2016年 参院選挙を考える

今度の参院選の争点にはほとんど挙がっていませんが、「女性の人権」や「ジェンダーバランス」について、どの党が大切に考え、真剣に取り組もうとしているかは、やはり気になるところです。それはひいては、女性活躍や少子化対策ということにもつながる、日本社会の未来をどうするかを考える、重要な視点だからです。参院選挙直前の今回は、「マガ9鼎談:女性の生きづらさ、男性の生きづらさ」においても、ジェンダーアンバランス社会の問題点について鋭い指摘をしていただいた、勝部元気さんより寄稿をいただきました。

●投票前に思い出すべきは、自民党政治家の「ウーマンヘイト」

 女優の広末涼子氏が、これまでメディアから受けてきた様々な育児放棄バッシングに対して週刊誌のインタビューで反論をしたことが、話題となっているようです。彼女のケースに限らず、女性芸能人が子どもを預けて何かをしていると、それだけですぐ「育児放棄だ!」というバッシングが飛んでくることは少なくありません。

 もちろんこれは芸能人に限った話ではありません。たとえば、子どもが何かトラブルに巻き込まれた時も、親としての管理責任は、本来男女関係無く対等に課せられるもののはずなのに、「母親は何をしていたんだ!」と、父親よりも母親が激しく責められることは少なくないはずです。

 子どもがいない場合も同様です。たとえば、学生団体SEALDsのメンバーである福田和香子氏はインタビューで、男性へのバッシングと違って女性である自分には性的な誹謗中傷ばかりだったということを述べています。このような「ウーマンヘイト」の被害に遭った人もいるのではないでしょうか?

 女性であることでヘイトに遭う。そのような「ウーマンヘイト」は以前からあったものの、近年は日本会議という女性差別・女性蔑視思想の強い政治団体が政治や教育の世界で影響力を増していることや、インターネットの発達により同じような女性差別・女性蔑視思想の人々が集まりやすくなってその思想を強めて原理主義化していることにより、次第にヘイトが発生する機会が増えて行っているように感じます。     

 また、ヘイトを口に出すばかりではなく、ヘイト思想を実際の行動に移す人も現れています。たとえば、女性専用車両を男性差別だと反対するためにわざと乗り込んで嫌がらせをする人たちはその典型例でしょう。許すまじき行為であり、一刻も早く女性専用車両を法制化することで対応するべきでしょう。

 一方で、今年の5月にはヘイトスピーチ規制法が成立しました。もちろん内容は不十分ではあるものの、他民族に対するヘイトに関してはようやく政治的課題として取り上げられるようになったわけです。ですが、上記のような「ウーマンヘイト」に関してはいまだに政治の問題として取り扱われていません。なぜ、「ウーマンヘイト」に関して、政治は対策を進めないのでしょうか?        

 これには大きく2つの理由があると考えています。一つは国会議員のおよそ9割が男性であり、「ウーマンヘイト」の被害の多さや、ヘイト被害を受けた時の精神的損害の大きさ等に実感が無い人も多いからでしょう。

 いわゆる「リベラル」で男女共同参画社会に対して親和性の高いと思われているような人たちですら、ジェンダー関連のヘイトの話となると何が問題なのか全く分からないという人は少なくありません。これは全政党に責任があると考えています。

 2つ目は、政権与党の自民党の中に、「ウーマンヘイト」を行う政治家が後を絶たないために、対処に及び腰になっているからではないかと考えられます。

 思い出して頂きたいのですが、キリが無いほど自民党議員や関係者による「ウーマンヘイト」が相次いでいます。ここ1年程の間に報道によって発覚した女性差別または女性蔑視の発言例や行動例をあげてみましょう。

1.赤枝恒雄衆院議員(比例東京)「進学しても女の子はキャバクラへ」
2.長崎幸太郎衆院議員(山梨2区)「ソープ嬢は不潔」
3.菅原一秀衆院議員(東京9区)「25歳以上は女じゃない」「子供を産んだら女じゃない」
4.大西英男衆院議員(東京16区)「巫女さんのくせに」「誘って札幌の夜に」
5.乙武洋匡氏(立候補せず)不倫を妻にも謝罪させる。妻が母になったから不倫したと説明。
6.山田宏参院議員候補(全国比例)「生んだのはあなたでしょう、親の責任でしょ」(※不倫・隠し子が発覚)
7.平沢勝栄衆院議員(東京17区)「(『保育園落ちた日本死ね』のブログに対して)「一体誰が書いたんだよ、それ!」「本当に女性が書いた文書ですか?」
8.宮崎謙介元衆議院議員(京都3区)育休を取って不倫が発覚して議員辞職
9.溝手顕正参議院議員会長「(上記の不倫報道を受けて)羨ましい人もいるんじゃないの」

