書など、様々な関係者がその場に居合わせます。国会関係者をすべて排除するのか、限定するのか、特定秘密の提供を受ける場合を想定し、細目を定めるというのが特定秘密保護法附則第10条の趣旨です。
 さらに言えば、委員会単位で特定秘密の提供を受けるという前提に拘ることなく、委員会の委員長、与野党の筆頭理事の3名に限定して、委員長室内でインカメラ審査を行うということも考えなければならないでしょう。国会法制上、今までこのような検討が行われたことはありませんが、逆にいえば、このような保護措置が、特定秘密保護法の施行日(公布日から1年以内に政令で定める日)までに本当に間に合うのか、という根本的な疑問が生じます。政府・与党の側からすれば、保護措置に関する国会法等の改正が行われないほうが、特定秘密を外部に出さずに済むので、好都合なのです。

拒否できる理由3「院外免責特権」の壁

 
 政府が国会に対して特定秘密の提供を拒否する最大の理由と思われるのが、憲法上、国会議員に保障された院外免責特権の存在です(憲法51条)。秘密会で得た特定秘密に関する情報を、自身のブログやフェイスブックで紹介してしまったり、委員会質問のさいに、内容についてうっかり触れてしまったりした場合、本来なら特定秘密漏えい罪(特定秘密保護法第23条第2項)に該当し、5年以下の懲役が科されるところ、国会議員には前記の院外免責特権があるので、刑事制裁を受けることがありません。つまり、国会議員は特定秘密に関して責任を問われないのだから、秘密漏えいの歯止めが利かず、そもそも開示しないほうがいいという判断に、政府は傾きがちになるという懸念が残されています。
 院外免責特権は、憲法上に根拠を有します。法律や運用のレベルで、これを制約することは許されません。 
 もっとも、院内では免責特権の効果はありません(憲法51条の反対解釈)。国会議員が故意・過失により特定秘密を漏えいしてしまった場合の懲罰事犯(憲法58条2項本文後段)に関し、除名、登院停止などの処分を各議院が行うことになります。この点のルールづくりがこれから始まるということです。衆議院はもちろん、修正案の審議が中心だった参議院の過程でもこのような問題意識が共有されていたという印象を受けませんでした。
 特定秘密に関する情報が漏えいしないよう、議員の活動を制約するかたちで、国会法上、様々な規定を設けることが今後検討されると思います。そのような措置を講ずることは憲法51条が定める院外免責特権条項に違反しないという、為念的な憲法解釈を確立する必要が出てきます。

附帯決議がなく、議論の足跡が残らない

 
 特定秘密保護法には、衆参の特別委員会においていずれも附帯決議が付いていません。通常、重要広範議案のような閣法の場合には、衆参の委員会審議を通じて明らかになった論点、留意すべき課題等を、委員会の附帯決議として残す(その多くは、全会一致で行われます)ことがよく行われますが、今回はその足跡が残っていません。それもそのはず、衆参の特別委員会の審議は、与党議員による「審議打ち切りの動議」に基づき、強行的に質疑が終局し、採決に至っています。法案審議をいつ終わらせるかという「出口戦略」に関わりますが、与野党間で附帯決議をめぐって穏便な協議は一切なされなかったという事情があります。
 本来であれば、特定秘密の指定と解除に係る「検証監察機関」(附則第9条)の在り方、刑罰法規の厳格な運用など、重要な論点に関して附帯決議が行われるべきであったと考えます。法律が成立した後に、冒頭で触れた様々な機関名が示されたりするというのは、いかに法案審議が不十分であったかを自ら立証するものです。
 私はここまで無造作に論点を並べてきましたが、一つひとつ与野党で合意を図っていかなければ、永久に解決しません。与党サイドが「必ずやります」と言い続けながら長期間放置されている、一人一票の選挙制度改革、国民投票法制の宿題解決、然りです。
 特定秘密保護法が施行されても、国会に特定秘密が提供できるスキームがないというのでは、施行状態としては不完全です。早晩、特定秘密保護法制は不完全な施行状態に陥るというのが私の見立てです。

**参考記事**
毎日新聞「秘密保護法案:ドタバタぶり露呈…参院委審議」2013-12-04配信

 

  

※コメントは承認制です。
第34回 特定秘密保護法 政府が、国会の開示要求を拒否できる “3つの理由”」 に1件のコメント

  1. magazine9 より:

    一つの論点だけを取り上げてみても、あまりにも手付かずの課題が山積みの特定秘密保護法。十分な論議がなされないまま、とにかく成立へと強引に突っ走った結果なのでしょう。政府はすでに、公布を今月13日と決定しており、施行はそこから1年以内とのこと。「成立してしまったから終わり」ではなく、引き続き注視・監視しつつ、声をあげていきましょう。

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南部義典

なんぶ よしのり:1971年岐阜県岐阜市生まれ、京都大学文学部卒業。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。国民投票法に関し、衆議院憲法審査会、衆議院及び参議院の日本国憲法に関する調査特別委員会で、参考人、公述人として発言。著書に『[図解]超早わかり 国民投票法入門』(C&R研究所)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック』(共著・開発教育協会)、『動態的憲法研究』(共著・PHPパブリッシング)、『Q&A解説・憲法改正国民投票法』(現代人文社)がある。(2017年1月現在) →Twitter →Facebook

写真:吉崎貴幸

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