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レポートno28
 '07年6月13日の夜、東京・東中野にある映画館
「ポレポレ東中野」に併設された「space&cafe ポレポレ」にて、ジャーナリストの野中章弘さんが主催するワークショップ「野中の眼」が開催されました。

去年は7回連続で開催されたこのワークショップ。この数年、機能不全に陥り、不信感が増すばかりのメディアに対し、ジャーナリズムはどうあるべきかを考えることを主な目的としておこなわれています。今年はこの日が今年度の第1回で、「メディアと憲法」というテーマで開催されました。

戦場報道に定評のあるジャーナリスト集団「アジアプレス」の代表をつとめると同時に、自らも長年、アジアを中心とした紛争地を飛び回って取材を続けてきた野中さん。その野中さん本人と直接交流できるということもあって、会場はジャーナリスト志望の学生を中心に若い世代で埋め尽くされていました、

野中さんははじめにこのワークショップの目的を「思想の筋肉を身につけること」と述べました。私はこのことばの意味が最初はぴんとこなかったのですが、ともかくワークショップがはじまりました。

国民投票法に対する世の中の関心は?

最初に、国民投票法の成立や憲法が今注目されていることについて、30人近い参加者がそれぞれ1人1分ずつ意見を述べました。

この1分トークで多くの人が指摘していたのは、やはり「国民投票法案についてほとんど報道されていない」「国民の関心が低い」「身近なこととしての議論がされていない」といったことでした。

また、このわずか1分という時間の中でも、大学生の参加者のひとりが
「健康で文化的な最低限の生活を保障してくれる憲法はありがたい。しかし国旗や国歌を愛せとはいうけれど、憲法を愛せとは国会議員はいわない」 と話していたり、別の大学生が
「改憲派の中に、押し付け憲法だからという意見がある。私たちは国民投票で改憲案に賛成か反対かはいえるが、結局投票する側にとっては誰が作ったかに関係なく押し付け憲法になるのでは」
などと述べていて、世の中全体としては関心が低いものの、ワークショップ参加者は非常に意識の高い人が集まっていると感じました。

野中さんは次に、それらの意見を受けて、
「実は憲法の中で問題になるのは9条だけではない。たとえば大事なものは最初に書いてあるものだが、1条の天皇に関する条項は、日本の国のかたちを決めるのに大きな意味を持っている。天皇制を認めるかどうかは別として、天皇制の問題はあまり焦点になっていない。あってもなくても人畜無害だからいいのか、それとも避けているのかということも考えてもらいたい」と述べていました。

全国紙各紙に書かれた5/3の社説を通して見えてきたもの

続いて4、5人ずつのグループに分かれ、全国紙6紙にそれぞれ掲載された今年の5月3日の社説を読んで比較するグループディスカッションをおこないました。

今年の5月27日付けの朝日新聞でまとめられていた、各紙の5月3日の社説の論旨は、
産経:「日本守る自前の規範を」
読売:「歴史に刻まれる節目の年だ」
日経:「還暦の憲法を時代の変化に合う中身に」
毎日:「平和主義を進化させよう」
朝日「地球貢献国家をめざそう」

というものでした。
私が参加したグループでは、
「日米同盟を強化することが本当に日本の国益に沿うのか」
「そもそも戦後レジームからの脱却というが、アメリカから脱却したいのか、それとも日米同盟強化なのか」
「日米同盟があったことの恩恵もある。国際的な発言力も高まった」
「日本は日本なりの個性を持って、他の先進国とは違う援助活動を積極的に打ち出してもよいのでは」
といった意見が出され、結局まとまらずに時間切れ。
各グループの報告でも、
「押し付け憲法といって改正したいという人はむしろ、押し付けた側のアメリカと一体になって憲法を変えたいように見え、その時点で矛盾している。改憲後はさらに日米同盟が強化するはずで、そうしたらますます矛盾するではないか」といったものから、「北朝鮮は攻めてくるから軍隊を持つべきだ」「いや、軍隊を持つ方が危ない」など、さまざまな意見が出されました。

そして「軍隊」を持つか否かという話から、「北朝鮮の脅威というのがオーバーに報道されすぎている気がする」「しかし丸腰というのも不安だ」という意見が出されてゆきます。
ある人はそれらの意見を受けて
「日本が丸腰になったとしても攻められるとは自分は思わない。仮に攻められたら国際的な批判は集まる。グローバリゼーションの中で日本が攻められたことによる経済的なダメージは大きいから」
と述べ、議論はさらに白熱してきました。野中さんはどの意見も否定せず、あくまで参加者同士のディスカッションを主体にして見守っていました。特に結論やまとめを出すことなく、予定時間は終了しました。

思想の筋肉をつけるということ

最後に野中さんは、
「これらの記事は、議論の根拠となっているものに対して本当に合理的、論理的に考えられているだろうか」と参加者に投げかけます。
「多くの人は誰かにすぱっと言ってもらいたい。断言されるとそれが真実であることのように思えてしまうからだ。
しかし、社説を読んだだけでも前提とされていることがたくさんある。たとえば北朝鮮は脅威である、国際貢献はもっとすべきだ、日米同盟は強化すべき、といったものがそうだ。
まず前提から疑ってみよう。根源的に考えることは時間がかかるし自分の頭だけでは困難なこともあるけれど。」と。

ここで、冒頭に野中さんが言っていた「思想の筋肉をつけること」ということばの意味がなんとなくわかったような気がしました。
平和とは何か、国の安全を守るとは何か、といったことを突き詰めて考えてゆくと、どんどん袋小路に入り、自分の考えに自信がなくなって、考えることを放棄したくなってしまいます。
しかし、逃げずに考え抜くこと、前提にとらわれずに根本から問い直す努力を続けること、そしてこのような場を活用して意見を述べ合い、考えを深めることが、「思想の筋肉をつける」ということなのではないかと実感した1日でした。

ワークショップ「野中の眼」は、今後も不定期に開催される予定とのこと。
現在ワークショップの企画委員を募集しているそうです。
興味がある方は、ワークショップのサイトからお問い合わせください。
http://nonakanome.blog68.fc2.com/

(小春)

thanks1

袋小路に入っても、逃げずに考え、
意見を述べ合うことで、「思想の筋肉」をつけていく。
そんな貴重な体験ができるワークショップ。
皆さんも参加してみては?

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