 ベストナインが完成してしまうほど、「ウーマンヘイト」のオンパレード状態です。自民党の中にも大変素晴らしい政治家もいるとは思うのですが、このような発言があまりに多い現状や、女性差別・女性蔑視思想の強い日本会議の影響力が自民党内で強まっている現状では、自民党が勢力を伸ばすことに大変な危機感を抱いてしまいます。

 なお、「ウーマンヘイト」をしているのは、自民党の議員だけではありません。おおさか維新の会の顧問を務める橋下徹氏も、2016年5月に発覚した沖縄女性遺棄事件について、3年前に提案した「性犯罪予防としての風俗活用案」を再び持ち出して、「やっぱり撤回しない方がよかったかも」と述べております。これも職業を限定した「ウーマンヘイト」の一種だと言えるでしょう。

 以上、政治家による「ウーマンヘイト」の問題を見てきましたが、失言というのはしばらくすると忘れてしまいがちです。ただし、政治家による「ウーマンヘイト」の場合、その人の本心が浮き彫りになって口から出た場合が多く、選挙の際には重要な判断材料の一つとなるように思いますので、是非投票先を決定する際に参考にして頂ければ幸いです。

●各党のジェンダー分野における政策を比較!

 さて、ジェンダー関連の失言は自民党の議員等に非常に多いということが分かりましたが、もちろんそれだけでは投票先を決めることができないと思います。では、各党が掲げているジェンダー関連の政策はどのようになっているのでしょうか?

 ということで、主要4党(自民党、民進党、公明党、共産党)の政策集を比較して、私なりにその評価を行いたいと思います。あくまで女性差別や家族のあり方等のジェンダー分野に限定した評価ではありますが、少しでも投票の参考にして頂ければ幸いです。

 おおさか維新の会に関しては、女性活躍推進関連等の「プラス面を作る対策」は記載があるものの、上記4党が触れているようなセクハラやマタハラ等の「マイナス面を解決する対策」は記載そのものが無く、ジェンダー関連の問題に対する関心はかなり希薄だと感じたので除外しました。

 さて、真っ先に結論から述べてしまいますが、ジェンダー関連の政策の充実さでは、圧倒的に民進党に軍配が上がると感じました。自民党も以前よりはジェンダー関連の問題を多く取り上げてはいるものの、全体的に対症療法的なものも多く、踏み込み不足が目立ちます。

 民進党の政策で注目すべきだと感じたところの中から、2つほど紹介したいと思います。まずは、旧民主党時代から引き続き掲げていることですが、選挙制度において女性の議員の数を増やすためにクオータ制(一定の定員を特定の属性の人に割り当てること)の導入をうたっていることです。特に自党において候補者は男女半数を目指すと公言したことは評価に値すると言えるでしょう。

 女性国会議員がひと桁しかいないことが日本のジェンダー不平等の最大の原因であると考える人は非常に多く、女性国会議員を増やすことができるかどうかは日本におけるジェンダー平等の未来を占う上で最も重要な項目の一つと言えます。昨年、カナダのジャスティン・トルドー首相が男女半数ずつの内閣を組閣して世界中の脚光を浴びました。まずは政治家自身が姿勢を示すことが何より大切だと言えるのではないでしょうか。

 次に、『売買春等における買い手を生まないための教育・啓発など、「女性の性を商品化する風潮」を変える取り組みを具体的に進めます』と盛り込んだことも大変評価できると思いました。これまで性の問題は女性を対象にした対策に限定されている傾向にありましたが、明確に消費する男性側の問題を提示したことはかなり進んだと言えます。

 国連の女子差別撤廃条約等からも散々指摘されているように、日本は性の商品化とそれによる女性のモノ化が世界で最も進んでしまっている国です。性風俗産業に関しても人口比でフランスのおよそ10倍もあると言われており、その大きさは異常です。何としてもその「暴走」を止めなくてなりません。

 これに対して性風俗産業界の一部の人から反発の声があがっているようですが、この文章は性の商品化自体を否定し、その全てを規制しようとしているわけではありません。あくまでここで問題にしているのは女性の性を商品化することが「風潮」になるまで拡大しているという日本の現状であり、マクロ的な視点での話です。

 以上、クオータ制と女性の性の商品化という2つの項目を紹介しましたが、他にも無償労働(シャドウワーク≒家事育児)の公正な評価を行うこと等、とても良いものがありました。ただ、その一方で、他党と同様に抽象的な文言が多く、おおよそいつまでにどのような手段で目標を実現するのかについて不明確なのは、マニフェスト政治が後退した負の側面だと感じました。

 ちなみに、私は働く女性の健康管理支援を行う会社をやっており、その分野に関しては自民党・民進党ともに目標設定としては及第点だと感じています。

 民進党については「リプロダクティブヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」の概念を盛り込んだこと、自民党についても「女性の健康の包括的支援に関する法律」の成立という具体的な目標を掲げていることは評価に値するでしょう。ただ、残念ながら安倍政権が法案数を絞っているために、この法案は既に何年も継続審議が続いています。一刻も早く成立されることを望みます。

●結婚の問題は全体的に踏み込み不足

 ジェンダーの分野における政策では民進党が充実しているという評価を行いましたが、各党ともに踏み込み不足が目立ったのが、前半部分でも触れた「ウーマンヘイト」に対する対策に加えて、「結婚」の問題だと思います。

 結婚をする人は右肩下がりで減少しており、3人に1人が生涯未婚という時代が到来すると言われています。結婚は個人の自由なので、結婚をしたい人が減ること自体は何の問題もありません。ですが、日本では子どもを持つ際に結婚がほぼ前提条件であるために、結婚が子どもを望む人々のボトルネックとなっている現状があり、その理由が日本の結婚の制度や文化にあるのであれば、これは変えなければならない政治的問題です。

 そもそもなぜ、結婚する人や結婚したい人がこれほど減り続けているのでしょうか? その理由のうち、最も影響が大きいのは以下の3つだと私は考えています。

(1)お金が無い(≒「北欧諸国のように子供への社会保障が充実していてお金が無くても育てられる」という環境ではない)
(2)「個の時代」の到来で赤の他人と生活を一緒にすることや、自分の生活の何かを犠牲にすることへのハードルが上がっている
(3)結婚の制度と文化に残るジェンダー不平等・性別役割分業・イエ文化への反感

 このうち、(1)については程度の差はあれ、各党が公約を掲げています。保育の充実は当然のことながら、自民・公明も幼児教育の無償化を公約に盛り込みました。民進党はそれに加えて将来大学まで無償化を広げることを視野に入れているとのことです。GDPに占める教育機関への公的支出の割合がOECD加盟国中最下位という分かりやすいデータがあるため、危機意識を持ちやすいという背景もあるのでしょう。

 ですが、その一方で、(2)と(3)に関しては、どの党もあまり具体的な対策を示せてはいませんでした。民進党と共産党が選択的夫婦別姓に対する支持を盛り込み、民進党はさらに就学以前の性別役割分担意識を固定させないための教育に言及していますが、それだけでは抜本的な解決にはならないでしょう。

 これら2つに関しては、日本の結婚の制度と文化がシステム的に時代遅れになりつつあることの表れであり、結婚の制度と文化の歴史的大転換を起こす必要があるということを示唆しています。

 自民党と公明党の公約には、結婚マッチング支援(いわゆる「婚活支援」)の文字が並んでいますが、「婚活」という言葉が登場して自治体も積極的に事業に乗り出していますが、結婚率は上昇したのでしょうか? もちろん逆に下がる一方です。

 売れないものを必死に営業したところで売れないように、悪いのは営業担当者ではなく結婚という制度を作っている商品開発担当者、つまり立法と行政自身です。結婚の制度や文化そのものに国全体でメスを入れなければならないのであり、現行の結婚制度のままでやって行こうという視点が間違いと言えるでしょう。

 本気で取り組もうと思うのであれば、欧米先進国のモデルを参考に、PACS(フランス)やサンボ(スウェーデン)のような新しいパートナーシップ制度の導入、戸籍制度から個人登録制度への移行、離婚後の元パートナーからの養育費徴収制度、離婚後共同親権の導入、独身者に対して結婚や出産に対して価値観を強要すること(マリッジハラスメント)の禁止、結婚することで発生しがちな社会的な義務やコストや圧力の徹底的な削減等を検討するべきだと思います。

 ところが、自民党の改憲草案の第24条は、問題にメスを入れるどころか、「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」と、家族の相互扶助を強制する内容となっています。現在の日本の家族に様々なジェンダー不平等・性別役割分業・イエ文化が残る中で、それを国が強制すれば、「個の時代」に生きるフラットな若者は、ますます結婚から足が遠のく人が増えるでしょう。

 おそらく婚姻制度によって結ばれた男女が作り出す伝統的(?)な「標準世帯モデル」が理想的であるという価値観が根強く残っているからだとは思いますが、これでは結果的にますます少子化はスピードアップすると思うのです。草案を作った人はそれを分かっているのでしょうか…自民党は三世代同居も推奨していますが、これも若者の拒否感は強く、進む方向が真逆であると言わざるを得ないでしょう。

 以上、ジェンダーの分野において各政党の政策集から気になるところをピックアップして評価を行ってきました。簡易版ではない政策集には、経済、財政、労働、外交、教育、地域等、様々なテーマが細かく書かれており、新たな発見があるかもしれません。時間に限りがあるとは思いますが、投票の前に是非一度自分の気になるテーマだけでも目を通してみてはいかがでしょうか?

★参考資料:各党の「公約」リンク
自民党:https://special.jimin.jp/political_promise/
民進党:https://www.minshin.or.jp/election2016/policies
公明党:http://www.komei.or.jp/campaign/sanin2016/policy/
共産党:http://www.jcp.or.jp/web_policy/html/2016-sanin-seisaku.html

(構成・写真/マガジン9)

勝部元気(かつべ・げんき)コラムニスト。1983年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に、働く女性の健康管理支援を行う「株式会社リプロエージェント」を設立し、代表取締役社長に就任。ジェンダー論、現代社会論、教育論等をテーマに、コラムニスト・評論家として、WEB媒体、雑誌、TV等での活動も展開。著書『恋愛氷河期』(扶桑社)が発売中。現在の連載は『朝日新聞社WEBRONZA』『女子SPA!』『ハフィントンポスト』等。所有する資格数は66個。

 

  

※コメントは承認制です。
どうする? 2016年参院選挙
女性活躍、少子化対策、女性の人権――本気で考えている党はどこだ? 〜政治家の「ウーマンヘイト」と各党の「公約」をチェック!〜
」 に2件のコメント

  1. magazine9 より:

    争点として大きく取り上げられなくても、ジェンダーバランスへの各党の対応はしっかりチェックしておきたいもの。それにしても、この1年ほどの間だけでも、こんなにも自民党議員らによる「ウーマンヘイト」発言や行動例があることに、あらためてびっくりです。「喉元過ぎれば…」と思わせることなく、きちんと選挙の結果につなげなくてはダメですね! 

  2. 軍師 より:

    自称・日本随一の未婚問題の専門家です。

    ウーマンヘイト発言への懸念については、賛同致しますが。
    (塩村都議問題については、両成敗との立場ですが、入っていないので)

    未婚者のうち「結婚したい」という割合が未だに大多数であるにも係らず、その原因を深く追求もせずに、結婚制度そのものを否定するというのは、勇み足に過ぎますね。
    既婚者を含め、交際相手に不自由していない人が未婚・少子化問題を語ると、ろくな話になりません。

    ちなみに、今ある婚活は行政主導のものも含めて、交際相手に不自由していない人にしか効果がありません。
    そういうものを利用しても、結婚する気さらさら無しの既婚者すら紛れ込んでいるくらいです。
    だから利用率も上がらないのです。

    このままでは憲法に「結婚・子育ての義務」(第4の義務)を入れなければならない事態になりますね。
    国家の維持のためには、個人の権利は適正に制限される事をお忘れなく。
    極端な例が戦争による徴兵ですが、命すら国によって奪われる可能性があるという事です。

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